あー攻略対象様、攻略対象様、セクハラは困ります!距離近いの、アンタらじゃなくて親友が良いんですが
今回は異世界転生にチャレンジして書きました!
変態が出てくるので、キモいシーンもあると思います。
誤字の報告もありがとうございます。知らなかったことがあり、勉強になりました。
(6日21:24ごろに、ざまぁ的要素をほんのり追加しました)ブクマや評価、ご感想、皆様本当にありがとうございます!
やばいやばい、ヤバイです!
頭打って王女様とか、熱出したら聖女様とか、魔法陣が光って召喚とか、異世界転移も転生も浴びるほどに読んだよ。何なら書いちゃったし、流石にランキングは無理だったけど、ブクマだって貰えてきゃー! やった! ありがとうございます! って思ったりもしたけどね。こう言うのは考えてませんよ。
私は目が覚めたら田中麻理から、マリリン・ナカータになっていた。
曇りもない姿見の大きな鏡だなんて、ここすごいなとか思いながらも映り込む自分を見る。何度も瞬きしたけど、やはり姿変わらず、声は聞き慣れぬもの。
いやはや、これヒロインちゃんでは?
でも、元ネタって何だろうね? 私これからどうしたらいいんだろう。それともアレか、悪役令嬢ものでザマぁ確定お花畑コースなのかな。
そんな訳で、田中麻理二十九歳は、マリリン・ナカータ十六歳になってたわけだ。落差は十三歳。それよりも、鏡に映る顔が見知らぬ顔過ぎて違和感半端ない。ピンクブロンドにチョコレートブラウンの瞳。ちょっと童顔純朴系の、凄く可愛い子。その割に意外にお胸はあるし、お尻も結構あるタイプ。着痩せするから制服着てると分かりにくいけど、脱いだらボンキュバン! は確定です。
自分の身体なんだけど、びっくり仰天しかないわ。それともここは十八禁の大人な女性向けゲームの世界なのだろうか。頭に詰まってる記憶によれば、私は男爵令嬢で庶子。ナカータ男爵家のひとり息子がメイドに手を出したところから、話が始まる。勿論メイドさんが追い出されたんだけど、無事婚約婚姻した正妻さんは全然身籠らない。子供がいないと爵位は親戚の手の内へ。
だからマリリンパパは下町でひっそり暮らしていた母娘を見つけ、あっという間に娘を奪い自分の子にしてしまったらしい。記憶にあるマリリンの実母さん儚げド美人で、すっごい! えー、寧ろ実のママと暮らしたい。ポコポコお腹が気になるパパや、メイクセンス無しの怖い正妻さんより、実のママでしょ!
だけどマリリンは考えたのよ。というか、私でもあるんだけど。下町暮らししてるより、お貴族学校に行けばきっと将来の役に立つってね! かーっ! 我が身ながら凄く良い子だよ。マリリンママを助けるために、好きじゃないパパの元に来たみたい。
ママからのお守りのリボンをいつも身につけて、頑張ろうと思ってるんだよね。そのマリリンから前世? の私の記憶が融合しつつも前面に押し出されたのは、昨日の事故のせいみたい。階段から落ちちゃったんだよ。運良く擦り傷で済んだけど、頭を打った衝撃と恐怖で私が溢れた感じ。それともうひとつ、マリリンには悩みがあったんだ。そこからの逃避なんじゃないかなと、私は思う。
何にせよ、マリリンは可愛いし悪い子じゃないから私が頑張るぞ! というか、私もマリリンだしね。
ハイ、やって来ました王立アデンシュルク学園。
馬車から降りて敷地内で、もうこれか! 待って、待って、これ何よ! すでに詰みそう。
いや、リアル十六歳なら詰むでしょう。というか、ちょっとこの学園大丈夫? 乙女ゲーのフリした、やはり大人向けゲームなのではと心配になる。
何故か可愛い現代でも通じるような、スカート短過ぎ問題を孕んだ制服で私は登校しました。西洋風世界観に初っ端から喧嘩売ってるような不思議制服、これいかに。別に私丈詰めてません。
しかも男爵家のメイドさん、問答無用で人の髪型ツインテールしてくるんですよ! 目指すのは一体どこなんだ?
