余韻
《えー、デュラテス様の姿を魔道場で確認ができないため、勝者アルステルス様!アルステルス様の、優勝です!!》
司会の宣言が会場に響き渡ると、一瞬の静寂の後、割れるような大歓声と、そして残念そうな悲鳴が入り混じった阿鼻叫喚が沸き上がった。特に後者は、おそらくテスに大金を賭けていたであろう人々からの絶望的な叫びだろう。しかし、そんなざわめきを切り裂くように、Bクラスの生徒たちは異様な熱狂に包まれていた。狂喜乱舞し、隣の友と抱き合い、喜びのあまり飛び上がって互いの勝利を分かち合っている。まるで自分たちが優勝したかのような、爆発的な喜びがそこにはあった。
その熱狂の渦の中、 回復術師が素早く魔道場へ駆け込み、すぐにアルの元へと向かった。彼らは手際よくアルの頬を掠めた傷の手当を始める。その間も、観覧席からリューネの視線は微動だにせずアルに注がれている。両手を胸の前に組み、じっとその姿を見守っていた。
やがて、アルは回復術師に片手を上げて感謝を伝えると、リューネのいる観覧席へと歩み寄る。
「アル……」
リューネはそっと手を伸ばし、アルの頬の浅い傷跡に触れる。
「痛くない……?」
「最高峰のヒーラーに診てもらったからな。もう傷は塞がってる」
リューネはほっとしたように微笑み、愛おしそうにアルの頬を撫でた。
そんな二人の間に――突如、空間が歪む音がしたかと思うと、転移の魔方陣が浮かび、テスが突然姿を現した。
「ちょっとちょっと、アル!さっきの魔術、何!?どこで覚えたの!?ねぇ、俺にも教えて!」
自分が敗れたことなど完全に忘れている様子で、テスは魔術の謎の方にばかり意識が向いている。
髪の一房がざっくりと切り落とされていることすら、どうでもいいらしい。
「おい魔術バカ。今いいとこなんだ。邪魔するな。これからリューネに勝利のキスをもらうとこなんだから」
慌てて言葉を挟むアルに、リューネは思わず苦笑した。
さすがに観客が大勢いる中でキスを披露する度胸までは持ち合わせていない。
「キスなんて、いつでもしてるでしょ?そんなことより、さっきの魔術――ま・じゅ・つ・!」
「……煩い。クスラウドの城の書庫で見つけた魔術書に載ってたやつだ。リューネと一緒に行った時に見つけたんだよ。どうしても知りたきゃ、観覧席にいるリューネの兄貴に頼め」
アルがそう言い終える前に、テスの姿はもう消えていた。
「デュラテス様って魔術の事で頭が一杯なんだね」
呆れながらも笑いが漏れるリューネに、アルも小さく肩をすくめた。
「筆頭魔導士だしな。勝敗より魔術の研究の方が大事なんだろ」
こうしてエキシビジョンマッチは無事に終了し、祭りもいよいよ終盤を迎える。
魔道場には魔道科の生徒たちが集まり、祭りの最後を飾る花火の打ち上げ準備を進めていた。
それは学園の伝統――祭りの締めくくりには、魔道科の生徒たちが一人一人、独自の魔術を駆使して花火を打ち上げるのが習わしだった。
クスラウドからの留学生も、この特別な儀式に参加するようで、仲間たちとともに準備を進めている様子が見える。
夜空に最初の閃光が走る。
魔道場で花火が打ち上がった瞬間、それを合図に待ち構えていた街中やルブテールズ城からも、一斉に花火が放たれた。
咲き誇る光の花々が、夜空を鮮やかに彩る。
「圧巻だね……皆で作ってるお祭りって感じで素敵」
リューネは輝く空を見上げながら、しみじみと呟いた。
魔力のほとんど使い果たしたアルは、魔道場の片隅でリューネの膝枕を受けながら、静かに花火を眺めていた。
リューネは彼の髪をそっと梳きながら、時折その頬を撫でる。
夜空に咲いては消える魔法の光に包まれながら、二人はただ静かに寄り添っていた。




