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第十一話

 僕が悲鳴をあげると誰かも同時に悲鳴もあげた。僕は襲われまいと一心不乱にバタバタしていた。

「…きゃあああああ!」

 気がつくとスキルは解除されていた。どうやら、今の悲鳴はアリスのようだった。ドアのところに食物が入った荷物を落として立ち尽くしている。

「…戻ったのか……」

「…どうしたの?」

「…ごっ、ごめん。実は…いてっ…。……ぎゃあああ!」

 ソファーから起きあがろうとしたが腰が抜けてさっきの椅子の前に転んでしまった。

「…大丈夫? 悪い夢でもみたの? とりあえずこの椅子に座る?」

 アリスは椅子を近くまで持ってこようとしたので、僕は大声を出してアリスを止めた。

「…触るなぁああ!」

「どっ、どうしたの!?」

「その椅子には触るな! …絶対だ!! …絶対に触るな!!!」

「…えっ!? どういうこと?」

 彼女は混乱している様子だったが、僕はその数百倍混乱している自信はある。そうこうしているとドアから白猫がやってきた。

「…急に大きい声上げてどうしたんだい? 他のお客さんに迷惑なんだけどねぇ…」

「…おい、白猫! こっ、この部屋、幽霊いるだろ!?」

「何言ってるのよ…。そんなのいるわけ……」

「……あんた、彼女が見えるのかい?」

「…そこに座ってんだよ! その椅子に!!」

 そのセリフを聞いた途端に椅子の近くに立っていたアリスは震えながら一歩一歩なんとか離れようとこちらに向かって歩いていたが、段々と顔が真っ青になり僕の方にフラフラと倒れてきた。

 その後、あの猫に話を聞くと特にあの部屋でそういった事件が過去にあったわけでもなく、いわゆるいわく付きの部屋というわけではないらしい。

ただ、気づいたら勝手に住み着いていて見える人もめったにおらず、悪さもしないのでほうっておいたということだ。

 


「大丈夫か、アリス?」 

「……」

「…だめだ……。起きないな…」

 声をかけても目覚めないので僕はアリスをベッドまで運びフードを脱がして寝かした。フードを外したアリスの服装は赤色の服で可愛いというよりは、いかにも冒険者って感じの服装だった。

「部屋をかえてくれるんだろうな?」

 白猫は尻尾をたらして困ったような顔をしていた。なりやら嫌な予感がプンプンする。

「申し訳ないけど、今はどこの部屋もうまってるから無理だね…。まあ、返金は可能だけど、この時間から宿探してもあいてないと思うよ。…どうする?」

 流石に異世界デビュー初日から野宿はしたくないな…。

「…なら、仕方ないか……」

 ゲームでも実は幽霊や精霊だったなんてオチはざらにある。僕は自分に強く言い聞かせた。

「なあ、お客さん…。もしできるんなら、彼女を成仏させてやってくれないかい?」

「断る!」

 正直プレイデッドはよっぽどの事がない限りは二度と使わない。そう心に堅く決めた。…けしてビビってる訳ではない。…いや、本当の事をいうとホラー系はマジでダメなんだ。

「そうかい…残念だね…」

「……知り合いなのか?」

「いや、全く知らないよ。ただ、あんまり部屋に幽霊がいるなんていい気分はしないだろ?」

 そんな部屋を貸すなよとツッコミを入れそうになったが、僕はさっさとこの話を終わらせることにした。

「…悪いけど…今回は急ぎの旅なんだ。今度来たときに…もし、時間があればやるよ」

「そうかい? まあ、そういうことなら暇なときにでもきておくれ。…じゃあ、私は戻るよ」

 白猫は残念そうな顔をして部屋からでていった。僕は傾いたソファーを起こして、あの椅子に座っている人物を刺激しないようにゆっくりとゆっくりと音を立てずにアリスの寝ている近くに持っていった。

「うーん…。…あれ、ここは?」

「…アリス…大丈夫か?」

 アリスの方を見ると寝ぼけた顔が、だんだんと恐怖で怯えた顔に変わっていった。そして、ベッドから飛び上がると僕に抱きついてきた。

「ゆっ、幽霊は!? いまどこにいるの!? ねえ!?」

 僕は白猫から聞いた事情を説明した。そして、この時間だと他の宿もないことも…。



「…ってことらしい……」

「しっ、仕方ないわね…。…ちなみに今はどこにいるの?」

 君の後ろに…なんて冗談は可哀想だから流石にやめとこう。

「今はみえないかな…」

「そう…」

 彼女は安堵した様子で胸に手をおいた。

「そういえば…。荷物、テーブルの上においといたよ」

「あっ、ありがとう…。もう遅いわね…。今日は寝ましょう」

「ああ、お休み…」

 僕はベッドから立ち上がり、ソファーにいこうとしたが、なかなか抱きついて放してくれない。

「ねえ…。一緒に寝ちゃだめ?」

「断る!」

「お願い、お願い! 怖くて眠れないの!」

 彼女の半泣きの顔はとても可愛らしく普通の男ならおちていただろう。だが、余計なフラグはすべて叩き斬る。

「断る!」

「でも、ボディーガードでしょ!?」

「うっ…」

 …確かに一理ある。

 僕は言葉に詰まり、なにか言い訳を考えていたが、確かに危険が全くないとは言い切れなかった。

「お願い…」

「…でも、男女が同じベッドで寝るのはどうなんだろう?」

「あなたは殴れるけど、幽霊は殴れないもの…」

 …なんて…暴力的発想……。

「わっ、わかった。一緒に寝るよ。でも…間違っても…殴るなよ……」

「ぐすっ…。ありがと…」

 そして、僕達は同じベッドで寝ることになった。彼女は灯りを消すと最初こそ震えて声を出していたが、気付けば僕の服を掴んだまま眠りについていた。


「…正直寝れんな……。これは…」

 決して抱きつかれて色々なところがあたってドキドキしているわけではない。

「むにゃむにゃ…」

「こいつ…あれだけ騒いでたのによく寝やがって……。はあ…。俺もまだまだ素人だな…。…ねよ……」

 結局あまり眠れなかったが疲労はあまり感じなかった。恐らく神様の装備のおかげだろう。正直、この装備があればブラックな仕事も楽勝なんじゃないかと思い始めたが、それと同時に社畜魂が異世界に来ても抜けていないことに気付き酷く悲しくなったのであった。





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