そうしたら、来るわ来るわ高位貴族のオンパレード。上は王族から下はどでかい商会の坊ちゃんまで、定番詰め合わせパックいただきました! ひねりが欲しいけど、まあみんな大好き王道だからこれでも良いのだろう。
第二王子に、第三王子、宰相の息子に騎士団長の息子。大神官の息子もいればなんちゃら商会のボンボンもいる。初恋の幼馴染(だだし彼もお貴族様だった)までの、そろい踏み。
こうなると隠しキャラもいる気がしてくる。知らんけど。
マリリンちゃんは別にお付き合いしたいとか、これっぽっちも考えていなくて、反対に迷惑してたみたい。だけど相手はお貴族様ばかりで、大きく嫌がることが難しくて怖かったよう。年々酷くなるばかりで、今年は最終学年。最後の我慢だったけど、怖いのは怖い。
そうだよね、みんな男性で権力やお金もあって婚約者までいるのに、こっちにコナかけてきてさ。ベタベタ肩や腰やらあちこち触れて、顔近づけるし、勉強の邪魔にはなるし、帰りもよく分からない場所へ誘おうとする。
ちょっと学園の風紀どうなってるんですか! 責任者さん出てきてください!
それでも救いがあって、乙女ゲーでいう所謂悪役令嬢と言われる方々がそう。ボンクラの婚約者たちを見て、彼女たちはマリリンちゃんが逃げたいと思っていること薄々気がついてるみたい。さっきもそっと目配せして、逃がしてくれたしね。だからマリリンちゃんまだ無事なんだよ。これ、私がどうこうしなくとも、彼女の皆さんでどうにかしてくれないのかな。
王子たちも、他の貴族男子もキッモ、ウッザ! セクハラオヤジレベルですよ。だから階段の件も、あの変態男どものせいっぽいんだよ。なのに肝心の奴らは、自分たちの婚約者のせいにしたいみたい。
このままいくと、知らん間に断罪イベント始まって巻き込まれるのでは?
マリリンちゃん、お城の女官になって高給取りになりたい夢があるんだよ。お城には女性専用部署があって、王妃様や王太子妃のお世話や護衛などなどするようです。平民向けの間口もあり、それはもう蜘蛛の糸レベルだけど、そこを狙うために入学からずっと勉強して試験の成績も頑張ってるのに、こんなのってないよ!
それでも朝が来て、私ことマリリンちゃんは学園行くよ。これも全てマリリンママのため! ママともう一度暮らすために、人生の立て直しだよ!
「マリリン、お早う。今日もかわいいね」
やっば! いきなりボス来たわ。第二王子とかいうボンクラ息子め! 王太子じゃないからと、早々に人生を楽々愚息モードにしてる人だよ。なんて馴れ馴れしく肩を抱くんだ。
「マリリン、今日も素敵だね!」
そんな憂鬱から更に悪魔が来ました。そう、神様に反抗する存在が悪魔なんだけど、こいつも同じだ。マリリンママという女神への道を塞ぐ悪魔め! いきなり後ろから婦女子に抱きつくとか、ないない。
しかもコイツさりげなく胸触ってる。可愛い系のフリして変態だよ、最悪!
という訳で、朝っぱらから王子組に絡まれてますよ。金髪碧眼ですか、へーへーイケメンですか。できたら、心までイケメンになってくれないですかね。
その後も、順調にマリリンは変態ホイホイになってしまった。ソフトタッチしながら挨拶するの、いつの時代の変態オヤジなんだろう。
「昨日の宿題はちゃんとやったのですか?」
やってまーす! そして下半身近すぎでーす! くっつけるとかキモいぞ、クソメガネ!
