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5番目の王子  作者: Moma
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魔石②

「アル、連れて来てくれてサンキュ。スイ、おかえり」


最上階へ到着すると、テスは書類片手に珈琲を飲みながら、二人を見つけて笑みを深めた。


「こいつ、落石に遭った癖に働いてた。休暇取らせるぞ」


「そうなんだよね。さっきクスラウドから使者が来て、スイの安否確認をして戻ったよ。事前に万が一のことがあっても転移できるようにしておいたのが幸いしたな。鉱山は安全確認のため、最深部はしばらく閉鎖するってさ」


「ええと…アルステルス様が二人?」


スイは髪を切ったテスと初対面だったため、絶賛混乱中だ。


「使者の話によると、スイは全く休暇も取らず、毎日鉱山に通い詰めていたらしい。クスラウドにも魔石の研究者はいるけど、スイと鉱山に同行するとなかなか帰れないからって最近は誰もついて行かなかったらしい。不幸中の幸いってところだね」


「デュラテス様、最深部でなければ鉱山に入る許可はいただけますでしょうか。まだ研究の途中で…」


テスの髪よりも魔石研究が優先され、スイは混乱からすっかり立ち直っていた。

テスもアルも王族であり、魔道塔で最も権力を持つ存在だが、スイにとっては”失礼さえしなければ問題なし”という認識らしい。

早い話が、どちらがどっちであろうと関係ない。ただちょっと驚いただけで。


「休暇をちゃんと取って、服も何着か揃えて、身なりも整えて…あ、眼鏡もいくつか新調するんだよ。経費で落としてあげるから。それが全部終わってからなら、またクスラウドに渡ってもいいよ♪」


テスがバチンとウインクを一つ投げかけると、スイは絶望的な表情でがっくりと項垂れた。

いくら学園の後輩として目をかけてもらっていたとしても、王族であり魔道塔の最高権力者に逆らう術など持ち合わせていない。


「転移の護符も新しいのを渡しておくから、自分の魔力を最大まで込めて馴染ませておくんだよ。またいつ必要になるかわからないからね」


スイは礼を述べると、大切そうに護符をポケットにしまう――と、その奥底の小袋に指が触れた。


「アルステルス様、頼まれていた魔石をお渡ししなければ。ご覧ください、きっとご満足いただける物だと思います!」


スイは小袋の中から、小指の先ほどのキラキラと光る魔石を取り出した。

数にして30粒ほどだろうか。パッと見では魔石か色付きのガラスか判別がつかないようなものだ。


「魔力のない方にしてみれば、ただのガラスの石にしか見えないと思いますが、試しに魔力を注いでみてください。驚くほど吸収されていくのがわかります」


アルとテスはそれぞれ適当に魔石を一つ取り上げ、魔力を注ぐ。


「「おっ」」


二人とも同じ表情で、同じ反応をした。


「どうです?このサイズで魔力を多大に吸収する魔石は、相当希少です。ただ、残念なことに同じような色や形のものは少ないんです。なので、このように全て不揃いになってしまって…」


「充分だよ、スイ。これらの魔石は有効利用させてもらう。精査してから研究用にもいくつか分けておくね。ありがとう」


スイは満足げに頷いたが、ふと何かを思い出したように、少し躊躇(ためら)いながら口を開いた。


「あ、あの…。厚かましいお願いだとは分かっているのですが…その中の一番小さな翠の魔石を譲っていただくことは可能でしょうか…?最初に見つけた魔石で…その…」


「個人的に欲しいってこと?」


「やっぱりダメですよね…我儘言ってすみません、アルステルス様…」


「俺、テスね?スイは正直だな。いくらでも隠しておくことだってできたのに。いいよ、今回だけ特別にそれはスイが所有していいから。ただし、他の研究員には絶対口外しないこと。OK?」


「あ、ありがとうございます!」


スイはぱっと顔を上げ、満面の笑みで礼を告げると、両手で小さな翠の魔石を受け取り、胸の前でぎゅっと握りしめた。

余程思い入れがある魔石なのだろう。


「それじゃ、スイはこの休暇届けの書類と、クスラウドへ送る報告書――“無事に帰還しているので何の問題もありません”的なやつね。ちゃんと全部目を通してからサインするように。アルは魔石を一度持って帰っていいよ。アルが必要のない魔石は、魔道塔と魔法騎士団で活用するから」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「おい、帰ったぞ」


