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羅刹狩り  作者: HasumiChouji
第1章:歪な牙(クータダンティー)
16/22

(15)

「おい、出て来い。バレてるぞ」

 真佐木は、隠れてる俺に向って、そう言った。

「やっぱりか……」

「わざと見付かるような隠れ方してただろ。なのに見付けられなかったら、私は、とんだ阿呆だ」

 夜。目的は何か見当も付かないが……真佐木が葬式が有った寺の境内に現われた。

「大体、何で、判った?」

「葬式が終った後、お前が、どこに視線を向けてたか……まぁ、そんな事から嫌でも推測が付く。防犯カメラの有無とか……夜中、ここに、どうやって入るかとか……そんな事を考えながら、周囲(あたり)を観察してただろ」

 パチパチパチ……。投げ遣りな拍手だった。

「すごい、流石は優等生」

「茶化す……」

 その時……とんでもない「気」……。

「こっちは……流石に気付かなかった……」

「当り前だ。いくら、お前たちが優等生でも、気配を隠してるのに、お前たちに俺が居る事を感付かれたら……俺は引退を考えるぞ」

 声の主は……。

「父さん?」

「ああ……」

 俺の養父(おやじ)だった。

「で、夜中に、こんな所に何の用だ?」

「話は長くなります。一番上の兄が死んだ時、私はまだ小学生で……兄とは、あんまり仲が良くなかったのも有って葬式を抜け出して……」

 そして、寺の境内の一画に有る、小さな御堂を指差した。

 俺達は、その御堂の方に向かった。

「この寺の境内をうろつき回って、いたずら半分に、この御堂の扉を開けたんです」

「何て……読むんだ……これ?」

 二文字目以降は判る。「母神堂」……そう書かれていた。

 だが、一文字目は見た事も無い漢字だ。「鬼」の字に似ているが……一画目の点が無い。

 更に良く見ると……「田」「九」「ム」を組合せたような……。

「ここの寺の宗派は日蓮宗で、日蓮宗では鬼子母神の名前をこう書くそうだ」

 真佐木は、そう言いながら……小さめのLEDライトを灯す。

「鬼子母神?」

「ああ、日蓮宗で重視されてる法華経って、お経に、こういう一節が有るそうだ……『その時、()()女達が姿を現わした。これらの十人の羅刹女達は、鬼子母神、および、その子や一族と共に仏を詣でた』」

「ら……羅刹? 待て……」

「この十羅刹女ってのは、釈迦の前で法華経を信じる者達を護る事を誓った。そして、日蓮宗では、鬼子母神を法華経の守護神である十羅刹女の母と解釈し、日蓮宗の祈祷は鬼子母神を本尊とする……そうだ。だから、日蓮宗の寺には、ほぼ必ず鬼子母神を祀る御堂が有る」

「おい、待て、じゃあ、仏教の羅刹と、俺達が戦おうとしてる羅刹ってのは……同じモノなのか? それとも……?」

「判らん……俺達にさえ何も……」

 養父(おやじ)は、首を横に振りながら……そう言った。

「だから、私は、あいつに訊いたんだ。『()()()()()()()()()()()()()()()?』って。羅刹ってのは奴らの自称なのか……奴らの存在を知ってる人間が、勝手にそう呼んでるだけなのか……『戦士』の一族の……一応は名門扱いされてる私の一家の連中でさえ、そんな事さえも良く知らないんだ」

 そう言いながら……真佐木は、堂の扉にかかっている南京錠に鍵を差し込む。

「その鍵は?」

「親の名前で私に送られてきたモノだ。鍵が2つな。しかし、親に確認したら送った覚えなど無い……そう言っていた。それも……『おばあちゃん』が末期癌で入院する直前にな……」

 南京錠は……あっさり外れる。

「で、兄貴の葬式の日に、葬式を抜け出して、この扉を開けてしまい……めちゃくちゃ怒られた。その時に、寺の住職から、さっきの話も聞かされた……そして……」

 御堂の中には……半裸の女神らしき像が……。

「えっと……11個か?」

 一体だけが……慈母のような穏かな表情を浮かべ……残りの十体は……「鬼神」「戦神」……いや、それこそ「羅刹」と呼びたくなる恐しげな表情。

「この像を寄進したのは……『おばあちゃん』だ。でも、何かがおかしい」

「何がだ?」

「さっきも言った通り、日蓮宗では、法華経の守護神である十羅刹女は鬼子母神の娘とされている。これは……母親と十人の娘の像だろう。ところで、鬼子母神の夫が何者かは諸説有るらしいが……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「それって……そんなに変か?」

「もう1つ……良く見ろ、鬼子母神と十羅刹女だとしたら……1人多い。その1人は何者だ……」

「いや、11個しか……」

「だから良く見ろ」

 そう言って……真佐木が指差した先には……女神に抱かれた赤ん坊……。

 言われてみれば、そうだ……。俺が、穏やかな顔の一体を「慈母」だと思ったのは……赤ん坊を抱いていたからだ。

「でも、鬼子母神ってのは子供を護る神だろ? なら、赤ん坊を抱いてるのは……何て言うか……どんな神様かを示すシンボルみたいなモノ……待て……」

 養父(おやじ)も何かに気付いたようだ。

「おい……これ……まさか……」

「父さん、どうしたんだ?」

「良く見ろ……この赤ん坊……片方の手で上を、もう片方の手で下を指差してる」

「それが、どうしたんだ?」

「釈迦が産まれた時に、赤ん坊なのに立上って歩き出し、片方の手で天を……もう片方の手で大地を指差し、こう言ったって伝説が有る……『天界においても地上においても、尊い者は、ただ自分1人であり、自分はこの生を最後に2度と生れ変る事は無い』ってな」

「じゃ……その……これは……釈迦?」

「どっちにせよ……さっきも言った通り、送られてきた鍵は2つです」

 真佐木が、そう言った。

 そして……赤ん坊も含めて12体の像の台座らしい四角い箱。その前面には、小さい鍵穴が有った。

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