第百九話
僕達は依頼書を確認する為、まずは酒場に戻ったが、予想通り誰も手続きはしていなかった。ノスクは依頼を取り下げると、ため息をつきながら依頼書をビリビリに破ってゴミ箱に捨てた。
「……ダメだったね…」
「……ノスク…ここで一回解散しないか?」
「まっ、まさか、アルまで!?」
「違うって…。武器やポーションなんか買わないといけないだろ? それに、あの子のこともさ…」
僕はさっきからついてきている白猫の方を指さした。白猫は酒場の入口付近の物陰から仲間になりたそうにこちらを見ている。
「まさか…仲間にするの!? …僕は反対だよ! いくら王女様だってあの脅し方はないよ!!」
「おっ、王女!? …アリス、面識はあったのか?」
「うーん…ないと思う…。…というか…猫の国の王様って…あんまりエルフの国にこないのよ…。…めんどくさがって……」
「……ノスク…間違いってことはないのか?」
「あの赤い帽子に…騎士団のマーク…。あれが噂の王女様だよ…」
「…どんな噂なんだ?」
僕が尋ねるとノスクはプンスカ怒りながら答えた。まぁ、冷静になってみると、いきなり顔面近くに剣を突き立てられたら怒るだろう。
「いい噂は聞かないよ……! 騎士団長の命令を全然聞かないらしいし…噂によると騎士団の仕事なにもしてないらしいんだよ!」
「へぇ…」
「ほんとろくでもない暴力王女様だよ! 王女様なら、もう少しお淑やかにするべきだよ…!!」
「たしかにな…」
「ねぇ…なんで私の方を見てるの?」
「べっ、別に…」
でも…そこまで悪い子には見えないし、なにか理由もあるのかもしれないな……。
「ノスク…仲間が多いほうがいいだろ? もし、本当にまずかったら帰ってもらうからさ」
「団長の命令を聞かないやつが、アルの命令を聞くなんて到底思えないよ。もう一回いうけど仕事全然しないんだよ!」
「でも、ノスクもニャートだろ…」
「にゃっ!? にゅぅー…。それをいわれたらなにもいい返せないよ…」
しぶしぶだけど納得してくれたみたいだ。僕は入口の近くに立っていた白猫に声をかけると、クールな表情とは裏腹に尻尾を左右に大きくフリフリさせていた。
「やあ…」
「先程はどうも…。偶然ですね…。こんなところで会うなんて…」
まさか…僕達が気づいてないと思っているのか…! あの下手な尾行で…。
「そっ、そうだね」
「…ところで、酒場にくるなんて仲間がまだいるのですか?」
「えっと…」
「では、私が仲間になりましょう! 私はルナっていいます! よろしくお願いします!」
「えっ!? あっ…じゃあ…。よっ、よろしく頼むよ」
話を切り出す前に先にいわれてしまったが、白猫は嬉しそうに酒場の中に駆け込んだ。まぁ…結果は同じだけど…せっかちな猫だな…。
僕は皆に話をする前に遠くから様子を見守ることにした。しかし、特に気にする心配もなく揉めてはいないようだった。まぁ…ノスクは尻尾がピクッピクッと常に動き、足がガクガク震えていたが、慣れてもらおう。
「さて…お金を渡すから…装備が整い次第、ここにきてほしい。…みんなが集合したら出発だ」
少ないながらもお金を手渡した後、アリスと共に酒場からでた。なかなかお金を受け取ってくれなくて苦労したが…。
「…ねえねえ、アル?」
「…ん?」
アリスは僕の肩をチョンチョンと叩いてきた。振り向くと両手を前にだしていた。
「…ねぇ、私のお金は?」
「…ない」
「まっいっか〜…アルと買い物にいくんだから…。私もちょっとは持ってるし…。それで、今はどこにいってるの? 武器屋、防具屋? それとも、雑貨屋?」
僕は精一杯の爽やかな笑顔で答えた。人を騙すというのは心が苦しい。いや、全くの嘘というわけでもないか…。
「特別な場所にいこうと思う…」
「とっ、特別な場所!? そっ、それって…」
僕はアリスの優しく手を握って、エスコートした。しばらく歩いていくと、目的地につき、そのでかい建物を見上げていた。




