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白い少女

白い壁。白い床。昼光色の青白い光。白衣の大人達。

ここにいる子供達はすべてが白い世界で出来ているように錯覚してしまう。


実験体008号と呼ばれる少女も例に漏れず、白い検査着を着て毎日を過ごして。

そしてその事に少女は違和感を覚えずにいた。

なぜなら彼女は生まれたその時から既にこの研究所で暮らし、外の世界というものは知識でしか得ておらず。

少女にとって研究所以外の世界というのは自分には縁のない世界の事だと、どこか漠然とした認識でいた。


その常識(・・)が崩れたのは突然の事だった。


普段とは違う時間に個室の扉が開かれた。

しかし、いつもはいるはずの大人はそこにはおらず。

変わりに普段静かな研究所には、ところどころで轟音が響き渡っていた。

少女は何か緊急事態が起きたのだと察し、しかし心の内は凪のように冷静。


普段は規律を正しく守る少女も、今だけは例外と部屋から一人で外へ出る。

異常事態にあって、その少女は日々の変わらぬルーティンから逸脱した行為に、少しワクワクした心持ちであった。


白い廊下には倒れた大人達と、たくさんの赤色。

中には何度も見た顔があった。

そんな状況であっても少女は未だ冷静。


〝生気のない眼〟と大人たちに散々言われた眼で、あちこちを歩いて回る。

普段なら勝手に研究所内を歩き回るという行為は、大人達に禁止されている事。

しかしこの研究所にいた大人達の大半は逃げたか、死んだかなのだろうと少女は思う。

ならばそのルールにわざわざ律儀に従う事もない。


どうせならと、普段は絶対に通ってはいけないような通路をあえて選んで進む。

そうして辿り着いた先に、私達が〝先生〟と呼ぶ存在が、黒いスーツを纏った集団に追い詰められているようであった。


「いいところに!! 008号!! 私を守りこいつらを殺せ!」


事ここに至っては、明らかに〝先生〟が不利な状況。

ならば味方する必要もなしと、少女は冷静に判断する。

依然として黒スーツの集団は何者かは知らないが、少女にとっては〝先生〟は昔から不愉快な存在であった。


「嫌です」

「……は?」


先生は008号と呼ばれる少女が反抗するなど考えられないといった表情。

それもそうだ。少女は今の今まで一切反抗することなく、大人達のいう事に唯々諾々と従っていた。


「先生さようならです」

「お……おい。違うだろ…………お前はうちの最高傑作で、私達の道具だろう?」


その言葉に黒スーツの集団は眉を潜める。

黒スーツの集団も少女と先生のやり取りを、静観していた。


少女は先生に手をかざす。


「や……やめろ」


それだけで先生には何が起こるのか理解出来ているようであった。


少女のかざした手の先には半径一メートル程の平面の黒いモヤのようなものが現れ、そこから距離を無視して先生の頭部が生えている。

先生の方にも、首の辺りに同じような黒い平面のモヤが現れて首から上は、その黒いモヤに吸い込まれるように消えている。


少女は空間と空間を繋げる力を有している。

いわゆるワープゲートと呼べる代物を小規模に展開していた。


少女が開いた手をグッと握りしめると、黒いゲートは瞬時に収縮し、そこにあるものを問答無用で切断した。

ボトリと先生の首が落ちた。



少女の生まれ持った()()は空間を捻じ曲げて〝扉〟を作る。

右手でかざした場所を入口に、目視した場所を出口に。

目視とはいうが、強くイメージに残っている場所なら、遠く離れた場所でも目を閉じて数秒程その場所をイメージするだけで出口ができる。


入口と出口は同時に形成され、どちらか片方だけを作る事はできない。

〝入口〟〝出口〟と名称しているが、出口からは入れない、というわけでもなく入口、出口、双方から入ることも出ることもできる。

飽くまで〝扉〟だということだ。

また扉のサイズも自由自在。

この能力は物体がくぐり抜けている途中でも扉を閉じると、それがどれだけ硬いものであろうと容赦なくソレを切断して扉を閉じる。


「資料通りの能力ね……」


そう呟いたのは黒スーツの集団の中でもとりわけ若い少女だった。

その声色には隠しきれない好奇心が混ざっている。


「資料?」


008号と呼ばれる少女は小首をかしげる。


「ええ、ここの研究所にあった資料よ」


長い黒髪を靡かせた少女は、008号に微笑んで答えた。


しかしその微笑みは008号には見えなかった。

それもそのはずで、数人の黒スーツを来た男女が008号と少女との間に立ちふさがっているからだ。

その誰もが008号に向けて、警戒心を顕にしている。


「そうですか。これから私はどうなりますか?」


おそらく彼女がこの黒スーツのリーダーなのだろうとあたりをつけて、目の前の集団を無視する形で淡々と問いかける。


「んー……そうねえ」


行くべき場所がないのならうちに来たらどうかしら? 少し悩む素振りを見せた少女は軽い調子でそう答えた。

その発言にぎょっとする周囲の黒スーツ達。



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