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推しを幸せにしたすぎて、漫画の中まで押しかけてしまったみたいです  作者: えくれあ


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22/22

第22話

 

 迎えた練習試合の日のことである。

 両校ともにレギュラーと数名の控え選手、それから顧問の先生とマネージャーは1階に、それ以外の部員は2階のギャラリーからの観覧となった。

 1年は凌空を除いては、誰もベンチ入りすらしていない状態のため、悠も当然2階に行ってしまっており残念ながら近くでともに観戦することはできなかった。

 大勢の生徒が見下ろすに凛は圧迫感を覚え落ち着かない気分になったが、凌空も結芽もたいして気にしていないようだった。

 それでも凛は、今日だけは全てを忘れて気持ちを切り替え、凌空を応援することだけを考えよう、そう意気込んでいたはずだった。

 だが、今はそんな意気込みをすっかり忘れ去ってしまいそうだった。


(ああ、また……っ)


 凛はコートでプレーする凌空から、何度となく目を背けてしまいそうになるのを耐えるのに、ただただ必死だった。

 相手校のレギュラーも含め、1年生でレギュラー入りしているのは凌空ただ一人だったからなのかもしれない。

 狙い目だと思われたのか、凌空に対して多少強引にボールを奪いに来るような、そんなプレーが続いていた。

 それだけなら、凛はまだ目を背けたいとまでは思わず、凌空を心配しながらも応援に徹することができたかもしれない。

 凌空はそんな強引なプレーを上手くかわしながら、シュートを決めたりと、活躍を見せていたから。

 しかし、そんな凌空の様子が、相手チームにおかしな方向で火をつけてしまったようだった。

 ファウルぎりぎりの悪質なラフプレーが続くようになった。

 凌空は相手のプレーにより何度となくバランスを崩したり、倒されたりと危険な状況に陥った。

 しかし、持ち前の身体能力の高さのおかげもあって、大怪我をするような事態にはなってない所為なのか、審判が笛を鳴らすことはなかった。


「凌空っ!」


 またしても凌空に対する危険なプレーを目の当たりにし、凛は思わず目を閉じそうになった。

 けれど、一番大変なのは、今コートの中で頑張っている凌空なのだから、せめて目を逸らすことなくしっかり応援しようと凛はただ祈るように凌空を視線で追いかけ続けていた。




「凌空、どうする?一旦下がるか?」


 状況を見かねた顧問の先生が取ったタイムアウト。

 そこで、キャプテンが真っ先に凌空にそう問いかけた。

 凛はそうすれば安心かもしれないと思ったが、凌空は決して首を縦には振らなかった。


「相手は俺のこと潰そうと必死みたいですから、その間に先輩たちが点取ってくださいよ」

「まぁ、そうやっておまえが敵を引きつけておいてくれたら、俺らはかなり楽できるだろうけど……」

「んじゃ、それでいきましょう」


 凌空はそう言うと、どこか好戦的な笑みを浮かべた。

 凛はその表情に若干違和感を覚え、首を傾げる。


(凌空って、こんな表情、してたっけ……?)


 漫画ではもっとクールで、勝ち負けにそこまで拘っていないような印象だった。

 練習こそ真面目にこなすけれど、そもそもバスケ部入部だって結芽のためだったこともあり、悠に比べてバスケへの情熱も非常に薄い。

 身体を適度に動かせれば、部活は何でもよかったようだったし、なんでもそつなくこなせてしまうためか、どうしてもバスケが上達したい、といった向上心もあまり見られなかった。

 けれど、今、凛の目の前にいる凌空はどこかぎらぎらとしていて、勝ちに拘っているように見えたのだ。


「んな顔すんなって、大丈夫だから」


 先輩たちと話していたはずの凌空は、話が終わったからなのか、気づけば凛のすぐ傍まで来ていた。


「で、でも……っ」

「本当に大丈夫なの!?」


 公式戦でもないのだし、やっぱり一度下がった方がいいのではないか。

 そう思ったのは凛だけではなかったようである。

 凛と凌空の間に割って入るように、結芽が声をあげた。

 その表情からは、凌空を心配しているのが非常によく伝わってくる。


「珍しいじゃん、結芽が俺の心配するの」

「茶化さないでっ!」


 結芽の真っ直ぐな視線を受け、凌空は少しだけ困ったような表情を浮かべた。

 どこか怒っているように見える結芽の表情も、今にも泣き出しそうな凛の表情も、何よりも自身のことを心配しているからだと凌空には痛いほどよくわかるから。


「大丈夫だって、な?」


 片方の手は凛の頭の上に、もう片方の手は結芽の頭の上に、そうして凌空は少しでも二人を安心させようとした。


「だけど、凌空っ」

「あー、ストップ、そこまで」


 さらに何か言おうとした結芽の言葉を遮って、凌空はちらりと凛を見た。

 それを見た結芽もまた凛へと視線を向け、それから何かを察したようにため息をつく。

 凛は二人のやり取りにわずかな引っ掛かりを覚えたけれど、それが何かわからず首を傾げることしかできなかった。


「やられっぱなしじゃ、終われないだろ?」


 そうして笑う凌空を見て、凛は再び違和感を覚える。


(やっぱり、私の知ってる漫画の中の凌空と、ちょっと違う気がする……)


