(9)
「おい、優等生のお前が部屋抜け出すって、ど〜ゆ〜事だよ?」
その日の夜、俺が寮の部屋を窓から出ようとしていると、同室の井ノ上和馬が、そう言った。
「ちょっと、ややこしい事になってな……」
スマホのメッセージ・アプリには、真佐木の同室の長野咲良から、真佐木が部屋を抜け出した、という連絡が入った。
ゲームで喩えるなら……人の命がかかっている以上、不謹慎な喩えだが……真佐木がやろうとしている殺人を止められたら俺の勝ち。止められなかったら、俺の負け。
だが、ちっとも五分五分の勝負じゃない。
真佐木の方は退学になる事を望んでいるが、俺はそうじゃない。
真佐木が、どこで対象を殺ろうとしているか判らないが……自殺したクラスメイトは、校舎の屋上から飛び降りてる。
自殺したクラスメイトを屋上から突き落す可能性が高い。
校内の監視カメラの死角を選びつつ、校舎内に入り……。
轟……。
校舎内に入った途端、凄まじい「気」。
真佐木の「気」じゃない。あいつの性格そのままの……冷やかで、捉え所がなく……どんな時でも、どこかフザけてるような余裕が感じられる「気」とは正反対の……熱い炎のような「気」。
まるで、俺の養父の「気」のような……。
だが……多分、これは陽動か……わざと自分の存在を報せる為のもの……。どうして、そう判断したかは説明しにくいが、ここで受けた訓練の結果会得したパターン認識みたいなものだ。
「何やってる?」
「え……? 嶋崎先生……?」
俺の養父ほどじゃないが……男としてもかなりの筋肉量。
どうやら、俺の養父の弟子的な部下だったが、任務中に大怪我を負って、この「学校」の教員になった……嶋崎吾朗という男だ。
「昨日の今日だ。当面の間、翌日に担当授業が無い教員は、宿直室で、監視カメラの映像を一晩中チェックする事になった」
「え……えっと……」
「まずは答えてくれ。何をやってる?」
待て、説明したくても……何から説明すればいいモノか……?
え……えっと……待て、俺は、今、何を優先すべきだ?
「俺以外に、校舎内に入っている生徒は居ますか? 居なければ、俺が勘違いで馬鹿な真似をしただけなんで、その場合は、処罰でも何でも受けます。でも、俺以外に校舎内に入ってる生徒が居たなら、俺と一緒に、そいつを追って下さい」
嶋崎先生は、少し考えると……。
「事情が有るようだな……。まぁ、来い」
そう言って、嶋崎先生は俺に付いて来るようにゼスチャー。
性格には、授業で習ったハンドサインだが……。
俺は嶋崎先生の後を追い……そして……。
だが、嶋崎先生が宿直室の手前で足を止め……。
「クソ……嘘だろ……何で気付かなかったんだ、俺は?」
えっ……? 何だ? 何が起きてる?
「こんな所に監視カメラなんて無かった筈だ」
嶋崎先生が指差す先……そこには、壁に貼り付けられた小型カメラらしきモノが有った。
丁度、宿直室のドアを撮影出来る位置だった。