第百六話
「ねぇ…あの子…大丈夫かな? 色々と…」
「まっ、まあ、悪いやつじゃないさ…。困ってるんだから、助けてあげよう…」
「そっ、そうね…。…あっ、あと…アルは補助金なんてもの期待しないでよ………」
「わっ、わかってるよ……」
「…なら…いいけど……」
「…俺はアリスからもらうからさ」
「……」
「…じょっ、冗談だよ」
冗談をいいそうなアリスが、割と真面目な顔をしていたので、和ませるつもりで代わりに冗談をいうと、眉間にしわを寄せていた。僕は焦って訂正していると、路地裏から誰かの悲鳴か突如聞こえてきた。
「…ぎゃぁああああ」
……怖いけど……路地裏確認した方がいいかな…。
「…みんなはここで……」
「いってみよう!」
「…即答するなんて……。…ニャートなのに正義感はあるんだな?」
「私も驚いたわ…」
「あっ、当たり前さ! …っていうかニャートは関係ないだろ! さあ、静かにいくよ」
僕達は悲鳴が聞こえた路地に入り、壁からこっそり見るとそこにはさっきの黒猫達が今度は白猫にやられて倒れていた。どうやら黒猫達の悲鳴だったんだろう。
「なんだ…。心配して損した…」
「…だね。帰ろう……。…ん? …っていうか、彼女はもしかして!?」
「そこにいるもの両手をあげてでてきなさい!」
白猫は声を上げ、僕はノスクとアリスと目をあわせた。色々と考えたが、ここはみんなの総意を聞こう。
「…どうする?」
「悪い事はしてないし…ここはでておこう…」
「そっ、そうよ…。私達はなにもしてないし…」
僕達は両手をあげ、ゆっくりと白猫達の前まで歩くと赤い帽子を被った白猫が話しだした。白猫はレイピアのような細い剣をこちらに向けた。
「止まりなさい! あなた達はそこでなにをしていたのかしら?」
「酒場に行こうと思ったら、悲鳴が聞こえてきたからさ…」
「そうだよ。心配してきたんだ!」
「怪しいわね…。こんなところにエルフと人間がいるなんて…。…壁に手をつけなさい!」
「おっ、俺!?」
「私も!?」
「彼等は…」
ノスクがなにか言葉を発しようとすると白猫の剣が壁に突き刺さった。もう少しでノスクの頭が風通しがよくなるところだ。ノスクは白猫に睨まれ、一言も喋らずにヘナヘナと腰が抜けて座り込んだ。
「貴方には質問をしていない…!」
「こっ、攻撃するなよ。おとなしくするからさ…」
「うっ、うん…!」
「身体検査をするから動かないでね…。少しでも怪しい動きをしたら…。…わかるわね?」
「…わかったよ」
「…はっ、はい!」
白猫はアリスのポケットから、猫柄のハンカチを取り出した。シオンさんがが好きそうなデザインだ。
「…これは、私のっ!? 私の部屋が荒らされてると聞いてましたが、まさか…貴方達が…」
「えっ、えっと、そっ、それは…。私の…」
アリスはなんとか嘘をついて誤魔化そうとしていた。むしろここは正直に言わないとダメそうだが、下手に助け舟もだせない。
「…ちなみに貴方の名前は?」
「アリスです…」
「このハンカチには私の名前…ルナと書かれていますが? …なにか申し開きはありますか?」
「…ありません。でも、盗んだわけじゃなくって…。多分、たまたまポケットに……。すいません…」
白猫はギロッした目をすると、アリスはスンナリと謝った。いくら本当のことでも、信じてもらえないと思ったのだろう。一度、嘘をつくというのはそういうことだ。
「はぁ…。それにしても、エルフでアリスという名前ですか…。おてんばで有名なアリス姫といえど、こんな犯罪は犯しませんよ…。貴方はエルフの王国と姫に泥を塗ったんです…。恥を知りなさい…!」
「はっ、はい…」
猫の王国にもアリスの事が広まっているとは…。しかも、本人にそんなこというなんて…。
「ぷっ…。あっ…」
泣きそうなアリスを見て、つい吹いてしまったが二人から物凄く睨まれた。だって仕方ないだろ…と思いながらも、少し後悔した。
「アル…。後で…覚えてなさい…」
「ちっ、ちがう…! 今のは…!」
「笑ってるとは余裕ですね…。それとも、貴方は無関係だとでもいうのですか?」
白猫は僕のポケットに手を突っ込み、マタタビの葉をだした。僕のポケットには大したものはなにもない。葉っぱぐらいしか…。あれ…これ…大したものなんじゃ…。
「…これはなに? …こっ、これは、もしかして、オウネコマタタビの葉!? まさか、これも盗んだの!?」
「ちっ、違う! 王様から貰ったんだ!」
「そうそう…。確か…王様から…頂いた…んだよね?」
「…なっ!?」
こいつ…俺まで道連れにする気か…!?
アリスはニタッと笑いながら、含みを持たせて言った。完全に悪役の顔をしていた。なんて悪い女だ…。
「まさか、貴方達は…。最近、荒らしまわっているという怪盗団の…」
「そっ、そんな、怪盗団なんてしらん!」
「黙りなさい! 怪しい…。こっちのポケットには…。…ん? …こっ、これは!?」
白猫はもう片方のポケットに手を突っ込み、エルフの国で貰った猫達の鈴を取りだした後、なぜか急に目を見開いて固まっていた。
「…その鈴がどうかしたのか?」
「…これをどこで?」
「どこって…。エルフの国だよ…」
「ノル様を貴方が助けたの? それに、この鈴はジン様の…。それにこれはフォレス様の…。…あっ!?」
白猫は手を滑らせ鈴を落としてしまった。どうやら、鈴の音で黒猫が起きてしまったようだ。
「うっ…。…にゃあ? …ん? こっ、この鈴はボスのじゃねえか!? なんでこんなところに?」
白猫は壁に刺さった剣を取り、剣先を黒猫に向けると、黒猫は観念した様子で両手を上げた。
「動くな!」
「ぐっ…にゃ…。降参するから剣を向けるな…。…とっ、ところでこの鈴は誰のだ?」
「俺のだけど…」
「…ボスを助けたのか?」
「…ボス?」
「俺と同じ黒猫だよ」
「…ああ…助けたよ」
僕が黒猫の質問に答えると今度は腰が抜けて座り込んでいたノスクが、鈴を手に取り小さな声で喋りだした。
「この鈴は師匠の…フォレス先生のだ…。…赤い猫もアルが助けてくれたの?」
「…え? まあ…成り行きでな…」
白猫は剣を鞘に収めて深々と礼をした。とりあえずはなんとかなったみたいだ。
「大変失礼しました…。できれば、この鈴を貰った経緯を教えてもらえないでしょうか?」
「…えっ? まあいいけど…。そろそろ、壁から手を離してもいい?」
「はっ、はい!」
僕は今までの旅の経緯と、この国にきた理由を説明する事にした。白猫は申し訳なさそうな顔をして、深々と頭を下げた。




