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第十二話 二度目の覚醒

 ____僕がもっと強ければ。

『アア、ソウダ』

 僕はどうすれば強くなれる?

『〈オレ〉ヲエラベ。ソレダケダ』

 なんだ、簡単なことじゃないか。そういえば、『死神』の時もお前がやってくれたんだったな。

 なあ、お前は一体何者なんだ?

『〈オレ〉ハオマエダ。オマエノ願ッタ存在ダ』


「ああ、そうだ。お前は〈オレ〉だったな」


 小刻みに震える手で握っていたダガーを捨て、溢れる感情を解放する。自分が何故悩んでいたのか思い出せない。思うがままに力を振るう。ただそれだけのはずなのに。

 『死神』の時のように、気付けば自分の手が竜に似た爪を有していた。人型を辛うじて保ちつつも全身に竜を纏っていることなど知らず、ユースは眼前の敵の顔面に爪を突き刺した。

 『玉石竜』の肩上に位置する場所から放たれた一撃は、その巨体を倒すのに十分な威力だったようだ。『玉石竜』は横倒れになり、肩に乗っていたユースとパナキアは放り出される。

 落下するユースは傍のパナキアになど目も暮れず、共に落ちる岩を足場にして逆に昇っていった。

「ふんぬッ! ドラコ、パナキアは拾ったぞ! ……あいつ、マジで生きてやがったか!」

 「だが一体なんのつもりだ」と見境の無いユースに唸るスラッシュの声を聞きながら、ドラコは地面を蹴って高く跳躍した。

「はあああああああッ!」

 ドラコはその勢いのまま、起き上がろうとする『玉石竜』の顔面を両の鉤ヅメで切り裂く。刃こぼれしてしまいそうなほどの強度を持っている岩肌だが、確かな手ごたえはあった。

「シャアアアアァァァァァッ!」

「!?」

 深い斬撃をお見舞いしたドラコの背後から、発狂にも似た不気味な奇声を上げてユースが突っ込んできた。ドラコもろとも殴りかかろうとする見境の無いユースの攻撃に、ドラコは間一髪で腰をひねり華麗に回避する。

 猛烈な一撃はその先の『玉石竜』へと撃ち込まれた。

「完全に我を失っている……」

 またしてもユースは地面に伏す巨人の顔面に何発も拳を放つ。いつの間にか生えていた爪も最初の一撃で折れてしまったが、それに構わず打撃を行う彼の姿勢はまさに殺戮兵器だ。『憎悪』と『殺意』に支配された猛獣だ。

「これが『竜の呪い』かよ! あいつがあんなに……!」

「ジャハハハハハハハハハハハハハハハハァァァァァッ!」

 やっと打ち勝てる時が来た。今こそが世界を見返すことのできる瞬間だ。今ならこいつも、『紫竜』だってズタボロにできる。

 発狂か笑声か雄叫びか。そのどれとも取れる豹変した彼は殺戮を楽しんでいるように見える。

「けれど何故……あなたは泣いているの」

 狂気に満ちた彼を最も近くで見ているのはドラコだ。彼女は落下しながらも、拳を打ち付けるユースの横顔が辛うじて垣間見える。彼の目には一粒の涙が滲んでいた。

「____よっと! 無事かドラコ」

 パナキアの時と同じようにして、ドラコの落下地点を予測していたスラッシュが彼女の身体を抱き留める。

「うん……ええ、助かったわ」

「こんな時に取り繕ってる場合か。……あいつ、どうしちまったんだ。幸い、あの強さだとあいつ一人でもやっちまえそうな気がするが……」

 ふとした時に出てくる、抜けきれないドラコのため口の訂正に呆れたが、スラッシュは改めて眼前の光景を見やり、目を疑っている様子だ。

「いいえ、奴は『竜神』のお気に入りよ。そんじょそこらの魔物とはわけが違う」

「ガゴゴゴォォォォォォ!」

 『玉石竜』が雄たけびを上げると、張り付いていたユースは耳を抑えて『玉石竜』の身体から飛び退く。

 その瞬間、周囲の岩盤が地鳴りを伴って浮き上がり、『玉石竜』の傷口を塞ぐように融合していった。

「なっ!? 再生してやがるのか!」

「あなたはここに居て。パナキアの保護を優先でお願い」

 戦闘の余波が無防備なパナキアに被害を及ぼす可能性があるだけでなく、相手は『玉石竜』だけではないのだ。もしかすればリザードマンや、最悪の場合『竜神』の襲来も考えられる。

