プロローグ/きたぜぬるりと
「はぁ……はぁ……」
指に挟んだ白濁色の四角い物質――麻雀牌が汗で滑りそうになる。
親指に触れる牌は、それがなにかはすでにわかっている。ツルツルとした質感、どこを取っても同じ肌触り、誰が触っても間違えようがない。
「どうした兄ちゃん。さっさと捨てな。長考は代打ちの恥だぜ」
牌を握る男の正面に座るスキンヘッドの中年男性の低い声が響く。タバコの煙が視界を横切る。両サイドの若い男たちからも鋭い視線が飛んできていた。
正面のスキンヘッドの前に並んだ牌は六枚目で横向きに置かれている。立直だ。あと一つ、何かの牌が出れば"上がれる"ことを宣言している。そこからすでに七枚切られ、それが何かを、捨てられている牌――河から判断しなければいけない。
両サイドの若い男たちの河には、男が握る牌と同じものがそれぞれ一巡目に捨てられている。男が握るもの――唯一何もついていない白。通常なら、かなり安全な牌として判断される。たとえそれが持っているだけで得点が伸びるドラであってもだ。
けど、これは莫大な金が動く裏麻雀。カタギではない男たちがお互いの抗争の解決策の一つとして採用しているギャンブルであり、勝敗によっては存続が危ぶまれるため、それぞれ"勝てる人材"を揃えてくる。
しかし、今回はかなり分が悪い。通常、二組の抗争ならそれぞれから二人ずつ座る。メインの人同士の点差で勝敗を決めるコンビ打ちをメインとなる。今回は四組の抗争であり、全員が敵となる。一位を取ることが大事ではあるが、真の勝負は"四位にならない"ことであり、四位の組のシマが一位の組に奪われてしまう。だからこそ、ラス回避が重要であり、勝てないまでも負けないようにしなければならない。
そして、牌を捨てる順番に来ている男――青柳悟はギリギリの場面に立たされていた。
青柳の得点は10,100点。右――下家が30,500点、正面――対面が25,400点、左――上家が34,000点。そして現在は最終局であり、この局で一番点数をもっている者の勝利となる。
(一番点数が近い対面との点差は、……15,300点。二本場だから直撃でも5,200……ダメだ足りない。最低でも3翻50符。こっちはタンヤオ赤3ですでに満貫。直撃なら勝てるが、こっちも立直のツモでも|跳満《3,000-6,000》で親の対面をまくれる……)
手が震える。脂汗が止まらない。理由は明白だ。負ければ責任を取らされて殺される。抗争の一部ならば、落とし前は付けなければいけない。だからこそ、ここは負ける訳にはいかないと、青柳の心が焦る。
(俺の視界から、ドラはすでに六枚。上がられればどのみち負け。横の二人はすでに降りてる。なら、……ここは勝負! せめて流局なら、次に賭ける!)
「立直だッ!」
手にしていた牌をそのまま自分の河に捨て、横にする。対面の男と同じように立直宣言牌となった白が全員の目に飛び込んだ。
「ロン。立直ドラドラ。裏は……見なくてもいいな。どうせ3翻50符の二本場で10,200点。兄ちゃんのトビだ」