 漫画の凌空ならば、きっとそんなことを気にしなかっただろう。

 そんなことのために、危険を冒す選択なんて、凛からすればとてつもなく凌空らしくないことだった。


「ちゃんと勝ってくるから、しっかり見てろよ」


 できればこれ以上危ない目にはあって欲しくない、そう考えている凛はただ曖昧に頷くことしかできなかった。

 それでも凛が頷いたことに、凌空は非常に満足そうな笑みを見せる。


「結芽、凛のことよろしく」

「え?」

「言われなくても、わかってるわよ!」

「え?え?」


 凌空が何をよろしくして、結芽が何をわかっているのか凛にはさっぱりわからない。

 特段体調不良を覚えているわけでもない凛は、結芽にお世話にならなければならないことも、ないと思っている。

 妙に通じ合っている二人を見て、やっぱり本物の幼馴染は違うのだと実感しながら、凛はただただ首を傾げながらコートに戻る凌空を見送るだけだった。




 再びコートへ戻った凌空に、最早ただの嫌がらせとしか思えないような相手チームの悪質なラフプレーが続く。

 何度となく凌空は危ない目にあったが、やはりというか審判の笛が鳴ることはなかった。

 それでも凌空は的確に先輩たちにパスを回し、時には自分でもシュートを決め、相手チームとの点差は広がる一方だった。

 結局凌空への危険なプレーばかりに一生懸命だった相手チームは、あまりゴールすることができておらず、凌空宇たちが大差で勝利を収める結果となった。


「凌空っ!!」

「なんだよ、勝ったのに、そんな泣きそうな顔すんなよ」


 チームが歓喜に包まれる中、駆け寄った凛の目尻には涙が溜まっている。

 泣きそうになるのを必死に耐えて試合を見ていたのは、疑いようがなかった。

 現に、隣で結芽が必死に大丈夫だと励ましてくれていなければ、凛自身泣き崩れてしまっていたかもしれないと思っているくらいだ。


「怪我、してない……?」

「大丈夫だって」

「よか、った……!」


 凛がようやく張り詰めていた息を吐き出すことができた、そんな時だった。


「凌空、もういいわよね?」


 いつの間にか居なくなっていた結芽が、そんな声とともに戻ってきて凛も凌空もそちらを振り返る。


(え?救急、箱……?)


 しっかりと結芽に抱えられた救急箱に嫌な予感を覚えて凛が狼狽える中、結芽は目を少しつり上げどこか怒った様子で凌空を睨みつけている。


「ほら、早く足出して」

「んだよ……」

「そっちじゃないっ!!」


 右足を少し前に出そうとした凌空に、結芽は声を張り上げる。

 わかってるんでしょう、と詰め寄られると、凌空は観念したようにため息とともにベンチに腰掛け、今度は左足を少し前に出した。


「怪我……してたの……?」


 問いかけた凛の声は、本人も驚くほど震えていた。

 今しがた、怪我がないと聞いて安心したばかりだったのに、凛は凌空が怪我をしているだなんて見ていても全く気づかなかったのに、結芽は凌空が怪我していると確信しているかのようだった。


「たいしたことないって」

「うそつき」


 凛を安心させようとへらりと笑った凌空を見て、結芽は少し苛立ったように乱暴に左足の靴を脱がせてしまう。


「いってー!!」


 結芽の行動が足に響いたのか、凌空は思わず声をあげてしまい、一瞬にして周囲を顧問と先輩たちに囲まれることになる。

 そこで、またしてもため息をついた凌空が、自身でゆっくりと靴下を脱ぐと、腫れあがった足首が出てきた。


「ああ、酷いな、これは」

「病院に行った方がいいんじゃね?」

「確かに」

「しばらく、部活は見学だな」


 顧問の一言を皮切りに、そこにいた部員たちが次々に凌空の足を見た感想を述べていく。

 一方結芽はすぐに救急箱から湿布を取り出すと、腫れている部分を覆うように湿布を貼った。

 凛はただ、そんな目の前の状況を、呆然と眺めることしかできなかった。

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