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5番目の王子  作者: Moma
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街へ

リューネはルブテールズの街を一人歩いていた。

護衛がいるかもしれないが、彼の視界には誰の姿もない。今日は待ちに待った”一人でお買い物デビュー”の日だ。

もちろん、アルは前日から心配して落ち着かず、『俺の休みに一緒に出かけよう』と何度も提案してきたが、リューネはそれをやんわりと (なだ)めながら、なんとか渋々の了承をもらった。

出かける直前、アルが幾重にも防御魔法をかけてくれたことは言うまでもない。


(いつまでもアルが一緒じゃなきゃ外出できないようじゃ、アルの負担になっちゃう)


アルにとっては“負担”などという意識はきっとないだろう。

けれど、伴侶として対等に歩むと決めた以上、お互いにひとりの時間も大切にすべきだとリューネは思っていた。


(それに今回はアルがいたらサプライズにならないし…)


先日、リューネは魔道塔で事務の手伝いをした時のお給料を手にした。学園時代に得たチップも合わせると、かなりの金額になる。


もうすぐアルの誕生日。リューネは自分の力で得たお金で、彼に贈り物を選びたいと以前から考えていた。


(お世話になってる人たちにも、何か素敵なものを贈れたらいいな…)


アルと一緒に市井を歩くときのリューネは、ふわふわゆるゆるの甘えモード。しかし、今日は独り。緊張のせいか、王族モードが発動し、いつもより凛々しくキリッとしている。

まずはお気に入りの雑貨店へ入ろうとしたとき、後ろから楽しげに話す二人組の女性がやってきた。


「どうぞ、レディ」


スマートな笑みを浮かべながら扉を開けるリューネ。王族として培ったレディファーストの精神が発揮される。

女性たちは『王子様降臨…!?』とギョッとした表情を浮かべ、一瞬フリーズ。しかし、長時間扉を支えてもらうのは失礼だと気づき、慌てて丁寧に礼を述べて通り過ぎる。そして店内に入ると、紳士なリューネの対応に胸や頬を押さえ、”可愛いリューネ様も素敵だけど、凛々しい王子様モードのリューネ様も素敵すぎる!眼福!!”と興奮気味に語り合っていた。

リューネはその後、店の中へ足を踏み入れた。この雑貨店には何度かアルと訪れていたが、女性客が多いためか、アルは居心地悪そうなので早々に退店していた。今日は誰にも気兼ねせず、ゆっくり店内を見て回れる。


(あ、ガラス細工…!)


目線の高さの棚には、動物をモチーフにした大小さまざまな色とりどりのガラス細工が並んでいた。その中の一つを手に取り、目を細める。


(この鳥…なんだかアルっぽい)


アルの瞳の色に近いシルバーグレーの輝きを持ち、翼を広げた姿が印象的なガラス細工。リューネはそっと撫で、傷がないかを確認すると購入を決めた。しかし、一羽では寂しいだろうと、小首を傾げた空色の小鳥も一緒に迎えることにする。

完全に自分用のプレゼントだが、今日は特別な日だ。満足げに会計へと向かう。ところが、ふとカウンターの横にハンギングされたモコモコの衣類が目に入る。


(珍しい…このお店で衣類を置いてるの、初めて見た)


近づいて生地の手触りを確認すると、見た目通りふわふわで、とても心地よい。


(よく見ると…フードに耳がついてる!?これはウサギ?猫もある…こっちはネズミ!?)


見慣れない可愛らしいデザインに心奪われ、購入を即決。問題は、どのデザインを選ぶかだ。


(んー…どれも可愛いけど…やっぱり、猫さんかな…!)


真っ白なモコモコを胸に抱えて、お会計を済ませる。荷物がいきなり増えてしまったが、店主の厚意で他の買い物を済ませるまで預かってもらえることになり、ありがたく甘えることにした。


* * *


(まずはアルのプレゼントを決めてしまおう…!)


雑貨店を後にしたリューネは、今日一番の目的を果たすため足を速めた。この調子でのんびり色々なお店に寄っていると、気づけば日が暮れてしまう。アルへのプレゼントは頭の中で決めていたものの、販売している店を今まで一度も見たことがない。市場にはあまり出回らない品なのかもしれない。


(聞くだけ聞いてみよう。ダメならまた別のものを探せばいい…!)


気持ちを切り替え、リューネはすっかり常連となったカフェへと向かう。扉を開けると、カランとベルが心地よく鳴った。


「おや、リューネ様。今日はおひとりですか?」


穏やかな店主が、いつも通り優しく迎えてくれる。


「今日はお願いがあって…実は―――――」


カフェの店主に話を持ち掛けると、あっさりと快諾してくれた。ダメ元で頼んだのに、思いがけずスムーズに話が進み、リューネの心は感謝の気持ちでいっぱいだ。今後もたくさんコーヒー豆を買うことを約束し、遅めのカフェランチを楽しんだ後、テラスでのんびりと過ごす。

ルブテールズの街並みは穏やかで、人々の温かさがあふれている。通り過ぎる子供たちも、臆することなくリューネに手を振ってくれる。街の人々のリューネへの眼差しは、いつも優しさに満ちている。


(僕は本当に幸せ者だな…)


改めて、ここでの日々の幸福を実感するリューネ。

その後、カフェを後にし、レステュユルニには華やかな装飾の万年筆を、ジュウトには戦闘用のグローブを購入。そして満足げな笑顔のまま帰路についた。

気づけば、辺りはすっかり暗くなっており、充実した一日の余韻と心地よい疲れが身体を包む。


* * *


「おい、帰ったぞ」


王城で他国との会議に参加していたアルは、疲労感たっぷりの状態で帰宅した。経済の流通が魔法陣によって大きく変化し始めたことで、近隣諸国がこぞって話を持ちかけてきた。クスラウドは大国。魔法陣によって経済交流が容易になったチャンスを逃すわけがない。

そして、その問題の発端となった張本人がアルである以上、この会議を避けることなどできなかった。テスを身代わりに…という甘い考えもあったが、テスも強制参加となり、結局二人でぐったりしながら会食まで乗り切った。


「リューネ?」


返事がない。普段ならこの時間はまだ起きているはずなのに——と焦ったところで、ソファの上に丸くなって眠るリューネを見つける。


「こんなところで寝てたら風邪…ひかなさそうだな…?」


アルの視線が、一点に釘付けになる。リューネは真っ白なモコモコの服を纏っていた。猫耳付きのフードの隙間から、ピンクブロンドの髪がさらりとこぼれる。


「ずいぶんと可愛らしい寝間着だな…ベッドの中じゃ脱がせちまうけどな」


寝息を立てながら安らかな顔で眠るリューネを、アルはそっと抱き上げ、ベッドへ運ぶ。オーバーサイズのデザインなのか、裾が膝裏までゆったりと落ちている。


「まあ、今日だけは猫のぬいぐるみを抱き枕にしてやるか」


軽くシャワーを浴びた後、アルもベッドに潜り込む。猫リューネを抱き込むと、ふわふわの生地がひどく心地よく、あっという間に眠りに誘われた。




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