第百十四話
更に奥に進んでいくと、船の模型や小さな鏡の置いた部屋…仕掛けのありそうな部屋はたくさんあったが、扉を横にずらすとすぐに開いた。ゲームのようにトラップや仕掛けもなく気が抜けてしまうほどアッサリと進むことができて、ゲームの経験が裏目にでた僕はガッカリしていた。なにか違和感も感じるけど、もう半分くらいはきたのかも知れない。
「…ん? ここは揃ってる…。…そういえば…この床の模様って、なんなんだ?」
溢れんばかりの水が入っている瓶を持った女の人が床に描かれていた。ノスクは手帳を開いて床を見ながら前に進んだ。
「これは…精霊ウィンディーネ様だね…」
「へぇ…精霊か…。でも、なんで精霊が…。へっ、へっ、へっくしょん…」
「どっ、どうしたの? 目が真っ赤だよ!」
「いや、急に痒くなって…。へっへっへっくしょん…。みんなはなんともないのか?」
「僕達は大丈夫だよ。一旦、戻ろう…」
「そっ、そうだな…もど…。あれ…。痒みが止まった…。……やっぱり痒い! なんなんだこれ…」
不思議なことに部屋からでると、妙な痒みはおさまった。だが、もう一度部屋に入ると猛烈な痒みや痛みが襲ってくる。ステータス画面を開くと、そこには確かに書いてあった。
「…なんだよ、ネコアレルギーって!?」
「どっ、どうしたの!?」
「スッ、ストップだ! それ以上近づかないでくれ!! だっ、大丈夫! へっ、へっくしょん…。先に進んでくれ…。俺は少し離れて進むから…」
「うっ、うん…。わかったよ。でも、無理しないでね?」
この選択が数十秒後にとんでもないことになる事を僕はまだ知らなかった。泣きっ面に蜂とはこのことだろう。
「ふぅ…。おさまってきた…」
これだけ離れたらだいぶ違うな…。よし、そろそろ進むか…。
「……いや、ちょっと待てよ…」
…おかしくないか? 仮にも神様の装備をつけて呪いを受けるなんて…。
「……」
…神様の装備をつけてるからネコアレルギーぐらいですんでるのか? だとしたら神様の装備がなかったら…。いや…そもそもなんなんだネコアレルギーって…。まるで…。
「…まさか!? ノスク、止まっ!」
ノスク達が部屋からでたその瞬間、全ての床のタイルが外側から剥がれ落ちて磁石のように僕の体をどんどん包み込んでいった。まわりの床がどんどん深い闇の中に消えていき、先に落ちたランプの光はもう見えない。底なしだ。
「くっ、くそっ! まずい! 逃げられない! とっ、とべるか!? ……大丈夫そう…だな…。…とりあえずは…とりあえずはセーフぅううう!?」
安堵した次の瞬間、なにかに押さえつけられてるような強い力を感じた。とても逆らえそうにない。
「おっ、おっ、落ちるぅううー!! うっ、うわぁあああー!!!」
僕は少しばかりの抵抗をしながら、落ちるところまで落ちていった。僕は激痛で目が覚め、途切れそうな意識の中で魔法を唱えた。暗闇なのでよく見えないがかなり悲惨な事になっている気がする。
「うっ…ぐっ…リッ、リカバリー………」
しばらくすると、リカバリーのおかげでかなり痛みがひいてきた。僕は寝ながら右手を天井の方に上げ小さな火を指先につけた。どうやら体にへばりついたタイルは粉々に砕けたようだ。あの妙な力も感じない。
「まあ…考えられるとしたら、このダンジョンは…」
俺を敵と認識して攻撃してきてるって事か…。
「…ん? …なにが光ってるんだ? …なんだ…ドゥラスロールか…」
ふと横を見るとなにかが光り輝いていたので警戒したが、よく見ると僕が発動したスキルだった。今回は使い道がなかったが、今はHPが少しでもほしい。解除しておこう。
僕はステータス画面を開きドゥラスロールを解除した。HPを確認するとに元に戻っていた。
「…よし、完了」
…っていうかノスク達、影が二つあるの全然気づかなかったな。ははっ、影が二つあるなんて化物…なの…に…。
「……」
…ドゥラスロールを発動していたから……。この力を持っていたから攻撃してきたのか?
「…まさか…そういう事か…」
ここに眠ってるやつは悪魔の力をもっている…。だとしたら、ノスクの剣は悪魔の力を感じ取るのかも知れない…。だから、僕に会った時…青く光輝いたのか…。…ってことは……。
「……勇者じゃなくて、悪魔じゃねえか!」
…っていうか、かなりまずい状況だな。…攻撃されてないところをみると、ここから動かなければとりあえずは大丈夫ってとこか…。でも、脱出をしようとすれば……。
「さて、どうするか…。…んっ!? なっ、なんだ!?」
僕はさっと立ち上がった。妙な音が聞こえる。例えるならなにかがうごめいている。そんな音だった…。耳をすまして聞くとその音は、だんだんと大きくなっていった。
「まっ、まさか!? トッ、トラップか!?」
僕は空中に大きめの火を灯すとその光景に背筋が凍った。それはゆらゆらと漂っていた。
そうだ……忘れてた……。この空間に僕以外のなにかがいる…。その可能性を…。
「まっ、まさか…。これが…」
どこからでてきたのかはわからないが、数千の尻尾はだんだんと絡みあって輪になっていき僕を取り囲んでいった。まるで、獲物を逃さないように…。
「なっ、なんだ、この数…。……えっ?」