「もっと飯食えよ、軽すぎるんじゃねえか!」
ぎゃー! 筋肉枠の太ももタッチ来ました! 何しよったお前!
「うちに新しい化粧品あるけど、見ていかない?」
無理無理、絶対化粧品じゃないの見せてくるでしょう。あとタレ目のくせにお尻撫でないでください。
「それより孤児院に行きませんか? アナタの優しさを彼らに見せてあげたい」
はーい、お尻魔人もうひとり追加オーダー来ました! 子供の前でもコイツ絶対触るだろう。最低だな、このロン毛野郎!
「お前ら、馴れ馴れし過ぎ。マリリンは俺の幼なじみなんだよなー」
はあ? 幼児の時に会った迷子なんて覚えてないって! あと、タメ口もいらんしうなじ触るな!
なんだ何だ、変態クラブか?
そこで登場なのが、悪役令嬢もといジャクリーム公爵家ご嫡子様のレンジーナ嬢ですよ。今日もその蜜色の髪が素敵です。縦巻きロールなんて時代錯誤かどうかも知らん髪型なのに、まじに正統派美人ですごい目の保養。まつ毛くるりんぱで、爪楊枝乗っちゃうほどだよ。
こんなに美しいのにマリリンにいくとか、第二王子の気がしれない。しかも婿入り予定なのに。
「まあ、殿下。お早うございます。本日も皆様仲良くご登校……あら、ナカータさん。貴女本日は日直で職員室に行くのではなくって?」
「そうです! ありがとうございます、ジャクリーム様。私、早速行ってまいります。皆様、失礼致します」
よかった。これで変態の囲みから抜け出せました。そっと見えないよう手を引いて、輪から出してくれるお嬢様ありがたい。でもお嬢様も大変だ。こんな婚約者、ポイポイ捨て捨て出来ないのだろうか?
でも平民と貴族はその辺り、違うんだよね。可哀想。大体、平民でもこんな変態普通はいない。やったら即バチんと引っ叩かれる。
だけど貴族のお嬢様は淑女であれと謳われて、反撃なんかできないし、してはいけないんだ。だからこうやってさりげなく助けてくれる。婚約者の皆さんも綺麗に別れられたらいいね。
コイツら頭の中おかしいから、嫉妬して困った女だ、嘆かわしいとか、醜く見るに耐えないとか、身分や金の亡者なんて最悪なことを陰で平然と言っている。
あーあ、朝上手いこと逃してもらえたのに、また昼休みに捕まっちゃったよ。本当にこれ怖い。
ため息つく私に、前方から誰かが来る。
「マリリン……!」
彼女は長い足が絡むのか、転びそうになった。しかも彼女の近くにいる騎士団長のドラ息子は助けるどころか、顰めっ面だ。いや、コイツ避けよったぞ! だからだろう、上手いこと私は一歩二歩と駆け寄り、崩れた男どもの輪の外側に行けたのだ。
「大丈夫? アースリア」
「はい、ありがとうございます。あの、お約束していた通りにお昼を一緒にいかがでしょう」
「そうですね、お約束してました。ですので、皆様失礼致します」
ふわりと彼女の手を掴む。甘やかさのない涼やかな匂いが微かにする。知っているもの。この学園で懐かしく思うもの。親しい気配と温もり。
アースリアはごきげんようと変態に挨拶して、私を救出してくれた。
そう、彼女こそマリリンの唯一無二の親友にして、隣国からの留学生だ。アースリアは古くから続く名門伯爵家の長女で、留学の特別枠を得られるほどの才媛なのだ。この特別枠とは隣国内で選抜された、それはもう大変優秀な学生が我が国の学園に学びに来る制度。
