魔法騎士団②
二人は魔導塔の魔法陣から、騎士団が魔物と戦っている現場へと転移した。
転移した瞬間、地鳴りが響き、空気が震える。リューネは思わずアルの腕にしがみついた。
「見てみろ、ちょうど戦っているところだ」
アルの言葉に促され、リューネは視線を向ける。
そこには巨大な魔物がいた。見た目は凶暴で威圧感があるが、動きは鈍い。
「あの魔物は厄介でな。魔法を感知するから、剣術のみで倒すしかない。魔法を使うと仲間が感知し、リンクして集まってしまう。だから、一匹ずつ広い場所に誘い出してから倒すのがセオリーだ」
リューネの視線がさらに動き、大剣を振りかぶり、魔物を薙ぎ払う男性の姿に止まった。圧倒的な力を持つその戦士は、戦場を支配するような気配をまとっている。
「わあ、大きな剣。僕、あんな大剣は初めて見る。それに魔法剣士さんも随分大柄な方だね」
「ああ、あれは俺の一番上の兄、サーシアだ。すまないな、まだ紹介できていなくて」
アルは申し訳なさそうに言うものの、その顔には楽しげな色が浮かんでいる。
王太子という立場にもかかわらず、魔物退治に明け暮れ、城に寄りつかない自由奔放な長兄。アルも、似たような気質を持っているのだろう。
「あれが王太子のサーシア様……遠くからでもオーラが伝わってくるね。いつかちゃんとご挨拶したいな」
「そのうち会えるだろう。多分、サーシアもお前のことを気に入ると思う。あいつ、小動物好きだからな」
ニヤリと笑うアルに、リューネは不服そうな声を漏らすが、彼は気にしない。
「サーシアの向こう側で戦っている班が、ジュウトの所属する部隊だな。リンク対策で何班か合同で討伐しているようだ。ちょっと見えにくいから、もう少し移動するか」
アルはリューネを抱えたまま、驚くほど軽やかに歩く。いくらリューネが小柄とはいえ、本当に羽のように軽いはずはないのだ。
「ねえ、アル。ひょっとして魔法で僕の身体を浮かせたりしてる?」
「バレたか」
リューネはふと思い出した。――学園での出来事。
マリーと共に走り抜けたあの日、身体がふわりと浮くような感覚があったのを。
「厳密に言うと、手で触れている間、その対象の重力を操作できる。転移の際は魔物に気づかれる可能性があるから、使うのをやめたけどな」
「アルって力持ちなんだね。僕も見習わなくちゃ」
「見習ってどうするんだよ。俺を横抱きにする気か?」
そう言いながら、アルは足を止めた。戦場の光景が、よりはっきりと見渡せる位置だ。
ジュウトの姿が、騎士たちの中にある。彼は魔物の足に狙いを定め、攻撃を繰り返していた。
「ジュウト、すごく接近してる……魔物の足ばかり狙ってるね。動きを封じるため?」
「あの魔物は足に急所がある。だが、皮膚が硬くてなかなか急所を突くことができない。だから、何度も切り掛かるしかないんだ。サーシアを基準にするなよ。アイツは別格だからな」
リューネはジュウトの戦いを見守る。魔物の攻撃を巧みにかわし、間合いを詰め、また切りかかる。
その動きを繰り返すうちに、魔物の身体がぐらりと揺れた。そして、地響きを立てながら崩れ落ちる。
「わっ……アル、魔物が倒れた!」
リューネの視線は騎士団に釘付けとなり、反射的にアルの服を握りしめる。ジュウトの周りには騎士たちが集まり、歓声を上げながらハイタッチを交わしていた。彼はすっかり騎士団に溶け込んでいるようだ。
「急所を突けたようだな。ジュウトも、他の団員も怪我はないようだ」
アルは後方の回復術士たちに目を向ける。
彼らはローブを纏い、傷ついた者が出た際には安全な場所へと付き添う役目を担っている。
「ジュウトは回復術士だけど、帯剣しているから騎士服なんだね」
「ローブだと戦いの邪魔になるからな。どうだ、魔法騎士団の戦いを見た感想は?」
リューネは戦場を見つめながら、小さく息をついた。
「ちゃんと作戦が組まれていて、安全に配慮しながら討伐していることが分かった。何より、ジュウトが生き生きとして戦っている姿が見られたのが、一番の収穫だよ。連れてきてくれてありがとう、アル」
彼に向かって満足そうに微笑み、そっと頬へキスを落とした。
数日後、アルと共にリューネが魔道塔へ訪れるとするとサーシアが待っていた。
リューネが慌てて挨拶をしようとすると、頭をくしゃくしゃに撫でられ”また遊びに来いよ”と一言だけ告げ転移してしまう。
リューネが挨拶をする日はもう少し先。




