表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5番目の王子  作者: Moma
6/60

アル③

狭い――


俺の宣言通り、バスタブは窮屈で、二人がやっと浸かれるほどの大きさだ。

リューネは俺に背中を預け、無防備に湯の温もりを受け入れている。

さっきまで震えて泣いていたのが嘘のように、ふわりと力を抜いている。

俺はやれやれと息を吐きながら、リューネをじっと観察する。

間近で見る彼は、髪や瞳の色を差し置いても、その美しさは隠しようがない。

長い睫毛は湯気に濡れ、そっと揺れている。

大きな瞳はどこかぼんやりと宙を彷徨い、小さく整った鼻筋はほんのり赤みを帯びていた。

やや小ぶりな唇の端が、ゆるりと力なく緩む。

――もし、王女として生まれていたなら、国が傾くほどの美貌だろう。


「おら、そろそろ出るぞ。のぼせちまう」


ぼんやりとしていたリューネに声をかけ、湯から引き上げる。

大きめのバスタオルを巻きつけてソファへ座らせると、髪のリボンを解き、頭にもぐるりとタオルを巻き込む。

全く抵抗もしない。


「身体拭いたらこれに着替えろ。大きすぎると思うが、文句なしな」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「アルさんの匂いがします」


「……俺の服だからな」


言われてみれば、当然だろう。

俺の服はやはりリューネには大きすぎたようで、袖も裾も幾重にも折り畳み、なんとか着られる状態にしている。

ウエストは紐で絞っているが、それでもまだ余裕がある。

多少不格好ではあるが、仕方ない。

リューネは服の端をそっと摘み、何度もスンスンと匂いを嗅いでは、くふくふと微笑んでいる。

――なぜそんなに楽しそうなんだ。

俺は内心で呆れながら、立ち上がる。


「腹減った……そういや起きてから何も食ってねぇな。簡単なものしか出せないが、準備してくる。座って待ってろ」


バゲットを買っておいた過去の俺に感謝しつつ、湯を沸かす。

珈琲も飲みたい。

レタス、チーズ、ベーコン、卵――保冷庫を確認し、簡単なバゲットサンドとプレーンオムレツを作ることにする。

料理を作る作業は嫌いではない。今日のような簡単な調理ならなおさらだ。

ふと視線を動かすと、リューネが何冊かのスケッチブックを広げ、見入っていた。

随分と静かだと思ったら…いや、待て。あの中には――


「座って待ってろって言っただろ」


「これは…僕でしょうか?」


そこには、珈琲カップに優雅に口をつけるリューネの姿が描かれていた。

斜め後ろからの構図――細やかなタッチで、慎重に描かれた一枚。


「…そうだな。何度か店でスケッチしてた時か。偶然、お前が目の前にいたんだよ」


俺は舌打ちし、さっとスケッチブックを手に取る。


「あっ…」


名残惜しそうな声が聞こえたが、聞こえなかったことにする。

スケッチブックは魔法でアトリエに転移させ、食事の準備に戻る。

偶然描いた、というのは本当だ。

だが、リューネの佇まいに思わず筆を取った――ということは、決して口にしない。

言ってたまるか。


「メシ、食うだろ?」


話は終わりだとばかりに、料理を運ぶ。

大皿に乗ったオムレツとバゲットサンド、そして珈琲とホットミルク。


「これ、食べ方分かるか?こうやってかぶり付く」


「かぶり……つく……」


リューネは両手でバゲットを持ち、じっと見つめてから、カプっと可愛らしく齧りついた。


「斜めにするなよ?中のソースが零れる」


うんうん、と頷きながら咀嚼する様子は、まるで小動物のようだ。

俺はリューネの分のオムレツを小皿に取り分け、自分の食事をさっさと済ませる。

思っていた以上に腹が減っていたようだ。

珈琲をもう一杯注ぐ。

すっかり胃が満たされると、魔力を使いすぎたこともあり、眠気が強く襲ってきた。


(ヤベェ……すげぇ眠い……)


この家の勝手も分からないリューネを放ってはおけない。

アイツは風呂すら一人で入れないんだ――

ダメだ……目を瞑るな……今眠るわけには――

俺の視界は暗転した。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