(11)
「折角、『本物』に遭遇したんだ……前々からの疑問を訊いていいかな?」
カメラに写らないモノ……その中には、「気」も有る。
水原達3人の体からは、凄まじい「気」が放出されていた。
どうやら……戦闘訓練の際は、わざと「気」を押えていたらしい。
「おい、真佐木、何を言ってる?」
「お前……正気か?」
だが、その凄まじい「気」に怯む事なく、淡々とそう質問した真佐木に対して、水原と嶋崎先生が同時にツッコミを入れる。
「まぁ、いい、『海部を、何故、自殺に見せ掛けて殺したのか?』って質問か? それは、あいつが抜け駆けをしやがったからだ。そもそも、原因の一旦は、お前に有るんだぞ、真佐木……」
「あ〜、その事か……。いや、正直、どうでもいい。クラス内から自殺者が出た時はショックを受けた気がしたが……今になってよくよく考えると、本当にショックを受けたのか……それとも、条件反射でショックを受けたフリをしてる内に、自分で『フリ』と『本心』の区別が曖昧になったのか……自分でも良く判らん」
「やっぱり、テメェは、いかれてやがるぜッ‼ 俺なんかより、よっぽどなッ‼」
次の瞬間……河合の着ていた服が大昔の何かの漫画のように弾け飛ぶ。
そして……全身に剛毛が生え……熊? 狼? 虎かライオン?……どれとも似ているが、どれとも、どこか違う灰色と茶色の間ぐらいの色の半獣半人の姿に変り……真佐木に飛び駆かる。
大きく広がった口が真佐木の頭を飲み込むように……。
「ぎゃあああああッ⁉」
情けない悲鳴は……少なくとも女のモノじゃなかった。
剛毛は、一瞬にして抜け落ち、河合の姿は人間に戻り……そして、コンクリの上をのたうち回っていた。
いや……。
夜の闇の中で光るモノが有った。
金属光沢。
それは……河合の顎から下に向けて生えていた。
「マヌケか? 刃物を隠し持ってる可能性が有るイカレ女に向けて、大口開けて飛び駆かるだと? ああ、口の中に刺さってるモノは、下手に抜くな。救急車を呼んで外科医に任せろ。素人が下手に抜くと逆に傷口が広がるようなナイフを使ったんでな」
「ぐがあッ‼」
続いて、杉田が良く似た……しかし、微かに毛の色合いが薄い獣人の姿になるが……。
今度は……角度が少し違っていたせいか見えた……。
大きく開けた牙だらけの口……それが、こいつらの最大の武器らしい。
だが、真佐木は、そのデカい口に、わざと拳を突っ込み……そして……。
その拳には、何かが握られていた。
杉田が自分の口に突っ込まれた真佐木の腕を噛み砕こうとした……その直前……。
杉田は大量の鼻水と涎を撒き散らしながら、人間の姿に戻り……これまたコンクリの上を転がり回る。
「な……何を……やった?」
俺は……ようやく、そう訊いた。
「1匹目は……口の中に隠し持ってた小型の刃物を突き刺してやった。2匹目は……口の中で防犯用の催涙スプレーを発射した。でも……もう手品の種は残ってない」
「人間にしちゃあ……頭が回るな……」
水原の口調は、嘲るようなモノだった。
とは言え……「気」は呼吸に増幅しコントロールするもの。それは「戦士」も「羅刹」も変わらない。
相手の呼吸に支障を与えるような攻撃は……理にかなっていると言える。
「で、1つ質問だ。お前らは自分達を何て呼んでいる?」
真佐木には……自分で下らない冗談を言ってるつもりの時ほど、大真面目な表情と口調になる癖が有る。
だが、この時は……大真面目な質問なのか、ふざけているのか、判断が付かなかった。