表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/29

エピローグ ~『復讐』のその先へ~

「これより、『最上位名誉勲章』の授与式を執り行う」


 王宮のだだっ広い広間には王都中の重役と、ものものしい雰囲気を醸し出す兵士たちに加え、名だたる冒険者らが一挙に集っていた。千人にも上ろうかという数の人間が集っているのにも関わらず、広間は恐ろしいほどの静寂に包まれている。

「それでは、王国の平穏を脅かす最大の敵である『竜神』を見事討ち取った『三名』の冒険者パーティーをここにッ!」

 勇壮な面持ちで壇上に立つ国王が言い終えるのを合図に、一同の視線を広間の入り口である大扉へと促した。

「………………」

 しかし、衛兵たちが重々しく開いた扉の先からは、誰一人として姿を現す様子が無かった。

 一分も経ってはいないはずだが、辺りに非常に永い時間が隔たれる。この何とも言えない間を打ち破ることができるのは国王ただ一人である。

 彼もまた聴衆と同様に唖然としていたのだが、我に返るとすぐに声を上げた。

「おい! どうなっておる、大臣!」

「は、ははっ! ……式が始まる数刻前までには確かに、扉前に待機させておいたはずですが……」

 怒鳴り散らされた大臣は頭を垂れてそう言い訳する。照明を反射させる彼のスキンヘッドに一筋の汗が伝っていた。

「ぐぬぬぬぬ……一体何がどうなっておるのだ……! 最高位の『名声』だぞ! それをみすみす受け取らんとは、王国の名誉にも繋がってしまう。おい、いますぐに捜索隊を出させろ!」



 王宮を一望できる王都外の丘上に、吹き付ける風に髪を棚引かせる三人が佇んでいた。

「……本当に、これで良かったのか?」

 白髪のアップバングをかき上げて、悲願を果たし、同志だった二人を見やる青年。

「いやぁ~私だって欲しかったですよぅ。だって『最上位名誉勲章』ですよ、さいじょういっ!」

 それに応じた女性はため息を吐いたかと思えば、すぐに胸の前で肘を曲げ、ダブルガッツポーズのような仕草をする。

「でも、ドラコが表彰されないのなら意味無いです。まぁどうせ私のような大物は実力を隠しきれないので、すぐに別の方法で有名になっちゃいますけどね! イヤなら、スラッシュさんだけでも今すぐ戻って勲章受け取ってきてもいいですよー」

「おまっ……! そういうことじゃねえよ! 俺はお前らが納得してんならそれでいい。元より俺は『竜神』討伐さえできればよかったからな。名声なんて面倒くさくなるだけだ」

 「どうだか」としつこくおちょくって逃げる女性を、青年は怒鳴り散らして追いかける。

 彼女の足を向けた先には、紅桔梗の美しい長髪を陽光に照らした少女が髪を結っていた。

「ドラコぉ~! 助けてくださいよ~! スラッシュさんが生意気にも乱暴して来やがりますぅ」

「あぁ!? てめぇ今なんつったコラ!」

 自分を障壁代わりに隔てる女性の、豊満な身体とは似つかわしくなく淑女とはとても言い表すことのできない態度に、少女はこめかみを押さえる。

「まったく……ドラコ、スラッシュ……あなたたちはホントに…………ぷっ」

 しかし少女はつい失笑し、いつまでも変わらない二人の様子を温かい目で見守っていた。

 しばらく喧嘩にもなっていないしょうもない言い合いを繰り返していたが、思い出したように青年が口を開いたのが終幕の合図となった。

「それで、ドラコはどうするんだ?」

 ふわふわと反発する芝生に腰を下ろし、青年は少女の顔を見上げる。

「わかってるくせに。ユースを追うことにする」

「……そうか」

「スラッシュはどうする?」

「ふっ……わかってるだろ?」

 青年は聞き返す少女に笑い、肩をすくめて答える。

「そっか。じゃあ、一緒に行こ」

 破顔して満面の笑みを見せる少女。少女の人間の姿を見るのにも大分慣れてきていた青年だったが、こんなにも彼女に良く似合う表情がまだあったとは。

 友として新たな発見を嬉しく思い、良かれと思ってもう一つの発見を口にしてしまう。

「久々だな、その口調。俺は自然なドラコが一番かわいいと思うぜ?」

「____ッ!! ま、間違えただけよ。おちょくらないで……よ」

 胡坐をかいて座っている青年に構わず、少女はそそくさと丘の斜面を降りていく。

 一方で青年はおもむろに立ち上がって悠々と少女の背中に付いていく。

「ちょちょちょ、ちょっとぉぉ! お二人とも! 私も勿論行きますってばぁ~~っ!」

 背後からの騒がしい声を不思議と心地よく思いながら、雲一つない快晴を仰ぐ。少女は帯刀した短剣と首元に提げたペンダントを撫でて、


「心当たりならあるしね。そうでしょ、『ユースケ』?」


 彼は記憶にないかもしれないけれど、少女は初対面の時に教えてもらった彼の名前を呟いて、始まりの場所へと歩を進めるのだった。


 ある意味では、二人の『転生者』は落ちこぼれと言えるだろう。

 種族の枠をはみ出し、己の運命を変えようとする『復讐者』だ。

 少女たちは『復讐』を果たすことはできたが、少年は未だ到達点を知らない。けれど、例えその道に終わりが無かったとしても、きっと彼が後悔することはないだろう。



                                     おわり

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