 指示を受けてスラッシュが頷くと、ドラコはすぐに『玉石竜』のもとへ疾走。『玉石竜』の踏みつぶしを受け流し、鉤ヅメを突き刺してロッククライミングしていく。

 しかし、うざったい蚊を叩くように、不意に巨大な掌底が打ち付けられる。

「ぐッ! ああああああああああああッ!」

 右手の鉤ヅメは『玉石竜』の身体に刺さっており、左手だけでその掌底を受け止めるしかない状況だ。両手ならばいざ知らず、片手では到底押しのけることはできない。競り合いになるも、少しずつ掌底がドラコをぐしゃりと潰そうと迫ってくる。

「ゴガアッ!?」

 すんでのところで『玉石竜』が姿勢を崩し、掌底のプレスは中断となった。ユースが『玉石竜』の背中を復活した竜爪で切り刻んだのだ。

 当の本人も意図していないだろうカバーに助けられると、ドラコはすかさず怪しいと見切りを付けていた場所へと這い上がった。

 目当ての『玉石竜』の胸部に、体を高速で回転させた鉤ヅメのスクリューをお見舞いする。

「この卵みたいなのが弱点か! きゃっ!」

 龍の鱗に似た岩石の装甲が抉り取られた中から、心臓のように脈動する卵のようなものが露になる。そのまま貫こうとするも『玉石竜』の拳で妨害されて、弾き飛ばされてしまった。

 表裏一体、光と影。狙い通り、強力な能力を持つ敵にはわかりやすい弱点が存在するのがこの世の摂理だ。しかし、まだなにかがしこりとして残っている気がする。

 先程の『玉石竜』の打撃の衝撃は辛うじて受け流すことができた。だが、どうにも体に異変を感じるような。

「グウッ……!」

「ユースッ!」

 『玉石竜』の攻撃はどれも重いが愚鈍だ。回避することは容易くできる。それは熟練者であるドラコやスラッシュのみならず、現状態のユースにも同じことがいえるし、パナキアですら『身体強化』を付与すれば可能かもしれない。

 だというのに、つい先ほどまで俊敏な動きで翻弄していたユースは、その攻撃をまともに食らったのだ。その一方で、『玉石竜』の動きは速くなってきている。

「あの状態のガキも流石に疲れが来たか? ……?」

「…………!」

 そういえば先の攻撃もドラコは回避ではなく受け流しを選んだ。本能的に受け流し以外に対応策が無いほどに素早く重い攻撃だと思ったからだ。

 ではなぜ、ドラコの危険信号はそう伝達したのか。改めて意識してみれば、ある事実に気が付いた。スラッシュも同じ結論に至ったようで、二人はハッとした顔を見合わせる。

「こ、こりゃあまさか……」

「私達の生命力を吸い取って力にする……。奴の二つ目の能力……!?」

 種がわかって初めて、自身の生命の源である魔力が少しずつ減っているのがわかる。その行先はあの巨体だということも。

 驚異的な再生能力に次ぐ第二の能力、『魔力吸収』。眼前にそびえ立つ巨人は、見た目に反してあまりにも器用な能力を二つも持っているというのか。

「まずい……早く仕留めないと、このままじゃやられる……!」

 上級の回復魔法が使えるパナキアがいれば、どれほど楽だったろうか。そんな今更ありえもしない仮定をつい考えてしまうくらいには、絶望的な状況であった。

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