「アル?おかえりなさい。今日は早かったんだね」


キッチンの奥からひょいと顔を出したのは、エプロン姿のリューネだった。

部屋中にふわりと甘い香りが広がっている。どうやら焼き菓子を作っていたらしい。

ミトンを外したリューネは軽やかに近づくと、アルの胸に手を添え、背伸びして唇を重ねた。


「……あっま」


口元を押さえて顔をしかめるアルに、リューネがくすりと笑う。


「エッグタルトを焼いてたの。ちゃんとアル用には甘さ控えめのを作ってあるから大丈夫だよ。さっき味見したけど、とっても美味しくできたんだ。楽しみにしててね」


そう言って微笑むリューネの頬に、今度はアルがそっとキスを落とす。

そのまま手を引いてソファへと促すと、小袋を取り出し、テーブルの上に中身を広げた。


「ガラスの石?何に使うの?綺麗だね」


リューネは一つ手に取ると、光に透かしながら様々な角度から眺める。


「それ、魔石。お前は黒い岩みたいな魔石しか見たことないだろうけどな。魔石研究員がクスラウドから今日持ち帰ってきた」


「こんな綺麗な魔石があるんだね。小さくても使い道はあるの?」


「魔力を増幅させたり、魔力を込めたりだな。小さくても普通の魔石よりずっと魔力を込められる。で、お前に護身用にいくつか装飾品をオーダーするつもりだ」


「護身用?」


リューネは魔石を見つめながら首を傾げる。魔法が使えない彼にとってはピンとこない話なのも無理はない。


「まず俺の魔力を込めた物を身につけていれば、魔力を辿ってどんなに遠くてもお前の場所を特定できる。少し時間はかかるがな。それと、防御魔法を常に掛けた状態にできる」


「魔法って何でもできるんだね。むしろ、できないことって何なのかなって思うくらい」


「万能ってわけじゃねぇよ。この魔石だって、どれか一つのことしかできない。魔力を込めるだけ、増幅させるだけ、防御魔法をかけるだけ——とかだな」


「…ひょっとして、僕が一人で街に出たり、色々な場所に行っても心配しなくてもいいように?」


「そんなとこ。魔道具研究の連中に作ってもらうのに、少し時間かかるかもしれないが…で、何にする?ピアス、指輪、ネックレス、バングル、アンクレット…全部でもいいぞ」


リューネのことになると、ときどき思考が暴走するアルに、リューネは苦笑を漏らす。


「アル、僕あまり装飾にこだわりも興味もないの知ってるでしょ?」


「まあ…」


「常に身につけていられる方がいいよね…いっそ体のどこかに埋め込んだら…」


「ダメに決まってるだろ」


呆れたようにリューネを見つめる。


”わかってるー”と軽く笑いながらアルに寄りかかると、手に取った魔石をじっと見つめ、考え込む。


「指輪かピアスかな…他はなくしてしまいそう」


「最低二つの魔石を身につけてほしい。一つは防御魔法をかける魔石。もう一つは、防御魔法が攻撃されて掛け直した場合に俺に知らせる魔石」


「知らせるってどうやって?」


「俺も同じ魔石を身につける。何かあったときに共鳴する仕掛けを作れるらしい。研究員がその方法を考えてる。あいつらの腕の見せ所だな」


「アルとお揃いってこと?!」


リューネの顔がぱっと輝き、”嬉しい!”と抱きつく。

装飾品に興味はなくても、アルと揃いの物を持てるというだけで嬉しいらしい。

なんとも可愛らしいことだ。


二人で話し合った結果、リューネは両耳にピアスを、アルは片耳にピアスを身につけることになった。

装飾品に興味のないリューネも”待ち遠しいなぁ”と毎日のように呟き、出来上がりを心待ちにしている。


魔道具研究員のプレッシャーは計り知れない


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