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5番目の王子  作者: Moma
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リューネのいないリューネの休日

昨夜は遅くまでアトリエで作業をしていたアルは、重たげな身体を引きずるようにベッドから這い出した。

窓から差し込む光をぼんやりと眺める。朝の爽やかな陽射しはとっくに過ぎ去り、どうやら昼も半ばを迎えているようだった。


「眠ぃ…」


かすれた声で呟きながら、無造作に髪をかき上げる。

リューネが学園に通い始めて、もうすぐ二か月が経つ。

独り寝の寂しさには、多少は慣れてきた。それでも、リューネの温もりを恋しく思う瞬間は数え切れない。

ベッドに残る僅かな温もりに指を這わせながら、ふと微笑む。

リューネと出会う前は、誰かのぬくもりを求めることなど想像すらつかなかった。


「また切らしてたか…」


キッチンへ向かうと、珈琲のストックが底を尽きていることに気づく。

それだけのことなのに、自然と口元が緩んだ。

――すべては、珈琲を切らしていたことから始まったのだから。


「アイツと親しくなるきっかけだったもんな」


独り言ちて、クローゼットへと足を向ける。

変わり映えのない、黒一色の服ばかりが並ぶ空間。迷うことなく街に馴染む装いを選び、手早く着替えを済ませる。

スッキリしない頭を軽く振り、転移魔法を唱えた。

しかし――


(これだから、寝ぼけた頭のまま外に出たくないんだよ…)


瞬間、視界に広がったのは目的のカフェではなく、魔道学園の門だった。


「まったく、何やってんだか」


アルは大きく息を吐き苦笑する。

本来なら今日はリューネと過ごす予定だった。しかし、休み明けに試験を控えているとのことで、リューネはクラスメイトとの勉強会に参加すると、事前に伝えられていた。

短期留学生である以上、試験の成績はそれほど重要ではない。

そもそも、クスラウドでは学生ですらない。

だが、リューネにとっては初めて順位のつく試験だった。

生まれてこのかた、一度も誰かと比べられることなく育った彼にとって、試験とは未知の挑戦だ。


(だから、頑張りたいんだろうな)


門前で立ち止まり、リューネの笑顔を思い浮かべる。

そして踵を返し、たまにはひとりでのんびり歩くのも悪くないと思いながら、中心街のカフェへと向かった。

空は澄み渡り、陽射しは暖かく――正直、デート日和だった。


「おい、アル。アルじゃねぇか!」


背後から突然声を掛けられ、アルは足を止めて振り返った。


「トラビスか。久しぶりだな。遠征から帰ってきたのか?」


「いや、一時的に戻ってきただけで、明日にはまた遠征先に戻る。ところでお前、婚約したらしいじゃねぇか?」


トラビスは豪快に笑いながら、アルの背中を勢いよく叩いた。彼はマリールゥの兄で、魔法騎士団に所属している。平民出身でありながらエリートコースを順調に進んでおり、将来を嘱望される有望株だ。


「お前こそ浮いた話はないのか? 魔法騎士団に所属してるんだから、女が寄ってくるんじゃないのか?」


「毎日鍛錬、任務、会議でそれどころじゃねぇんだよ。正直、結婚相手のいるお前が羨ましい。俺も可愛い伴侶が欲しい。――可愛い限定でな」


人好きのする笑顔を浮かべるトラビスの言葉に、アルは苦笑した。

それからしばらく昔話に花を咲かせながら、ルブテールズの街を歩き、カフェの前で別れる。


カフェのテラス席で、軽食とエスプレッソを注文し、ようやく一息つく。温かい日差しの中、アルの心は自然とリューネへと向けられた。学園が休みの日は、時間の許す限りアルと一緒に過ごし、学園で起きたことや友人の話を楽しそうに聞かせてくれる。毎日がとても楽しいと笑顔を浮かべるリューネに愛おしさがこみ上げる。


(そうだよな、あいつまだ17歳なんだよな)


取るに足らないような些細な出来事も、全てが新しく、楽しく感じる時期。アルだって、その頃はテスやトラビスと随分と好き勝手やっていた。授業なんてまともに受けた記憶はなく、しょっちゅうサボっては三人でつるんでいたものだ。そんなことすら、今となっては楽しかった記憶しかない。


(そんな時期が、たった三ヶ月だけしかないなんてな)


エスプレッソを飲み干し、注文しておいた珈琲豆を受け取りカフェを後にすると、ふと思い立って評判の菓子屋へと足を向けた。

ショーケースに並ぶ色とりどりの焼き菓子を眺めながら、少し多めに詰めてもらうよう店主に頼む。

そして――静かに転移魔法を唱え、学園の受付へと降り立った。


「この菓子をリューネへ渡してほしい」


受付の職員にそう伝え、アルはアトリエへ戻る。

その頃、学園内で勉強会を終えたリューネに職員が笑顔で包みを差し出した。


「リューネ様、アルステルス様よりお届け物です」


リューネは驚きながらも嬉しそうに包みを受け取る。

リボンを解き、整然と詰められた菓子を見つめる。

添えられた小さなカードの文字にそっと目を落とす。


『脳には甘い物が良いらしい アル』


リューネはふっと微笑んで、大切そうにカードを手に取りキスを落とした。




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