家格関係なく、この枠の学生は王族と同等の扱いを得る。お陰で、変に絡まれていた私は入学早々彼女の機転で助けられて今に至る。勿論、二人は本物の仲良しの親友だ。
ただアースリアは身体が弱く、休みがちなところがある。今日も言葉通り三日ぶり。マリリンが学園を辞めない理由はママと就職と、そしてこの親友がいるからだ。卒業後は多分きっと会えない。だからこの無二の親友をマリリンは大切にしていた。
「マリリン、大丈夫? わたくしがいない間、階段から落ちたと聞いたわ」
それな、クソ男どもの画策だよ。茶番劇用だと思うけど。ショックでマリリンは前世を思い出すくらいだから、本当にやばかった。
「それは大丈夫。でも階段が少し怖いから、アースリア一緒にいて」
「分かってます。でも無理しないでマリリン。困りごとは何でも言って。学園のこともだけど、家族のこととかも構わないの」
それは何度も言ってくれる、アースリアの優しさだ。高潔な彼女は、マリリンの状態を何とかしたくてたまらないらしい。学園に何度か訴えたりしているよう。本当に素敵な親友だ。
それでいて、アースリアは純情可憐なお嬢様。いや、お姫様かもしれない。プラチナの美しい髪はいつも綺麗に編み込まれ、レースのリボンで彩られている。肌は大層白くきめ細かで、深層の御令嬢そのまま。しいて言えば、分厚いメガネが目につくが、これは生まれつき目が悪いアースリア専用のもの。
ちなみにメガネを取った姿を見たことあるが、アラビア数字の三みたいな感じだった。彼女だけ顔の作画おかしい気がするが、ゲームならば多分ヒロインちゃんのお助けキャラ枠なのかなと思ってる。
アースリアは博識だし、いつも学年首位を独走して、誰も彼をも振り切ってる。なお、私は二番手か三番手をキープしてるので、我ながら努力ってすごいなと思う。
「アースリア、ランチありがとう。私の好きなものいつも用意してくれるね」
「マリリンはいつも頑張っているから、わたくしからのご褒美みたいなものだわ」
学園の広い中庭の人気のない場所で、私は親友と美味しくご飯だ。下手に食堂へ行くと、さっき逃れた変態に会うかもしれない。なので、アースリアとはいつもここで食べている。
アースリアはこうやって、マリリンの学園生活を助けてくれる。励ましたり、美味しいランチを用意してくれたり、とても優しい。
「ほら、マリリンの大好きなマフィンよ。南国のフルーツを沢山混ぜているの」
「うわあ!! アースリアありがとう!」
シロップでしっとりしたマフィンには、甘酸っぱいドライフルーツがもりっと入っている。刻んであるフルーツの組み合わせがぴったりで、ひとつ食べたら、もうひとつ欲しくなってしまう。
「もう、マリリン頬張り過ぎよ。ほら、紅茶を飲んで」
アースリアが保温水筒から、温かな飲み物をくれる。
ここの世界、便利な生活用品が揃ってて、今更私が思いつける道具なんてないんだよね。何か作って商会で売って無双するとかは、できない感じ。
だけどその分生活しやすくて、そこは嬉しい。お風呂も何故か毎日入れる環境で、きっと乙女ゲーム仕様なんだと思う。
それから私は、ふと視線を感じる。
「アースリア、どうしたの?」
「……いえ、時間は早いものだと思って」
「そうだね。あっという間かも。だけど私が今まで頑張れたのは、アースリアのおかげだよ!」
そう、本当にそう。それしかない!
