魔石①
「アル、スイが戻ってきたって。お前、頼み事してたろ?」
魔道塔へと出勤したアルに、テスが声を掛ける。スイはアルとテスの魔道科の後輩であり、筋金入りの魔石研究者だ。研究への情熱は並外れており、魔石バカと呼んでも差し支えないほどだった。
クスラウドと魔法陣で行き来できるようになるや否や、待ちかねたかのように魔石の宝庫クスラウドへと渡った。そして、もう半年以上経つ――いや、もっと?アルの知る限り、スイからの研究報告や珍しい魔石の発見報告は届いていた。しかし、本人が帰る気配はまったくなかった。
「もう帰ってこないんじゃねぇかと思ってた。今、魔道塔にいるのか?」
「多分な。自宅に戻ったとは思えない。研究室か、地下の魔導場あたりだろ」
「探してくる」
「見つけたら最上階に寄るよう――いや、連れてきてくれ。あいつすぐ忘れるからさ」
アルは一つ返事を返し、魔道塔の下層へ向かう。ここには多くの研究室へ転移する魔法陣があり、それぞれの研究員が昼夜問わず作業に没頭している。特に魔石の研究室は、寝食を忘れた者たちの巣窟と化しており、もはや”住んでいる”レベルだった。
「スイ!」
魔石研究室の扉を開けるなり、アルは声を張り上げて名を呼んだ。研究室は静まり返っている。皆、研究に没頭しており、アルが声を張り上げても誰も振り返りもしない。
(どいつもこいつも…俺が王族だから特別扱いしろとは思わないが、返事するなり反応するくらいしてもいいだろうに…)
アルはやれやれとため息をつき、スイを探す。奥へ足を進めると、テーブルに様々な石を並べ、ブツブツと独り言を呟く男がいた。多分《《あれ》》だ。見るからに怪しい風貌で、髪はボサボサに伸び放題、無精髭もひどい。前髪は顎にかかり、眼鏡もずれている。いや、壊れているのか…テンプルの部分の片側がないようだ。
(身なりに無頓着にも程がある…容姿は悪くないのにな)
深いため息を漏らし、テーブルを回り込む。
「スイ、おかえり」
声をかけるも、スイは石を上に掲げ、何かを呟いている。さすがのアルも痺れを切らし、両手でスイの頬を挟み、こちら側を向かせた。
「あゆすちぇうふはま」
「よう、久しぶりだな」
やっとこちらを認識してくれたところで、アルは両手を離した。
「良いところにいらっしゃいました!こちらの魔石をご覧ください。普通の魔石と同じように見えますが、全く効力が異なります。ほら、光にかざしてみますと中にキラキラとした物が見えるでしょう?このキラキラの量によって魔石がどれほど魔力を持続させるかが変わってきます。簡単に言ってしまえば、キラキラが多ければ多いほど持続力が高くなると思われます。不思議なもので、効力が高い魔石の方が軽いのです。それとですね―――」
(こいつは息継ぎいつしてるんだ?)
アルの心の中のツッコミなど知らぬスイは、説明を続ける。
「通常の魔石ですと、こうゴツゴツとした岩のような物になりますが、このテーブルの上をご覧ください。俺がクスラウドで見つけた可愛い魔石ちゃんたちです。岩のような物もあれば、ガラスのような透明なものも―――」
「スイ」
「こちらの小さな魔石は、こんなに小さくても魔力吸収が他の魔石の何倍もの働きをします。さすが魔石の宝庫と呼ばれるクスラウドですよね、レアな魔石がまだ深層に眠っているかもしれません!落石に遭わなければもう少し奥の方まで足を伸ばそうと―――」
「スイ、ちょっと待て」
「ちょうどポケットの中にですね」
「スイ、待てと言っている」
「ええ、はい、何か疑問点でも?」
「お前今、落石とか言ってなかったか?」
「はい、今日は鉱山の最深部にいたのですが、運悪く落石に遭いまして…。その際に転移の護符が発動したようです。気付いたら魔道塔のエントランスに転移していました」
(帰還というより強制送還じゃねぇか)
スイが研究途中で帰ってくるなんて、何かよほどのことがない限りありえない。それほどの魔石バカだったことをアルは思い出した。
「魔石の話は後で聞く。今からテスのところに寄って、お前は暫く自宅療養。これは命令な」
「えええええええ?!せめて今日だけでも――」
「ダメに決まってんだろ。ほら、行くぞ」
「でも、アルステルス様の婚約者様の――」
「もう結婚したから伴侶だ」
「なんと!おめでとうございます。とても美しい方と伺っております。頼まれた――」
「わかった、テスのところで話を聞くから、とにかく行くぞ」
有無を言わさずアルは踵を返し、テーブルを離れる。スイは名残惜しそうに魔石たちを何度も何度も振り返りながら、渋々後に続いた。




