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5番目の王子  作者: Moma
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球体の行方

リューネはその光の球体にそっと手を触れ、唇を噛み締めた。


――ルリが、自分のすべてを託して生み出した球体。


温かささえ感じる光の幕が、彼の掌にやさしく触れ返す。

その穏やかさがかえって痛く、胸の奥が締めつけられた。


(…この球体を、あの建物に――きっと出来る)


リューネはぎゅっと両手で球体の側面を抱え込んだ。

まるで水のようでいて、確かな“重み”がそこにある。


「…いこう」


歯を食いしばり、足を踏み出す。

球体はリューネに寄り添うように、すっと滑るように前へ進む。


湿った地面を蹴って、彼は湖へ向かう。

膝まで水に浸かりながら、それでも足を止めずに進む。

球体は抵抗することなく、彼の導きに応えるように静かに動いていった。


水音だけが響く、緊迫の時間。

建造物の姿が球体の表面のすぐそこに迫る。


「あと少し!」


リューネは全身の力を込めて球体を押し出す。

すると、球体がふわりと持ち上がったかと思うと、吸い寄せられるように建造物の輪郭へと沿い始める。


淡い光の縁が、建物の外壁にすっと接し、そして――建造物全体が、光の幕に包まれていく。

水門のような門口から流れていた水が、まるで吸い込まれるように内部へと戻っていき、やがて、球体の中で循環し始める。


球体が、建造物ごとすべての水を内に封じ込めたのだ。


「…!」


リューネはその場に膝をついた。

達成感と、深い安堵、そして強い喪失の予感が、いっぺんに押し寄せてくる。


――ルリ。

ルリはもういないのだろうか。光の中心に身を投じた、小さな魔鳥。

魔力を全て注ぎ込んで、きっとそのまま――


「……ルリ…ルリ…」


その名を呼ぶ声は、かすれていた。

そのとき。


「……ピ、……ィ」


かすかな鳴き声が、水音にまぎれて聞こえた。

リューネが顔を上げる。

光の球体に封じられた建物の下――その水面近く、小さな影がふらふらと揺れていた。


「ルリ!」


リューネは立ち上がると、水の中を駆けた。

飛沫が舞い、足元が取られそうになる。


ようやくその小さな身体を抱きとめた時、胸の奥に何かが溢れそうになった。


ルリは、掌にすっぽり収まるほどに小さくなっていた。

けれど、その瞳はしっかりとリューネを見ていた。


「ルリ…ありがとう。…本当に、ありがとう…!」


リューネはそのまま、水面に崩れ落ちるようにしてルリを抱きしめた。

細い羽をそっと胸元に包み、頬を寄せる。

涙が溢れ落ちる。

けれど、それは哀しみだけのものではなかった。


――守れた。


自分ひとりの力ではなかった。そう、ルリと共に――


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


湖を取り囲むように、剣士たちの馬蹄の音が響いた。

クスラウドから到着したのは、王レステュユルニ率いる親衛の剣士隊。緊急報を受けてすぐ、魔導師の治療団と共に転移で駆けつけてきたのだった。

その中心で、白馬を駆る青年がひときわ強く手綱を引き、湖岸の岸辺に目を凝らす。


「……リューネ……!」


すぐさま馬を降り、泥の跳ねる地を走っていく。

岸辺に、ひとりの少年がいた。

水に濡れ、衣も髪も泥にまみれ、それでも守り抜いたものを抱きしめるようにして膝をついている。

小さくなった魔鳥を胸に抱えたその姿を、兄はひと目で見分けた。


「リューネ!!」


レステュユルニが駆け寄ると、リューネはゆっくりと顔を上げた。

その頬には涙の痕が残り、けれどその瞳は兄の姿を確かに映していた。


「……おにいさま……」


そう、かすかに声を震わせた直後、リューネの身体が傾ぐ。


「リューネ!」


兄の腕の中へと倒れ込むその小さな身体は、もう意識を失っていた。

レステュユルニはその身を強く抱きとめながら、胸の奥が締めつけられるのを感じた。

彼は声をかける。


「すぐに医師を!」


リューネの意識は、そのまま深い眠りへと沈んでいった。




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