(7)
「おい、何だよ、さっきのアレ?」
たしかに、教官の言う通りだ。
真佐木が言ってる事は理屈としては正しいだろう。
でも……現実問題としては……。
「兄貴達とは齢が離れてたし……そんなに仲が良かった訳じゃないが……それでも、流石に3人全員死んだ後に、調べてみたんだ」
「何をだ?」
「兄貴達の死体には……3人とも……『食われた』人間の特徴が有った」
おい……。
どうやら、かなりマズい話をやるつもりらしい……。
「兄貴達は、羅刹に狙われてる人間を守ろうとしたりして、返り討ちに遭った訳じゃないかも知れない……」
「な……何が……」
俺が「何が言いたんだ?」と言い終わる前に、真佐木は言いたい事の続きを口にした。
「あくまで『ひょっとして』だが……兄貴達を殺した羅刹は『戦士喰い』かも知れない」
「『戦士喰い』、何だそりゃ?」
「私が、勝手にそう呼んでる羅刹だ。ホントに居るかどうかも判らんがな」
多分、真佐木は……俺に意見を求めていない。
真佐木は俺に何かを説明してるつもりさえ無いかも知れない。
単に、自分の考えを整理する際に、その考えを口に出す癖が有るだけだろう。
同性愛者である事を隠す気さえない真佐木が、男の俺を話相手にする事が多いのは……おそらくだが、俺が自分の考えを整理する時の相槌役に向いてるからだけだろう。
「座学で習っただろ。羅刹にも好みが有るって……。人間に喩えるなら、ファストフードで満足出来るような奴は『人間であれば誰でもいい』……ちょっとグルメの羅刹は健康に気を使ってる人間を狙う。だが、中間が居ないんだ」
「中間? 何の『中間』だ?」
「そして、1匹だけ極端な個体が居る。伝説の唯一無二の『同族喰い』だ。じゃあ、『ちょっとグルメの羅刹』と『同族喰い』の中間みたいな羅刹は居ないのか? 居ないなら何故だ? 逆に居るなら……どんな人間が好みなんだ?」
「お……おい……」
「なあ……親父さんから何か聞いた事は無いか?『戦士』を『喰う』のを好むような羅刹について……」
「い……いや……でも……」
「この調子じゃ……『戦士』になっても、その手の情報にはアクセス出来ない可能性が……どうしたものかな? わざと後方支援要員に回る手が何か無い……」
「おい、お前さ……」
「何だ?」
「兄さん達の仇を撃つとか……そんな事考えてるのか?」
「いや、さっき言っただろ、兄貴達とは、そんなに仲が良かった訳じゃない、って」
「じゃ、何で……」
「決ってるだろ。単なる興味だ」
こいつには、自分では下らない冗談を言ってるつもりの時ほど大真面目な表情になる癖が有る。そして、こいつの今の表情は……おちゃらけてるように見えるモノだった。