最初の一年の時、アースリアと知り合えて良かった。変態のこともあるけど、それ以外でもアースリアと会えて良かった。
「勉強、私の苦手な箇所教えてくれたし、ダンスの授業はアースリアがペアを組んでくれて嬉しかったよ」
アースリアはすごいのだ! 男女どちらのパートも完璧で、昔から習っていたからと謙遜するが、きっと努力したのだろうと私は思う。身体が弱いのに頑張ったのだ。
「わたくしも……わたくしも、マリリンに会えて本当に感謝しているの。貴女はかけがえのない相手だから」
そっとマリリンの指先に、アースリアの指が触れる。それだけなのにドキドキするし、アースリアは恥じらうように目を伏せた。指も離れる。
アースリアは私が変な貴族に絡まれているから、極力触れないように気をつけている。でも、アースリアは彼らと違う。いつも相手のことを考えて行動しているし、押し付けなんてない。それはマリリンの入学してからの記憶や思いで分かること。知ってることだ。
「……アースリア、私お手紙書くから! 絶対書くよ、ちゃんとアースリアに送るよ! 毎月毎月、楽しいことをいっぱい綴るから」
そう。
アースリアは、隣国の名門中の名門のお嬢様。きっとペンより重いものなど、生まれてこの方持ったことがない。将来は同じ貴族の男性と結婚して、お家を継ぐのだろう。
(私とは違うんだ。ううん、当たり前だよ。アースリアはお姫様だもの!)
「私のこと、忘れないでね」
折角のランチに、変な空気にしてしまった。
だけど、大好きな大親友なんだもの、別れたくないと思っても仕方がないじゃないかな。
きっと、普通だよ。
そうして、ついに来た卒業パーティー。
卒業式の後、生徒だけのダンパみたいなものですよ。婚約者がいる子はパートナーとして出席してる。でも自由参加な面もあるから、私は出ないよ。だって貴族メインの行事だからね。男爵令嬢と言っても、平民育ちのマリリンは行く気がない。
それより卒業後すぐにある、王宮女官採用試験の方がとっても大事。だからギリギリまで勉強してたんだ。絶対受かって、ママと一緒に暮らすんだって心に決める。前世の記憶を思い出して、私はマリリンでも麻理でもあった。どんどん混ざってるけど、だからって夢は変わらない。負けたくない。
この人生で、幸せを掴むんだ。
別れたっきりのママの顔を、思い出す。麻理の方のママはね、高校の時に亡くなったんだよ。病気で末期で、手術もしたよ。一度退院もできたんだ。だけどまた再発して、その時にはもう手術もできなくて、ママは病院から帰れなくなった。
死んでも覚えてる。深夜に起こされて、不安しかないなか病院に向かった。喋る言葉なんて思いつかなくて、でもママに何か話しかけようとずっと考えていた。
でもね、もうママは意識がなくて、これ以上どうにもならない状態だったんだよ。そうして、麻理のママとはさよならした。
マリリンのママは生きてる。まだ生きてるんだ。だから絶対ママを守るし、悪い病気になったとしても治せるようお金を稼ぐんだ。マリリンのママは、マリリンが熱を出した時ずっと看病してくれたんだよ。
手を握って、私が代わりになるから治してくださいって、神様にお祈りしてくれるようなママなんだ。
ね、素敵なママでしょう!
世界で一番のママでしょう!
私は幸せだよ、ママに愛されてしあわ…──!!
ここ、どこだろう?
私は目隠しされてるみたい。あの時、図書館で勉強してた時、誰かに捕まったんだ。多分薬品でも嗅がされて、それで意識を失ったんだと思う。身じろぎすると、柔らかな物の上にいると知る。手探りで撫でると、滑らかな布の感触。何だか寝台の上みたいで、嫌な予感しかない。
「マリリン」
急に顎を取られて、上向かされる。
そしてこのねちっこい声は、第二王子ですね。いい声だけど気持ち悪い。
「マリリン聞いてくれ! あの生意気なレンジーナの奴が俺に婚約破棄してきたんだ。酷い女だ。俺の有責だって言うんだぞ!」
いや、王子婿入りするんだから、レンジーナ様大事にしなきゃそうなるよね。常識だよ。
だけど王子様なんて、自分のことしか考えないロクデナシだ。ひとりで自分が可哀想、悲しい、裏切られたとかぶつぶつ言ってる。
「だけど俺だけじゃないんだ。アイツらもみんな婚約破棄されてしまったんだよ。だから、マリリン分かるだろう?」
え、分かりません。
「俺たちを慰めてくれ、な? マリリンは可愛いんだ。ほら、この胸すごくイイ」
な、何? ヤダ! この変態!!
