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推しを幸せにしたすぎて、漫画の中まで押しかけてしまったみたいです  作者: えくれあ


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第23話

 

「おまえ、今日はもう帰っていいぞ。親御さんに迎えに来てもらって、病院行ってこい」


 試合後、すぐに帰っていい、というわけではなかった。

 ミーティングや何やら、まだまだ予定はあって、本来なら帰る時間はもう少し先である。

 だが、怪我のこともあり、顧問は凌空にだけ先に帰るように告げた。

 しかしながら、当の凌空は困ったように笑いながら、その場に残ろうとしている。


「もしかして、凌空、今日二人ともお仕事?」


 漫画にも、出て来た設定である。

 凌空の両親は共働きで、忙しい時は休みの日でさえ二人揃って居ないことがある。

 それをいいことに、結芽が凌空の家で勉強を教わるようなシーンも、漫画には少し出てきたりしていたのだ。

 結芽の家は逆に常に兄弟が居て騒がしいこともあり、凌空しか居ない隣の家は静かに勉強するには最高の場所だったことだろう。


(確か、凌空の両親って二人とも大学の研究員、だっけ。研究が佳境の時なんかは、よく二人揃って夜遅くや休みの日まで研究に没頭してたはず……)


 きっと、今日もそうなのだろうと想像した後、凛はああ、まただ、と思った。

 凌空の両親について、これほど詳しい描写は漫画には登場していない。

 けれど、凛は昔から知っていたかのように、凌空の両親の職業が思い浮かんだのだ。


「ああ、今、なんかいいところらしくてさ、二人揃って、目が離せないとかなんとか」


 二人ともなんだかんだ、楽しそうだったと凌空は笑っている。

 けれど、そんな状態では、残念ながらお迎えは期待できなさそうだ。


「ママに、来てもらえるか、聞いてみるね」


 これも記憶を頼りに判断したものだ。

 凛の両親は、凛に対して過保護な面もあるためか、迎えに来てほしいと頼めば必ずどちらかが来てくれる。

 それだけではなく、近所に住む凌空や結芽に対しても面倒見がいい。

 おそらくは、二つ返事で病院まで付き添ってくれるはずだ。


「いいって、そこまでしなくても!たいした怪我じゃねーし」

「駄目!!」


 凛から見た限りでは、とてもではないがたいした怪我じゃないなんて思えない。

 だが、このまま放っておくと、凌空は病院に行かずになんとかしようとしてしまいそうだ。


「いいじゃん、ここは凛とおばさんに甘えなよ」


 どこかのほほんとした声で、助け船を出してくれたのは結芽だった。

 結芽もまた、連絡さえすれば凛の母は来てくれるだろうと確信しているようである。


「凛、連絡しておいでよ」

「うん、いってくる」

「ちょっと待て、そこまでじゃないって……っ」

「凛、走っちゃダメだよ、ゆっくりね~」

「はぁい」


 制止しようとする凌空の声は、二人して聞こえないふりをして。

 凛はスマホを取りに部室へと向かった。




 凛の母は、凛の予想通り二つ返事でお迎えと病院への付き添いを承諾してくれた。

 顧問の先生の計らいで、凌空だけではなく、凛も先に帰っていいことになり、二人でお迎えが来るだろう正門の方へと向かう。


「凌空、荷物、持つよ?」


 怪我をしていて、大変だろうと凛はそう申し出た。

 けれど、何度言っても、凌空はその荷物を凛に手渡そうとはしない。


「これくらい、大丈夫だった」


 きっと、足が痛むのだろう。

 足を引き摺るような歩き方になってしまっていて、歩きにくそうだった。

 だからせめて荷物くらいは、そう思うのに凌空は最後まで凛には何一つ持たせてはくれなかった。


「凌空くん、大丈夫?」


 二人が向かってくる姿が、見えたのだろう。

 正門に辿り着く前に、凛の母が二人の元へと駆け寄ってきた。


「ほら、荷物貸して。おばさんが持ってあげるから」

「すみません。助かります」


 やはり怪我をしている状態で、荷物を持っているのは大変だったのだろう。

 凛の母が渡すように手を差し出すと、凌空は申し訳なさそうにしながらもあっさりと渡してしまった。


(どうして、私はダメなの?)


 きっと、身体の弱い凛には、負担をかけないように考えてくれたのだとわかる。

 けれども、こんな時くらいは頼って欲しかった、凛はそんな思いを抱えながら二人のやり取りと見ていた。






(あれ、凌空と二人きりって、こんなに緊張したっけ?)


 病院で診察を終えた凌空は、骨に異常はなかったもののしばらくは松葉杖のお世話になることになった。

 それが気に入らないのか、待合室でふてくされた様子で何度もため息をついている。


 一方で、凛の母は凌空の代わりに会計の手続きに行ってしまった。

 大きな病院のため、患者も多く、窓口には長い列ができている。

 終わるまでには、少し時間がかかりそうだった。


 そんな母を、凛は待合室で凌空と並んで座って待っている。

 患者の多い病院だ、待合室だって、決して2人きり、なんてことはなく、人で溢れている。

 それなのに、凛は先ほどから心臓がどきどきとうるさく、どうしていいかわからなくなっていた。


(な、なにか、喋った方がいいよね)


 そう思って、凛はちらりと凌空に視線を向けた。


(やっぱり、かっこいいなぁ)


 そんな感想ばかりが出てきて、話題は何一つ思いつかない。

 先程から、その繰り返しで、緊張は増すばかりだった。


(どうしよう……)


 だんだんと顔も見れなくなっていき、視線もどんどんと下がっていく。

 そこで、あるものが、凛の目に入った。


「あっ!それっ!!」


 さっきまでまともに喋れなかったのが、嘘のように声が出た。

 突然だったからだろう、凌空は驚いた様子で凛を見ている。


「なんだよ、急に」

「あ、いや、えっと……」


 凌空が毎日使っている部活用のスポーツバッグ。

 そこに当然のように揺れているキーホルダーの存在に、凛は今の今まで気づいていなかった。


(いつから、つけてたんだろう)


 そのキーホルダーは、先日凌空と凛で選んで作ったお揃いのもの。

 凛の通学用カバンには、結芽たちと4人でお揃いのものと2つ一緒につけている。

 同じように通学用カバンにつけていた結芽がそれに気づいて、喜んでくれていたのは凛の記憶に新しかった。

 けれど、その話をしていた時、すぐ傍に居た凌空は興味なさそうに二人を見ているだけだったのだ。


(凌空は、私と2人でお揃いの方しか、つけてないんだ)


 周囲を見渡してみたけれど、結芽が選んだ方のキーホルダーは見当たらなかった。


「おまえだって、つけてただろ?俺がつけるの、そんなにおかしいか?」


 凛の視線がキーホルダーに向かっていることに気づいた凌空が、不満げに問いかけてくる。

 そんなつもりではなかった、と凛は慌てて首を振った。


「そういうんじゃないの、使ってくれてるって、思ってなかったから」


 だって、原作では一度も結芽が選んだキーホルダーが使われているシーンが出て来なかったのだ。

 てっきり、凛とお揃いのキーホルダーも使われずに終わるのだろうと、凛は思い込んでしまっていた。


(一緒に使えるのって、こんなに嬉しいんだ)


 悠とお揃いで使えた漫画の中の結芽も、きっとこんな気持ちだったのだろう。

 漫画の中の結芽と感情を共有できたような気がして、それもまた凛は嬉しくてしかたがなかった。


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