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5番目の王子  作者: Moma
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魔道塔最上階

「デュラテス様、失礼しまぁ~す。こちらの書類に目を通し…あれ?いらっしゃらないはずは…」


魔道塔の最上階。デュラテスの執務室の扉を開けたシェイラは、キョロキョロと部屋を見渡したが、どこにもその姿は見えない。下っ端魔道士のシェイラはまだ見習いの身。日々の業務では、書類整理や使い走りといった雑用をたまに頼まれることがあった。今日も朝一番に、先輩魔道士から重要な書類の届け物を頼まれたばかりだ。


シェイラにとって、デュラテスとアルステルスは憧れの存在だった。その見目麗しい容姿と、国でも一、二を争うほどの魔道士としての実力に惹かれ、魔道塔への勤務を強く希望した一人なのだ。だから、テスの元へお使いなんて、彼女にとってはご褒美以外の何物でもない。


(珈琲の香りがする……いい香り……)


ふわりと漂う芳醇な珈琲の香りをくんくんと堪能していると、奥の部屋から顔を出した人物に、ギロリと鋭い視線で睨みつけられた。


「なに」


低く、不機嫌そうなバリトンボイスが部屋に重く響き渡る。その威圧感に、シェイラはびくりと肩を震わせた。


(わわわ、この朝から不機嫌なご様子は、アルステルス様だ!)


シェイラは引きつりそうになる顔をなんとか笑顔に繕い、手に持っていた書類を机の上に置いた。緊張で声が上ずる。


「こ、こちらの書類をデュラテス様に。できるだけ早くサインをいただきたい、とお伝えいただけますでしょうか?」


「分かった」


たった一言だけ告げると、目の前の男は持っていた珈琲カップを傾け、ゆっくりと一口飲む。その不機嫌そうな佇まいですら、絵になるほどに様になっていた。


と、その時だった。


「おい、テス。先日の古書の件だが――」


シェイラのすぐ後ろから、目の前のアルと同じ声。振り返ると、そこにもアルが立っている。シェイラは、今目の前にいる珈琲を持った男と今現れた男の二人を、何度も何度も交互に見つめた。混乱で、思考が停止する。


珈琲カップを机に置き、耐えきれないとばかりに、目の前の男……テスが、耐え切れないとばかりに笑い出した。


「くくく、シェイラちゃん、ごめんごめん。俺、テスね。書類、サインして後で持ってくよ」


満面の笑顔を浮かべ、テスはバチンと一つウィンクをシェイラに送る。先程までの不機嫌そうな雰囲気はもうどこにもなく、いつもの飄々としたテスの姿に戻っていた。シェイラは、ポカンと口を開けたままテスを見つめていた。信じられない、という顔だ。


「テス……また同僚からかって遊んでるのかよ。いい加減にしろ。ほらお前も行け、仕事あるだろ」


アルは呆れたようにテスを咎め、そしてシェイラに促した。ハッとした様子のシェイラは、慌てて深々と頭を下げ一礼すると、階下へ続く魔法陣に乗り込み、転移で去って行った。


「くくっ、本当に誰も俺たちがどちらか見抜けないのが面白くてさ。長年一緒に仕事してた奴も、俺がアルのフリすると分からないらしいわ」


新しいおもちゃでも与えられた子供のように、テスは上機嫌だ。アルと全く同じに切り揃えられた髪を指で梳きながら、得意げに笑う。


そんなテスを、アルは呆れたような、しかしどこか諦めたような表情で見遣る。


「くだらない暇つぶしに俺を巻き込むな。この間は、テスが俺のフリをしていると思い込んでる奴に、散々しつこく付き纏われたんだぞ」


先日、いくら自分がテスではないと否定しても、「またまたぁ、もう騙されませんよー」とテスの部下に延々と付き纏われたことを思い出し、アルは心底うんざりした表情を浮かべた。


「で、古書がどうしたって?まさか、解けたの?」


テスは、卓上の珈琲の残りを飲み干し、アルの隣へと移動した。アルが先日から、古書の計算式に格闘していることは知っていた。テス自身も挑戦したが、途中で頭痛がするほど頭を使ってリタイアしたばかりなのだ。


「解けたらしい。……俺には無理だった」


アルは、少し悔しそうな顔で答えた。


「らしいって誰が解いたのさ?これ、ヤバいレベルの計算式じゃん」


アルは持っていた紙を広げ、テスに見せた。それは、リューネが解いたあの古代魔法書の計算式が記された回答用紙だった。


「これ、リューネが解いた。リューネの話だと、クスラウドの書庫にも同じような古書があって、以前解いたことがあるんだと。その解いた時は、数字が集まってキラキラして綺麗だったとか言ってたが、なんとも的を射ないなもんでな。一度クスラウドに、古書の話を詳しく聞きに行かねぇと」


テスは回答用紙を凝視する。その顔には、驚きと、そして知的好奇心が入り混じっていた。しかし、やがて困惑したように顔を上げた。


「ねえ、この回答が合ってるかどうかすら、俺、分からないんだけど……」


「安心しろ、俺も分からん」


アルの言葉に、テスは「だよねぇ」と小さく零した。それは、彼らの知識の限界を、あっさりと超えた領域だったのだ。テスは早速クスラウドにアポイントを取るべく、書状の準備を始めた。




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