ルブテールズ祭①
「はーい!こちらカフェご利用の方、最後尾になりまーす!メニューをお渡ししますので、オーダー表にご注文と、もし給仕のご指名があればお名前の記入もお願いしまーす!給仕の名前はメニューの下部に記載してます!指名料は別途かかりますのでご注意くださーい!」
生徒の声が食堂の外まで響いていた。
ルブテールズ祭初日、朝から好天に恵まれ、学園の敷地内は大勢の来場者で溢れかえっていた。その中でも、ひときわ注目を集めているのが学内食堂を使った特設カフェだ。
普段は生徒たちの憩いの場である広々とした食堂が、今日は白と金を基調に装飾された華やかなカフェへと姿を変え、列は建物の外まで続いている。最後尾担当の生徒はすでに何度も案内を繰り返し、声がかすれ始めていた。
それもそのはず。この混雑の理由は明白だ。
「アルステルス様の婚約者が給仕をしているらしい」
そんな噂が学園内外を駆け巡り、あっという間に来場者の注目の的となった。中でも特に女性客の割合が多く、目当ての給仕を指名するシステムに歓声が絶えない。
しかも、Bクラスだけでなく、他のクラスもこの機にとイケメン生徒を揃えて対抗してきたため、競争は熾烈を極めていた。
――そんな中。
「リューネ君、生きてる? 息してる?はい、水、飲んで!今ちょっとだけ手が空いたから!」
マリールウが厨房から駆け寄り、慣れた手つきで冷たい水の入ったグラスを差し出す。フロア全体の指揮を任されている彼女も、さすがに目が回りそうだ。
「ありがとう……。ふぅ……。お水が美味しい……。こんなに、カフェの給仕って、体力使うんだね」
リューネは額にうっすらと汗を浮かべながらも、笑みを絶やさずグラスを口に運んだ。
「これ、リューネ君効果だよ……。ごめんね、もう少しだけ!あと一刻くらいだけど、新規のリューネ君指名はストップかけたから!アルステルス様がお迎えに来るんでしょ?」
「うん。一緒にお祭りまわろうって約束してるんだ。そろそろ来る頃だと思う。……あ、あのテーブル、札が上がった。行ってきます」
食堂のテーブルごとに立てられた小さな色付き札。来客は札を上げることで給仕を呼ぶシステムになっており、それぞれの給仕には担当カラーが割り振られている。リューネの担当は『蒼』。
給仕エリアへと向かうリューネの姿は、誰が見ても様になっていた。
後ろでひとつに束ねたピンクブロンド、白いシャツにネクタイ、黒のベストとスラックス、そして足元まで届くロングエプロン。きびきびとした動きと所作の美しさは、まるで貴族の執事を彷彿とさせる。普段の柔らかく控えめな印象とはまるで違うそのギャップが、客たちの心を撃ち抜いていた。
「いらっしゃいませ。本日は当カフェをご利用いただき、誠にありがとうございます。ご指名いただきました給仕、リューネと申します。よろしくお願いいたします」
優雅に一礼し、微笑を浮かべて対応する姿は、もはや“王族スマイル”の異名を持つに相応しい。
「こちら、ご注文のお品のアールグレイでございます。失礼いたします」
トレイを持つ手に一切の乱れはなく、丁寧に紅茶を提供するリューネの仕草ひとつひとつに、周囲の客たちは見惚れていた。
そんな最中、外からざわめきが起こる。
「アルステルス様がいらっしゃったわ…」
カフェの扉が開き、強い日差しの中から、長身の青年が静かに歩を進めてきた。その登場に、店内の空気が一瞬で変わる。彼の姿を見つけたリューネが、思わず手を止めた。
アルステルスの到着に、また一段と熱を帯びるカフェ。
けれどリューネは、深呼吸をひとつ。客席へ向き直り、微笑を崩さず、次の一杯を丁寧に運んでいく。
こうして、ルブテールズ祭のカフェ初日は、喧騒と熱気、そしてリューネの奮闘に彩られて幕を開けた。