私は思わず身を捩る。何だ、何だ、のしかかってくるな。王子なら王子らしく、品行方正でいてくれませんか!
女子のスカートの中の足触るとか、もう犯罪者だ!
「暴れたらダメだよ、マリリン! ああ、もう、スカートが捲れて、中が見えてしまうよ」
ゾゾっとするような猫撫で声と、変な興奮した息遣い。あと、手つきが嫌。ものすごく嫌。嫌しかなくて、涙が出てくるし、ものすごく怖い。
暴れて目隠しがずれたんだろう。見えた先に、私は絶望した。
だってそこにはニヤニヤした、もうひとりの王子と、宰相の息子と騎士団長の息子、大神官の息子に大きな商会の坊々、そしてよく分からない自称幼馴染だ。こいつら、どうもみんな婚約破棄されてその腹いせに私を誘拐したらしい。それで、みんなのものにするんだとか、めちゃくちゃなこと言ってる。
こんな時でも身分があって、だから第二王子から最初なんだって、バカじゃない? そんなの関係ない、テメーらみんな犯罪人だ!!
「ヤダ、ヤダ、触らないで!」
「ああ、マリリンそんなフリしなくていいよ? もう、怖い女どもはいないから」
「やぁ!」
「君は遠慮してたんだろう?」
頭の中身まで腐ってるような、身勝手なことを言う。何これ? 何なの? どうして、私がこんな目に遭うの? ゲームのせい? ここがおかしな世界だから? 犯罪じゃないの、これは?
私は怖くて怖くて、身体が震えてどうしようもなくて。しかも、さっき押さえつけられて手首も痛い。
「やだぁ、やだよ! た、すけて、たすけて……たすけて、アースリア!!」
──バリンッ!!
カーテンされた窓から、弾丸のように何かが飛び込んできた。それは白銀の塊で、マリリンに覆い被さる気持ちの悪い生き物を吹っ飛ばす。蹴り落とし、見えない衝撃で他の奴らも壁へと打ちつけていく。
「マリリン、ごめんなさい。遅くなってしまって……怖かったよね。こんなに怯えて、ごめんなさい」
震えるばかりのマリリンを抱きしめて、その人は言う。高い身長は学園の女性で一番かもしれない。足が長くて、いつももつれないのかなとか思ってた。髪が長くてキラキラしてて、とても綺麗な星屑のよう。
でも、こんな顔だったかな?
