第百三話
「…それにしてもアリスが飛べるなんて知らなかったよ」
「…飛べないわよ?」
「…でも…さっき飛んできたって……」
「…なんかいける気がしてやってみたの」
「……はい?」
「全然ダメで…とりあえず風魔法を地面に当て続けたのよ。最初はよかったんだけど、バランス崩してから、コントロールが利かなくなって…もうちょっとで……」
僕は妙な冷汗がでていた。もしもあの場にいなかったら大ケガをしていたかもしれない。アリスはそんな僕の心情とは裏腹に微塵も気にしてないようだった。僕は無言の圧力で釘を刺しておくことにした。
「……」
「……だっ、大丈夫だから、もしものときは徐々に出力を落として…。風魔法は得意だし…はははっ……。一応…たぶん…。その…ごめんなさい…」
「……次やったら本気で帰すからな…」
「…じゃあ…今度、空飛ぶ魔法…教えてよ」
「…俺のは教えれる魔法じゃないんだ。練習ぐらいなら手伝ってあげられるけど…」
「…ケチ……。…あと、なにもいわないで勝手に行かないでよ。皆が心配するでしょ!?」
「…秘密にしたいことがあるんだよ……。…その…俺も悪かったよ」
「次からは気を付けてよね。全く…」
「…ごめん」
あれ…なんで…俺が怒られてるんだろう…。
「……アル…時間もないみたいだし、続きを聞きましょ?」
釘を刺すつもりが、刺されてしまった。少し釈然としないが、ノスクの方を見ると、チラチラとこちらをみてきている。話すタイミングを伺っているようだ。まぁ…まずは続きを聞こう。
「はぁ…。…それで、どういう状況なんだ?」
「…最初に剣が光った後、すぐに王様に報告して…。それから、過去の資料を読みあさってたんだ…。でも、時間だけが過ぎて…なんにもわからなくってさ…」
「…それで?」
「そしたら、また剣が輝きだして…試しに剣を握って地面をつついてみたら…空間移動が勝手に発動して、気づいたらコビットの王都付近にきてたんだ。まあ、キノコになってて最初はどこかと思ったけど…」
「なるほど…」
「そして…僕は君があの黒い魔物を倒したところを見たんだ…。それでわかったんだ…。剣が光った理由…。君を…勇者を連れてく為に…ここにきたんだって…!」
「勇者って…」
「実際、君に会ったら、また剣が光りだしたんだ。間違いないよ…。…君はきっと勇者だ!」
「まっ…。確かにアルは勇者かもねっ!」
アリスは僕の方をみてニヤッと笑った。まぁ…いわれて悪い気はしないなと思いながら、キノコスパゲッティをクルクルと巻いて口の中に入れた。
「…まあ、そういう事にしておこう」
「それで君を連れて帰ってきたら…王様がエルフの王国に応援を求めてた事を知ってさ…。その応援が君達だったとは思わなかったよ」
「なるほどな…。…そういえば、アリスは今までどこにいたんだ?」
アリスはリスのようにミートボールを口に蓄えていた。こいつは本当にお姫様なのか不安になってきた。
「…私? 私は気づいたら、お城の部屋のクローゼットの中に入ってたわよ…。その後、色々あって王様に会ったあとに部屋に案内されたんだけど、アルの姿がたまたま窓から見えたから追ってきたのよ」
「また、すごいとこに入ってたな…。……っていうか、部屋で大人しくしてろよ…」
「通りで見つからなかったわけだにゃ…」
「でもね…。城にいる皆の様子がおかしかったの…。アルの名前をだすと、皆が笑うのよ…。…なんでかしら?」
アリスは不思議そうな顔をして目線を上にやった。僕の名前って、やっぱり変なのだろうか。僕が気になっていると、ノスクは慌てた様子で口を閉ざした。
「それは…多分……。…うっ、ううん、なんでもない」
「…なんだよ。…気になるじゃないか?」
「いや…あの…王様達が君を見たら勇者じゃないってってたんだ…」
「なによ、ひどいじゃない!」
「……君が床で寝てるからだよ…」
「だって、仕方ないだろ? 急に連れてこられたんだから…」
「いっ、いや…。そうじゃなくて…」
「俺が寝たいって言ったなら、まだしも…」
「…君がいったんだよ」
「…はい?」
「おっ、おぼれるーって…。…床から全然離れようとしないんだ……。仕方ないから、床に…」
ノスクは椅子に座ったまま、バタバタと手足を動かし、アリスは涙を流して大笑いしていた。僕は無意識に出た言葉に驚いていたが、同時に少し情けなくなった。
「そんなこといってたんだ…」
「うん…」
「はははっ…。…なによ、それ! 私も見たかったー!」
「……」
「…そっ、そうだ! …そういえば、君の仲間はこっちに向かってるらしいよ」
「そうか…。まあ、連絡がいってるならよかったよ。みんなが来る前にちゃっちゃと片付けておこう。…それで、こっちの仲間は集まったの?」




