暗躍②
アルが探索用ドールの微弱な魔力を辿り、転移を終えた瞬間――
轟音が鳴り響き、デュラテスが宙に踊り出す。
潜伏していた魔導士たちのいる廃墟の壁が一瞬にして砕け散り、瓦礫と魔力の残響が空間を震わせる。
破壊の余波に晒された者たちが混乱する中、デュラテスは迷いなく魔法陣を次々と繰り出した。
「くそっ、派手にやりすぎだろ……!」
アルは舌打をちしながら、爆風をものともせずに即座に距離を詰める。
「おい、テス!殺すなよ?」
アルは苦笑を浮かべながら声をかけ、逃げ惑う魔導士たちを一人、また一人と拘束魔術で絡め取っていく。
拘束された者たちは必死に魔力を振り絞り、防御魔法を展開するも――崩れ落ちるのは時間の問題だった。
「ねえ、アル?こいつら全然強くなくてつまんない……。こんなに手加減してるのに、もう反撃すらしてこないんだけど?」
デュラテスは退屈そうに呟きながら、短い詠唱を唱える。
次の瞬間、氷の刃が空間を切り裂き、敵の足元へと突き刺さる。
冷気が広がるたび、魔導士たちは凍りつくような絶望を感じながら後退するしかなかった。
「お前が強すぎるだけだろ……」
アルは呆れたように言いながら、捕らえた魔導士たちを次々と尋問室へ転移させる。
「最近、デスクワーク続きで体が鈍っていたから、ちょうどいいと思ったんだけどな…」
テスは物足りなさそうに肩をすくめる。
「準備運動にすらならないなんて」
その言葉が終わるか否か、デュラテスの周囲に冷気が凝縮していく。
最後の一人――未だ抵抗を続けていた魔導士の周囲に、練り上げられた強烈な魔力が渦巻く。
そしてデュラテスが手をかざした瞬間、無数の鋭利な氷刃が嵐のように襲い掛かり、敵の魔力障壁を粉砕する――。
「だからやり過ぎだっての、こいつらまだ尋問しなきゃならねぇんだからな――」
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重厚な扉が静かに閉ざされる。
ルブテール王国の尋問室。
中央には捕えられた魔導士と密談者が拘束され、デュラテスがその前に立つ。
アルは壁際で腕を組み、静かにその場を見つめていた。
「最初に言っておくけれど、黙秘の選択は懸命じゃないよ?自白させる手段は沢山あるからね?」
デュラテスの声は穏やかだが、そこには冷徹な威圧が滲んでいる。
魔導士達は先程の戦闘ですっかり観念したようで既に顔面蒼白だ。
「……ルブテールでの襲撃事件の理由をまず聞こうかな?」
男の一人が、目を伏せながら絞り出すように言った
「……伝説の血だ。あいつの血は……普通じゃない。俺たちは正義を成そうとしただけだ」
「伝説の血?」
アルは唇を引き締め、鋭く相手を射抜いた。
「俺たちは昔から聞かされていたんだ。貴族や王族の中に特別な血を持つ者がいる――その血統は、王政を崩壊させる可能性がある」
静かに息を吐き、デュラテスは問いを重ねる。
「つまり、その血統を恐れているって事?その血統が危険だから排除しようって事?」
男の目がかすかに揺れ、だがすぐに、まるで自らの信念を再確認するかのように、深く息を吸い込んだ。
「ヴィクターは教えてくれたんだ。王国の歴史を、過去の混乱を……全ての裏に、奴らの血があった。王族や貴族の中に紛れた“特別な血”こそが、この国の均衡を脅かす原因だったんだ。」
その言葉には、疑いの余地などないかのような硬い確信がにじんでいた。
「ちょっとまって、ヴィクターって誰?一体何者なの?」
新たな人物の名前が挙がり、デュラテスが割り込む。
「俺達に襲撃相手の情報を渡しに来る男だ」
男は更に続ける。
「俺たちは見てきた。聞いてきた。歴史は繰り返される。この血を絶たなければ、再び王国は崩壊する。俺たちは、それを止めたかっただけだ……俺たちは何も間違えていない」
「ヴィクターの教えがなければ……俺たちは何も知らぬまま、国の崩壊をただ見ているしかなかった……!」
陶酔にも似た口調で語る男の目は虚空を彷徨い、震える指は何かにすがるように彷徨っている。
(伝説の血の話を語り始めた頃から様子がおかしい…洗脳でもされているのか?)
アルは目を細め、男たちを冷静に観察する。男の呼吸は荒く、まるでその言葉にしがみつくことで、自我を保とうとしているかのようだ。
デュラテスがアルに視線を送り、小さく首を振った。彼もまた、異変を感じ取っているのだろう。
「話題を変えよう、ヴィクターは何時どのように接触してくる?」
男たちは顔を見合わせた。答えに窮したように、一瞬の沈黙が訪れる。やがて、一人が低い声で呟いた。
「……決まって、一人の時だ」
デュラテスが目を細める。
「具体的に話して」
男は苦々しく眉を寄せる。言葉を選ぶようにゆっくりと口を開いた。
「俺の場合は、倉庫で書類を整理していた時だ。誰もいないはずだった……なのに、気づいたら、そこにいた」
別の男が頷きながら続ける。
「俺は路地裏にいた。用事を済ませて店を出た後、誰もいなかったはずの道で気配を感じ振り返るとすでにそこに立っていた。俺たち全員、別々の機会にヴィクターから指示を受けた」
「つまり、ヴィクターが一度に複数の者と接触することはないって事?」
「……そうだ」
デュラテスが椅子の肘掛けを軽く指で叩く。
「ヴィクターの風貌は?」
「顔はわからない。何時もフードを深く被っていて、やせ型でそれほど背は高くない」
「俺は――左の手首に大きな痣があるのを見たことがある」
「歩き方が少し変だった。足を引きずるような感じだった」
それは俺も見た事があると他の男達が口々に話し出す。
「ちょっと不思議に思っていたんだけれど、誰もヴィクターの後を尾けたり、素性を洗い出そうとした者はこの中にいないの?」
男たちは揃って眉をひそめ、まるで理解できないといった表情を浮かべた
(なるほどね、彼らにとってヴィクターは“知る”存在ではなく、“従う”存在って事ね)
デュラテスは深い溜息と共に諦めの表情を浮かべた。
「……つまり、これ以上は何も得られない、ということか。仕方ない、別の方法を探るしかないね、アル」




