祭り最終日
「今日のリューネ君の家族席というか、王族席?めっちゃキラキラしてるんだけど……」
マリールゥはクラスメイトたちと顔を見合わせ、ひそひそとささやき合う。
朝一番、クスラウドからの客人としてやってきたレステュユルニはジュウトと共にカフェを訪れ、紅茶と軽食を注文していた。
その後まもなくテスが現れ、レステュユルニが快く相席を申し出て、二人は穏やかに談笑を始める。
そこに、渋面を浮かべたアルが来店。入ってすぐにレステュユルニとテスの姿を認めた彼は、思わず踵を返そうとしたが——「帰っちゃうの?」と、リューネの上目遣い攻撃が炸裂した。
あっけなく撃沈したアルは、結局家族席に腰を下ろすことになり、何ともカオスな状態に。
ジュウトはパーテーションの内側で控えていたが、Bクラス女子たちに囲まれ、珍しく頬を緩めている。むしろ彼だけが天国のような空間にいた。
「テス、迷路の訳分からん仕掛け、お前が仕組んだな」
アルが睨むように問いかけると、テスは悪びれもせず、涼しい顔で答えた。
「もしかしてリューネちゃんと行った?仕組んだなんて人聞き悪いなぁ。あれは持ってる魔力量によって罠が比例して発動するだけだよ~。リューネちゃん一人で行ったら、ただの迷路だったのにね。アルが一緒だったから、大仕掛けの罠が作動したんじゃない?でも楽しかったでしょ?俺は楽しかったよ!」
「お前のことだ。魔力量によって発動される罠のデータが欲しかっただけだろ」
テスはニンマリと笑うだけで、否定も肯定もしない。
「レステュユルニ殿も、よろしければ迷路の探索などいかがですか? 私はこのあと魔術対戦の試合が控えておりますのでご一緒できませんが、うちの魔導士を何名か同行させます。 回復術師も手配いたしますので、安全にお楽しみいただけるかと」
デュラテスの申し出に、レステュユルニは少し考えたのち、静かに頷いた。
「そうだな……デュラテス殿の対戦までには時間もあることだし、行ってみるか。魔導士殿の手配、頼む」
会話の最中、レステュユルニの視線は絶えずリューネを追っていた。
リューネがふと近くを通ると、彼は満面の笑みで手をぶんぶんと振り、リューネも小さく手を振り返す。
「私はそろそろ会場へ向かいますので、これにて失礼いたします。レステュユルニ殿、ルブテールズの祭りを心ゆくまでお楽しみください。アル、また後ほど」
デュラテスはアルに向かってバチンとウィンクを飛ばすと、軽やかに席を離れ、そのままリューネの元へと歩み寄る。そして、彼の手の甲に恭しく唇を寄せ、一礼して去っていった。
(試合前から煽んなつーの)
店内のあちこちから女性客たちの黄色い悲鳴が上がり、アルはさらに渋面を深くする。レステュユルニはそれを楽しげに見守りながら、にやにやと笑っていた。
「今日のメインイベントはアルステルス殿とデュラテス殿のエキシビジョンマッチと聞いている。観覧席で拝見するのが楽しみだ。なにしろ、リューネの伴侶となるお方だからな。アルステルス殿、御健闘を」
レステュユルニは完璧な王族スマイルを浮かべ、穏やかに激励する。
『リューネの伴侶になるんだから、まさか負けたりしないよね?』
そんな言葉の裏が透けて見えるような声に、アルは渋面のまま黙って一つ頷き、すっかり冷めてしまった紅茶を一気に飲み干した。
* * *
「ね、アル。アルって攻撃魔法使えるの? はい、あーん」
リューネは屋台で買った色とりどりのフルーツ盛り合わせを、一つずつ丁寧にフォークで刺しては、せっせとアルの口に運んでいた。制服姿のリューネは今日、学生観覧席からエキシビジョンマッチを観る予定で、その前にアルと二人、お祭りをのんびり楽しんでいた。
「そうか……お前を助けたとき、俺のほとんどの魔力と攻撃魔法を封印されてたんだ。悪用できねぇようにな」
そう言いながら、アルは手元のフルーツを一つ取ってリューネの口元へ差し出す。
「ほら、お前も食え」
「アルは悪いことに使う人じゃないって知ってるよ。魔力が切れるまで僕を助けようとしてくれてたもの」
「俺の意思なんざ関係ねぇんだよ。魔力を封じられてる方が、何かあった時に『使えなかった』って言い訳が立つだろ?」
そう言いながら、アルは容器の中のフルーツを見下ろし、首をかしげた。
「ってか、これ量おかしくねぇか? さっぱり減らねぇ」
「三日連続で買ってたら屋台のおじさんが覚えてくれて、沢山おまけしてくれたの」
「そりゃ嬉しいけど、食いきれねーだろ。お前の部屋に転送しといてやる」
そう言うと、アルはひとつ呪文を唱え、フルーツの入った容器を魔法で転移させた。
「あっ!今、魔力使わない方がよかったんじゃ。デュラテス様との試合に影響が出たら……」
「くくっ、何言ってんだ。こんなの、魔力使った内に入らねーよ。そんなに気になるなら、お前が癒してくれよ」
「んー、じゃあ……膝枕する?」
リューネはぽんぽんと自分の膝を叩き、アルを誘った。アルは素直にその膝の上に頭を乗せると、人差し指で自分の唇をトントンと叩く。
リューネはくすっと微笑み、アルの唇にそっと口づけを落とした。
* * *
「リューーネくーーん、こっち、こっちーー!」
試合会場近くの広場で、マリールウを先頭にBクラスの面々が手を振っていた。
「皆さんお待たせ、遅くなっちゃったかな」
「ぜーんぜん! まだ試合も始まらないし。アルステルス様とゆっくりできた?」
「うん、パレードも見たし、屋台のご飯もいっぱい食べて、今日は一番のんびり過ごせたかも」
「ふふ、よかった。今日、アルステルス様ずっと眉間に皺寄せてたからちょっと心配してたの。そうそう、リューネ君に渡しておくね。三日分のチップ。すごい金額になってたよ。デュラテス様と並ぶ歴代最高額なんだって」
マリールウはまるで自分のことのように嬉しそうに微笑んだ。
「デュラテス様も給仕してたんだ。うん、なんか分かる。好きそうだよね、ああいうの」
ふたりは視線を合わせ、くすくすと笑い合った。その様子を見ていたクラスメイトたちも加わり、わいわいと会場の魔道場へと向かう。
途中、リューネがふと足を止める。
「マリーさん、あれ何?」
視線の先には、少し騒がしい一角があった。
「ああ、あれはね、賭博よ。アルステルス様とデュラテス様、どっちが勝つか賭けてるの。しかもね、主催は学園側。びっくりでしょ? 毎回デュラテス様が勝ってるから、今回もデュラテス様の倍率の方が低いみたい……って、ごめんリューネ君」
「ううん、大丈夫。だって、あれはただの予想でしょ? 私のアルが負けるはずないもの」
リューネがにっこりと微笑んだ瞬間、その場にいたBクラスの生徒たち全員が、ぴたりと静まり返った。その笑顔の威力に、誰もが息をのんだのだった。