アラビア数字の三のカタチのおめ目はどこへいったのだろう。胸だってあったと思ったのに、ぺたんこどころかしっかり硬い。しなやかな筋肉しか分からない。
夜空を紡いだ輝きがふたつ、マリリンをしっかり映す。声もこんな低い声だったかと、私は思う。だけど、匂いは同じ。涼やかな香り。甘くない不思議な匂い。いつもマリリンを学園で守ってくれ、側にいてくれた香りがしたのだ。
「マリリン、僕と仲良くしてくれてありがとう。僕と一緒に勉強をしてくれてありがとう。僕と一緒に食事をしてくれてありがとう。僕は君が大切だよ。とても、とても、大切なんだ」
見たことのある顔で、見たことのない顔が私に語りかける。怖くて涙ぐんでいたから、ぼやけていくけどアースリアは格好良くて素敵な顔立ちだと思う。
だって、眼差しがとても温かい。温かいって、幸せなことなんだよ。
「僕が偽っていて、君がそれを怒っていても聞いて欲しい。我儘なのは十分承知してるから」
「アースリアのお願いなら、私は聞きたいな」
「本当?」
「本当だよ」
そう答えると、アースリアは綻ぶように笑ってくれる。男の人なのに綺麗で花のようだと思う。
「君が好きなんだ、マリリン。ひたむきに頑張る横顔が大好きで、それをずっと僕は見ていたい」
「好きなのは横顔だけ?」
「ごめん、あまり欲張ると君が怖がると思って。本当はね、他の角度の君も好き。あちこち、色んな君が好きだよ」
「ありがとう、アースリア。私嬉しい」
それから彼は、目を逸らしまた戻す。頬が少し赤くて可愛い。やはりとっても綺麗。
「マリリンは僕が好き?」
「私はアースリアが大好き!」
(そっかぁ……アースリアはお姫様じゃなくて、格好いい騎士様だったんだ)
「おかあサマのおかあサマは、そのあとどうしたの?」
幼い我が子が、続きをねだる。
「お母様と再会して、一緒に素敵な所に引っ越したの。そう、貴女も知っている所よ。世界で一番安心できる場所」
「わかったぁ! パパのところでしょう!」
「正解!」
私は隣国に来て、もう五年。
一所懸命勉強したかいあって、住む国が違っても困らなかった。変態犯罪集団は全員捕まって処分されたので、新たな犠牲者が出ることもない。
なんでも、全員南にある異国の王への貢物になったそうだ。その国の王族はこちらと同じ一夫一婦制だが、子作り以外の夜伽は男を相手にするらしい。大事な跡継ぎは后との間で交わし、それ以外の欲は見目の良い男性で楽しむそうだ。そうすれば王の種は絶対に散らばらないという。ところ変われば文化も違うとは、まさにこのことだ。
なんだかんだと、彼らは見た目だけは良かったので全員そういう対象として贈ると、私だけを除く関係者の集いでの満場一致。
あちらさんのお国に行けば、終生彼らは女性と出会うことない身の上になる。しかもよりどりみどりで、各種個性あるイケメンだ。きっと向こうの王族さんも、バラエティーに富んだメンバーを見て喜んでくれると思う。
そういった内容を事後報告で私は聞いた。落ち着く時間が必要だろうと、皆さん気を遣ってくれたのだ。
そして私は素敵な旦那様と結婚して、ママも一緒に来てもらって、みんなで仲良く暮らしているの。今はもう可愛い女の子が生まれて、昔話をせがまれる。
パパとはどこで出会ったの? って。
それは難しい質問だけど、私はこう言っている。
「パパとは学園で出会ったのよ。いつもママの側にいて守ってくれて、一番怖い時も助けに来てくれたの」
白金の髪はそのまま綺麗に編み込まれ、今は甘いチョコレート色のリボンを結んでいる。メガネはもう必要ないみたい。あれは変装の道具だって教えてもらった。
持て余し気味の長い足だって変わりなく、でも昔よりずっと逞しくなっている。身体が弱かったのは、子供の頃だけだったんですって。でも学園では顔も身体も誤魔化さないとだめで、定期的に認識異常の魔法をかけていたみたい。
実は彼の家では跡継ぎ関係で、大きな揉め事が起きたとか。しかも暗殺される恐れもあって、性別を偽って隣国までやって来たそうだ。そして私と出会い、運命の騎士様になってくれた。
本当に、乙女ゲームの隠しキャラみたい。
でもそんなの関係ない。
あの時、私は本当に彼が私の騎士だと思ったのだもの。震えるマリリンを抱きしめて、暴漢から救ってくれた。それだけでいいと思わない?
だからずっと、私は貴方の隣にいる。今日も帰宅したら、私を抱きしめてね。
そうそう、彼の本名アーサーって言うの。
とても……らしいでしょう?
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!!
もし、面白い、楽しいなど感じましたら、評価をよろしくお願いします。
これからの執筆の励みといたしますので!!!




