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5番目の王子  作者: Moma
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婚姻の日

今日はルブテールズ王国の神殿で、アルとリューネの婚姻の儀が執り行われる日だ。厳かな儀式と言っても、両国の王が立ち会い、神官の前でアルとリューネが書類にサインをするだけの、簡素なものだった。


「リューネ様…、とてもお美しいです」


ジュウトは、従者としての最後の務めとして、リューネの衣装と髪を丹念に整え終えた。これまでにないほどの完璧な仕上がりに、ジュウトは心から満足しているようだった。今日のリューネは、ルブテールズ王国の正装を身につけている。白を基調とした生地に、アルの瞳の色であるシルバーグレイが差し色としてあしらわれ、その姿は息をのむほどに美しかった。


リューネは椅子から立ち上がり、ジュウトと向かい合う。


「ジュウト、ハグして?」


「そ、そんな…恐れ多い!」


ジュウトは思わず後ずさり、ふるふると首を横に振った。


「今あなたの目の前にいるのは、王族のリューネではありません。あなたと共に13年間を過ごした、ただのリューネです。お願い、ジュウト、私の最後のわがまま、聞いてくれる?」


そう言って、リューネが優しく手を差し伸べる。ジュウトは恐る恐る、震える手でリューネを抱きしめた。リューネの身体は、ジュウトの腕の中にすっぽりと収まってしまうほど小さく、少しでも力を入れれば壊れてしまうのではないかとさえ思った。リューネの甘く優しい香りが、彼の鼻腔をくすぐる。


「ジュウト…この13年間、私の従者として、時には兄のように、友のように、いつも私のそばにいてくれたこと、心から感謝しています」


「そんなこと…リューネ様…」


ジュウトの瞳からは、止めどなく涙が溢れ出し、リューネを抱きしめる腕が小刻みに震えている。


「泣かないで、ジュウト…これは、今生の別れではないのだから」


「りゅ、りゅ……ね…」


ジュウトは必死に涙を止めようとするが、彼の意思に逆らうように、涙は溢れ続ける。愛する主の言葉が、彼の心をさらに揺さぶる。


「私を守るために、剣術の鍛錬を一度も怠らなかったこと、私は知っています」


リューネはジュウトを見上げ、そっと彼の涙を拭う。その指先が触れるたびに、ジュウトの心はさらに締め付けられた。


「私が勉強でつまづいていた時も、いつも辛抱強く教えてくれましたね」


ジュウトの涙は、それでも絶え間なく溢れ続けた。


「私が熱を出した時は、ずっとそばで看病してくれましたね。どれほどジュウトがそばにいてくれて、私が安心できたか…」


リューネはもう一度、ジュウトの涙を拭い、優しい微笑みを向けた。


「いつだってジュウトは、私のために最善を尽くしてくれました。あなたが私の従者で本当に良かった。あなたがいてくれたからこそ、私はこれまで第五王子として頑張ってこられた。ありがとう、ジュウト」


リューネの小さな身体を抱きしめながら、ジュウトはしばらくの間、ただただむせび泣いた。


「ふふっ、ジュウトがこんなにも泣き虫さんだなんて、知りませんでした」


リューネは、ジュウトが落ち着くまで、彼の背中を優しくぽんぽんと撫でた。

ようやく落ち着いた頃、ジュウトは震える声で、ぽつりぽりと話し出す。


「リューネ様…私ジュウトは、クスラウド城の宝と過ごしたこの13年間を、心から誇りに思います。リューネ様はいつだって、周りの人々を思いやり、決して(おご)ることなく、努力を惜しまず、城に仕える私たちを笑顔にしてくださいました」


「でも私は13年もの間、あなたの人生を独り占めしてしまった。これからは、ジュウトの思うように生きてほしい。魔導士のお話、受けるのでしょう?」


ジュウトは黙ってうなずく。


「はい。デュラテス様より直接ご指導を受ける予定です。まずは3か月、鍛錬に励みます」


「ジュウトなら大丈夫。あなたは努力家だし、とても器用だもの。私もたまに魔導塔に行く予定だから、また会えるね。次に会った時は、主従の関係ではなく、一番の友として接してほしいな」


「そんな…リューネ様…それこそ恐れ多いです」


ジュウトは戸惑いながらも、その言葉の重みに胸を打たれた。


「ちょこっと立場が変わるだけ。従者を辞めたジュウトは、私にとって大切な友人です」


「ね?」と、リューネは最後にもう一度だけ、ジュウトをぎゅっと抱きしめた。その瞬間、控室の扉が静かに開き、アルが入室してきた。


「あ、あ、あ、あ、アルステルス様…」


あわあわとジュウトは慌ててリューネから離れたが、アルから怒りの視線や言葉が飛んでくることはない。


「くすくす、ジュウト、大丈夫。アルには、ちゃんとジュウトにハグしてもらうって事前に話してあるから。そんなに怯えないで?」


リューネは、離れた場所で真っ青になり、プルプルと震えているジュウトに優しく声をかけた。


「おい、ジュウト。リューネが今まで心穏やかに過ごせたのは、お前の力があってこそだったと思う。心から感謝する」


「ア…ル…ステル…ス、様」


まさかアルからも労いの言葉が発せられると思わなかったジュウトは、アルの言葉を聞くなり、またもや涙が溢れ出した。


「ジュウト、そんなに泣かないで?笑顔で私たちを見送って?」


リューネは柔らかくジュウトに微笑みかけた。


「行くぞリューネ。神官様がいらした。さっさとサインして、俺の物になれ」


アルは焦ることもなく、しかし確かな所有欲を滲ませて言った。


「お待たせしてはいけないね…では、ジュウト…行ってまいります」


リューネはまるでカフェにでも出かけるかのような気軽さで、ジュウトに声をかけた。


「アルステルス様、リューネ様…いってらっしゃいませ」


ジュウトは二人が去った扉の前で、しばらくの間、深々と頭を下げたまま動かなかった。




ムーンライトノベルズにて二人の初夜の様子を垣間見る事が出来ます。

R18なので要件を満たしてない方は行っちゃだめですよ。おねがい。

https://novel18.syosetu.com/n6090kp/

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