魔法騎士団①
リューネは頬杖をつき、窓の外に目をやっては一つ、また一つと溜息をついた。
今日はアルとともに魔導塔に来て、簡単な事務作業を手伝うはずだったのだが――朝からずっとこの調子だ。
心配になったアルが、ミルクたっぷりのココアを差し出しながら声をかける。
「どうした、リューネ。何か気になることでもあるのか?」
「ありがとう、アル。甘くて美味しい……」
柔らかく微笑み、カップを両手で包むリューネ。その表情に、安堵よりもまだ影を残した不安が見える。
「ジュウト、大丈夫かな。魔物が出るような場所に行くなんて、やっぱり心配…」
ジュウトが魔法騎士団に加わりたいと願い出たことを受け、リューネは兄のレステュユルニに頼み込み、彼の受け入れ先を確保した。
レステュユルニはルブテールズに恩を売れる形となり、同盟締結にも前向きだった。
もっとも、クスラウドが平和で魔物の出ない国だからこそ可能な話で、ジュウトには“必要があれば即帰国させる”という条件が付けられた。当然のことだった。
「絶対に危険がないとは言えないが、今まで騎士団で命を落とした者や大怪我をした者はいない。そもそも、強力な魔物が現れた時は、魔力の高い王家が総出で討伐に向かうからな」
「アルも、魔物と戦ったことがあるの?」
「何度か魔法騎士団と共闘した。後方から回復術師が前衛を支える形だ。ジュウトほどの魔力を持つ術師が後衛にいれば、前線の士気も大きく上がる。安心して全力で戦えるからな」
「そうなんだ。ジュウトの存在って、とても大きいんだね」
「それに、ジュウトの所属してる班には、面倒見のいい奴がいる。剣士としても魔導士としても優秀な仲間ばかりだ。何より、全員転移の護符も常に身に着けている」
「エキシビジョンマッチの時に使ってた、あの護符のこと?」
「そう。魔力持ち専用の護符で、危機や魔力の枯渇に反応して自動的に転移を発動する。だから、最悪の事態にはなりにくいんだ」
アルの説明を受けて、リューネの肩の力が少しだけ抜けたのが分かる。
「以前、ジュウトが護衛と模擬戦をしているのを見たんだが、剣の腕も相当なものだった。回復術師で剣を携えているのは、アイツだけだぞ」
「……ジュウトはね、一番僕の近くにいる者が、僕の盾になれなきゃ意味がないって。従者になってくれた時から、ずっと鍛錬を欠かさなかったの。だからカフェで僕が襲われた時、すごく悔やんでたし、心配させちゃった」
アルは静かに目を伏せ、ふと想像する――もし、今リューネが突然いなくなったら、自分は正気でいられるだろうかと。答えは分かり切っている。狂ったように、世界の果てまででも探し回るだろう。
「アル?」
「いや、お前が心配する気持ち、すごく分かると思ってな。よし、今日は魔法騎士団の視察に行こう。自分の目で見れば、少しは安心するだろう?どうせ何も手につかないだろうしな」
「見てみたいけど、僕が行って大丈夫かな。魔物が出たら、戦うどころか逃げるのも遅いし…」
リューネは自嘲気味に眉を下げる。自覚があるのか、足の遅さを気にしているようだ。
「お前は強制横抱きで移動だ。何かあっても、すぐに転移できるようにな」
「ん~。魔法騎士団の人たちに見られたら、ちょっと恥ずかしいかも。それに最近、少し体重増えたし…」
恥じらいを浮かべたリューネに、アルはわずかに眉を寄せた。
(コイツの羞恥の基準が未だに分からねぇ)
魔導塔での仕事の休憩中、しょっちゅうアルの膝の上に乗り上げ、凭れ掛かり、短い仮眠を取っている姿を散々他人に見られているにも関わらず、危険かもしれない場所への移動で横抱きの姿は恥ずかしいなどと宣うのだ。
「お前の体重なんて羽みたいなもんだ。それに、少し背が伸びただろ。いっぱい食ってもう少し太ってもいいくらいだ」
「毎日たくさん食べてるの、アルだって知ってるでしょ?それなのに羽みたいだなんて…」
リューネは口を尖らせて不満そうな表情を浮かべたが、アルが触れるようなキスを唇に落とすと、瞬時に笑顔になった。リューネの可愛らしい笑顔につられ、アルも目元を和らげる。
「そうと決まれば早速転移するぞ。長居はしないからこのまま行くか」
長くなったので後半へつづく




