第百七話
「…我が国の英雄達を助けていただいたのに、このような扱いをして大変申し訳ありませんでした」
「まっ、まぁ、誤解がとけたならいいよ…」
「私はなんていうことを…。姫様にもとんだ失礼を…。本当に申し訳ありません…」
「いえっ、気にしないで下さい…」
「まさか…この人がお姫様だったなんて、びっくりだにゃ…」
白猫はアリスの方を向いて深く頭を下げていると、ノスクは違う意味で驚いていた。僕はそんなノスクの反応に当然のように笑いそうになったが、アリスに睨まれて話を進めることにした。
「ははっ…ごほんっ……。まっ…俺達は怒ってないから、もう頭をあげなって…」
「いえ、そういうわけには…」
「うーん…。それに頭を下げる必要なんてないと思うよ…。ハンカチの件は仕方ないにしろ…もう一つの方は…。いっ、いだだだだ! …アリス、アリスさん!?」
アリスは僕の背中を思いっきりつねったまま胸に手を当てて、しおらしい表情で白猫に話しかけた。
「そうです…。頭をあげてください…。謝るのは私の方…。私が嘘をついたのが悪かったのです。初めから、説明していれば…。本当にすみません…」
「なんて…慎ましい方…。流石、エルフの国の王女様…。おてんばというのは悪い噂に過ぎなかったのですね…」
「はい…。皆さん、そうおっしゃります。ふふっ…。アルもノスクさんもそう思いますよね?」
「そっ、そう…。アリスはとてもお淑やかで……」
「にゃははは! アル、なにいってるんだよ! あのミートボールの食べっぷりみてなかったの!?」
ノスクは腹を抱えて笑っていた。僕は力強くなる指の力に焦りを感じて、ノスクを呼び寄せた。
「ノッ、ノスク…! 背中に虫がついてるんだ…。とってくれ…」
「…えっ? お姫様にとってもらいなよ?」
「アッ、アリスは虫が苦手なんだ! …頼むよ!」
「…私が取りましょうか?」
「いやっ、いいんだ! ノスクの方が取りやすいんだ!」
「そうですか…?」
「全く…。虫なんかで、しかたない…にゃ……」
必死に訴えかけるとノスクは僕の方へ近づいてきた。ノスクは僕の背中を見て、ピシリッ固まっていた。
「ノスク、取り方はわかるな…。お前にしか取れないんだ…。静かにお淑やかに取るんだ…。…わっ、わかるな?」
「わっ、わかったにゃ…。…よっ、よいしょ! …とっ、とったにゃ〜! もう、大丈夫…。でも、近くで見ると…お姫様は可憐でお淑やかで…すっ、すごく美しいにゃ〜!」
「ありがとう…。でも……」
アリスはノスクの耳元でなにかをつぶやいていた。おそらく、恐ろしいことだろう。ノスクの尻尾がプルプルと震え上がっでいた。
「りょ、了解ですにゃ…」
「…っていうか、あなたがあのノスクだったのね! なぜ、エルフの王国からきた客人だといわないんですか!?」
「いっ、いおうとしたにゃ! いおうとしたら、壁に剣がぶっ刺さったからなにもいえないじゃないかにゃ!」
「……すいません」
…でも、あの三匹の猫が英雄ってどういうことだ? 聞いてみるか…。
「…なぁ…さっきの英雄っていうのはどういう意味なんだ?」
「…僕が小さな頃の話なんだけど、この国に恐ろしいモンスターが現れたんだ…」
「…それで?」
「この国を支配しようとしていた…そんな恐ろしいモンスターをその三兄弟と僕の父さんが協力して倒したんだ」
「なるほど…。…っていうことは、ノスクは英雄の息子なの?」
「まあ、そうなるけど…。その呼び方は嫌いなんだ…」
ノスクは目を細めて少し嫌そうな顔をした。あまり触れて欲しくはなさそうだ。
「そうか…。悪い…」
「うん…いいんだ…。それで続きを話すとね…。そのモンスターの正体って、実はこの国の大臣だったんだ」
「…それで?」
「僕の父さん達はこの剣のおかげでいち早く大臣の正体に気付いたんだけど…。大臣が実はモンスターって急に言いだしたら周りの目はどんなふうだったか想像できる?」
「…変なやつとか?」
「…アル!」
僕はアリスに注意されて、すぐに謝った。つい、ゲームのような展開に無神経に言ってしまった。ノスクの方を見ると顔が暗くなっていた。
「ごっ、ごめん…」
「いいよ…。実際そうだったんだ。周りの皆は冷たかった…。父さんは牢屋にだっていれられた…。それでも父さんはそんな皆を守る為に戦ったんだ。それで…父さんは…」
「…どっ、どうなったんだ?」
まっ、まさか、死んだんじゃないよな…。やばい…聞かないほうがよかったか…。
「その時の怪我が原因で戦えなくなったんだ…。僕が子供の時に、この剣を受け継いだのもそういう理由さ…」
「そんな理由があったんだな…」
「うん…。周りの奴らは大臣がモンスターだとわかった途端に、態度を急に変えて英雄だとか持ちあげていたけど、僕はそんな奴らが許せなかった…」
「……」
確かにひどい奴らだ…。
ノスクは更に暗い表情をして、歯を食いしばって拳を握りしめた。その表情は段々と憎しみに変わっていき、恐ろしい顔になっていくのを悟った僕は固唾を飲んだ。
「こいつらのせいで子供のときから地獄のような修行をさせられた…。僕は父さんに反対されたけど…いつか仕返しをしようと思っていたんだ…」
「まあ…そうだろうな…」
「そして…そう思っていたある日…。朝、目覚めたら補助金がでてたんだ」
「…えっ?」
「僕は…補助金がでた日に決めたんだ! こいつらが必死で必死で毎日働いて払った血税で最高のニャート生活を送るって…!」
…クズ猫じゃねえか! …きっ、気持ちはわかるけど……。仕返しのスケールがクズ猫の発想なんだよなぁ…。まあ、これぐらいの仕返しなら可愛いもんか…。




