007. 学園生活
◆ 翌日、サラは編入初日を迎え、教室の前に立っていた。ティナの専属メイドから念入りに身支度をさせられ、いつもは簡単に済ませる髪の手入れまで入念にされた。
サラは緊張しながら扉を開けると、一斉に視線が集まった。
(うわぁ……)
クラスメイト達は興味深そうにこちらを見ている。サラは内心冷や汗をかきながら……、黒板の前に立つと自己紹介を始めた。
「はじめまして、サラ・ステラと申します。これからよろしくお願いいたします」
一礼すると、生徒たちは拍手をしてくれた。
「席はティナ様の隣に座ってくれ」
「はい」
担任の教師の指示に従い、サラはティナの横の空いた椅子に移動した。
「サラってまだ学生の年齢だったんだね。まさか、その年齢でギルドの支部に勤めてたなんて凄いね」
「生まれてから一度も学校には行ったことないんです。ギルドの仕事は成り行きで……」
「そうだったんだ。じゃあ、わたしの方が先輩だね」
ティナは嬉しそうに微笑むと、サラの手を握った。
「私が学校の中を案内してあげるよ」
「ありがとうございます」
二人は授業を受け、放課後になると早速校内を散策することにした。
「まずはここだね」
「ここは?」
「図書館だよ。この国のあらゆる書物が揃っているんだよ」
「へぇー、すごいですね」
「入ってみる?」
「はい」
二人は図書館に入ると、膨大な数の蔵書に驚いた。
「これ全部本なんですか?」
「うん、ここには世界中の本が集められているの」
「すごい……」
サラは感嘆の声を上げた。
「この国の人は皆、ここで知識を身につけるの」
「そうなんですね」
「サラはどんな本が好きなの?」
「私は……」
サラはしばらく考えると、一つの本を指差した。
「私は冒険譚が好きです」
「それなら……」
ティナは近くにあった本の山から何冊か手に取ると、サラに手渡した。
「これはわたしが昔読んだことのある物語なんだ。良かったら読んでみて」
「いいんですか?」
「うん、本はあそこで借りられるから」
それから、サラはティナと一緒に色々な場所を回った。
校庭では部活動に励む生徒達の姿が見える。校舎裏にある花壇には色とりどりの花が咲いていた。ティナはサラを連れていくところ全てで丁寧に説明してくれる。
途中で休憩のため中庭に設置されたベンチに腰掛けると、ティナから逃げる様に隣のベンチに座っていた男子生徒が逃げていった。ヒソヒソ会話をする声はこちらにも聞こえてくる。
「魔女だ」
「あいつまた来てやがったのか」
サラはその言葉を聞いた瞬間に立ち上がり、二人の元に向かった。
「ちょっと、サラ!?」
「なんだ文句でもあるのか?」
「陰湿な嫌がらせは止めなさい。ティナ様は何もしていないでしょう!!」
「うるせえぞ、女風情が」
「私は態度を改めろと言っているんですよ」
「はっ、何寝ぼけたこと言ってんだ」
「お前、自分が何言ってるか分かってんのか?」
「……言葉が通じないようですね」
「おい、何調子に乗ってんだ?」
「痛めつけられたくなかったらさっさと消え失せるんだな」
「痛めつけられる?」
「そうだ、痛めつけられたくないだろう?」
「……っ、ティナ様、少し待っていてください」
「サラ、だめだよ。こんな奴らに構う必要ないよ」
「いえ、私のことは気にしないで下さい」
サラはティナにそう言うと、男達に向き直った。
「おい、あんまりふざけた事を言うんじゃねえぞ」
「……痛めつけられる力量もないでしょう?」
「何だと……てめぇ」
男は拳を振り上げると、サラの顔目掛けて振り下ろした。しかし、サラはそれをひらりとかわすと、男の懐に入り込み、みぞおちに裏拳を打ち込んだ。
「ぐふぅ……」
男はその場に崩れ落ちる。
「この野郎!!」
もう一人の男がサラに殴りかかる。サラは身を低くすると、相手の足を払い、転倒させる。そして、倒れた相手が起き上がる前に背中に馬乗りになり、首の後ろの急所に手刀を叩き込む。
「がぁ……」
男は気絶した。
「お前たち何をやっているんだ!!」
騒ぎを聞きつけて教師が現れた。
「ち、違います先生、こいつが……」
「言い訳するな。全員指導室まで来い」
サラとティナは職員室に連れて行かれ、事情を説明すると、厳重注意を受けた。
「君たちはもう少し冷静になるべきだ。喧嘩をして怪我でもしたらどうするつもりだ?」
「申し訳ありません」
「ごめんなさい」
「まあいい。今後は気をつけるように」
全員職員室から解放されると、教室に戻り、帰り支度を始めた。
「サラ、今日はもう帰ろう」
「そうですね」
二人は校門を出ると、ティナはサラの手を握った。
「サラ、大丈夫だった?ケガとかしてない?」
「はい、平気です」
「そっか、よかった」
「あの、ティナ様」
「ん?何?」
「ティナ様はなぜあの方たちに反論しなかったのですか?」
「ああ、あれは仕方ないよ。いつものことだし、魔物を討伐してるうちにそういう噂が広まっちゃってね」
「そんな……」
「それに、別に気にしてないしね。あんなの全然大したことじゃないよ」
ティナは笑顔を浮かべるが、その顔にはどこか影があった。