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5番目の王子  作者: Moma
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残り少ない学園生活

今日はリューネの休日。

いつもなら昼近くまでベッドで眠っているアルも、今日は違う。気合を入れて早起きし、まだ人通りの少ない朝の学園へと向かった。アルはリューネと顔を合わせるなり、待ちきれないとばかりにアトリエへと転移する。久しぶりの二人きりの時間、たっぷりといちゃいちゃタイムを堪能するつもりだった。


アルはリューネを後ろからすっぽりと抱き込みソファに深く身を沈める。リューネの柔らかな髪に顔を埋めキスを落とす。そこから首筋へ、そして華奢な肩へと、途切れることなく甘いキスの雨を降らせていく。


「ふふっ、アル、くすぐったいよ」


リューネは身をよじりながらも、どこか嬉しそうな声を漏らした。やがてくるりと身体をアルの方へと向け、アルの胸に両手を置いて背伸びをする。そして、彼の唇に深く、熱い口付けを交わした。その瞳は潤み、アルを真っ直ぐに見つめる。


「アルに、ずっと会いたかった。たった2週間会っていなかっただけなのに、寂しくて、寂しくて、会いたくて仕方なかったの。もう、僕はアルがいない生活には耐えられないみたい」


リューネの言葉は、まるで堰を切ったように溢れ出した。普段以上に甘えたな仕草に、アルは内心ほくそ笑む。


(なるほどな。やたらリューネからのスキンシップが今日は多いと思っていたが……離れているのも、悪いことばかりじゃねぇな)


アルは腕の中のリューネの頭をポンポンと優しく撫でた。目を細めてアルに擦り寄ってくるリューネは、いつにも増して甘えたな雰囲気を醸し出している。


「で?」


不意にアルが口にした言葉に、リューネは「ん?」と小首を傾げた。


「試験、どうだった?」


その問いに、リューネの表情が途端に曇った。珍しく目が合わない。視線を泳がせ、最後にはアルの胸に顔を埋める。


「計算式の試験は、満点だったよ。でも、それ以外は…頑張ったんだけど…」


もごもごと、消え入りそうな声でリューネは続けた。


「普通科65人中42番でした……」


流石のアルも、その順位を聞いた途端に小さく噴き出した。


「ははっ、頑張った方じゃねぇの?学園の試験範囲は広いから、たった数ヶ月在籍しただけのお前にはキツイだろ」


アルは笑いながらも、リューネの頭をひたすら「よしよし」と撫でてやる。


「それでもみんなに勉強会でコツとか、先生の問題の出し方の癖とか、色々教えてもらったから、もう少し上位に食い込めると思ってたの。僕の読みが甘かった…」


しょんぼりと項垂れるリューネの頭を、アルは慰めるように撫で続けた。しかし、ふと脳裏に疑問がよぎる。


「それにしても魔道学園の計算式の試験は、相当難しいはずだ。お前、よく満点なんて取れたな。俺も得意な方だが、満点なんて取ったことねぇぞ」


リューネは顔を上げ、きょとんとした表情でアルを見た。


「クスラウドの王族って、計算式に強い血筋なんだって。お祖父様がそう言ってた。僕だけじゃなくて、お兄様もお姉様も、小さい頃から計算式を使った遊びをしてたの」


「……ちょっと待てよ」


その言葉を聞いた瞬間、アルの頭の中に何かが閃いたようだった。彼はリューネを抱きしめていた腕を解くと、急に立ち上がり転移してしまった。

暫くするとアルが戻ってきた。手には古びた装丁の古書。


「これ……とある場所から入手した古代魔法書なんだが、どうも中身の計算式が複雑で、俺もテスもお手上げ状態だったんだ。……お前ならもしかして、と思ってな」


アルはその古書をリューネへ差し出す。


「あれ? この本?」


リューネは受け取ると、ざっと中を確認し、ぱっと顔を上げた。


「うん、すごく似てるけど違うみたい。ちょっと待ってね、解いてみる」


そう言うなり、リューネは古書を広げ、さらさらと式を解き始める。アルはその様子をしばらくじっと見つめる。

あれほどの難解な計算式を、こうも簡単に解いてしまうものなのか――信じられない思いで、リューネの手元を凝視した。

半刻程経った頃、リューネがゆっくりと話はじめた。


「僕が15歳になった時、お祖父様から試験を受けたの。王族は全員受ける試験らしいんだけれど、その試験って、この古書と同じような計算式がたくさん載ってて、それを解くものだったの」


計算式を解きながらでも、リューネは普通に会話を続けている。

アルは驚きを隠せず、解き進む手元を見つめた。


「そんな古書、クスラウドの書庫にあったか……?」


かつてリューネと共に訪れた書庫を思い返すが、古代魔法書のような重要な本が置かれていた記憶はない。

魔術の発展が進んでいないクスラウドに、こうした魔導書が存在するのは奇妙だった。


「もしかしたら王族しか入れない書庫の方にあるのかもしれない。難しい本ばかりだし、帝王学とか必要なかったから、僕はそっちの書庫はあまり……ん? あれ?」


ふと、リューネが手元の筆を止める。


「どうした?」


「解けたと思ったんだけれど……おかしいな。間違ってるのかな?」


リューネは答えを書いた紙を裏返したり透かしたりして、何度も確認している。


「お前、何やってんの?」


アルは訝しげに眉をひそめる。


「前は答えが導き出されたら、ぱーって数字が浮かんで、キラキラして綺麗だったの! この本は違うのかもしれないね」


アルは一瞬考えた後、一度テスと相談してみようと決め、話を中断した。

何よりリューネとの貴重な逢瀬の時間をこれ以上無駄にしたくなかった。


「古書のことは……まぁ、後でゆっくり調べるとして」


アルが伸びをしながらそう言うと、待ってましたとばかりにリューネがぴょんと膝上に乗ってくる。


「いちゃいちゃタイム後半戦スタート?」


「勝手にイベント化すんな」


アルはリューネの耳元にそっと唇を寄せて、囁くようにキスを落とした。頬に、首筋に、そして甘く深く唇を重ねる。

熱を帯びた空気の中、二人は何度も笑い合いながら、ぴったりと寄り添ったまま、とろけるような午後を過ごしていった。




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