042. 契約
◆ どのくらい意識を失っていただろうか、レイナは目を開ける。
「ここは……」
教会の中を見渡すと、本当に酷い有様だった。シスターが二人倒れていて、クリスティーナも血を出して床に倒れていた。
レイナは、立ち上がり歩き出そうとするが、足に力が入らない。腹部からは血が流れ出している。
隣に倒れこんでいるレオンはもう冷たくなっていて動く気配もなく地面に横たわっていた。
「誰か助けて……」
レイナは涙を流すと、そのまま地面に倒れ込んだ。
「痛い……」
レイナが泣きながら呟く。レオン地面に倒れたレオンにレイナは覆いかぶさるように抱きついた。
「ごめんなさい……」
レイナの頬に一筋の雫が流れる。
「私が弱いせいで……」
レイナの目から溢れ出す涙は止まらない。レイナはレオンの唇に自分の唇を重ねた。
レイナは静かに涙を流し続ける。そして、もう一度、今度は強く唇をレオンに押し付けた。
「お願いします……。どうか……、神様……。どうか、この人を助けてください……。私はどうなってもいいから……。この人をどうか――」
レイナの願いは虚しく消えていく。レイナの視界は真っ暗になり、レオンに被さる。
「レオン……。起きて……。ねぇ……、レオン」
◆ レイナの声が聞こえてくる。レオンはその声が聞こえていた。ただ、体が全く動かない状態だった。
俺はこのまま死ぬのか……。そう思うと、怖くて仕方がなかった。
だが、不思議と恐怖心はなかった。
何故か、それは俺のことをずっと想ってくれる女の子がいるからだ。
俺には勿体ないほど、可愛い女の子だ。そんな子に好かれて幸せ者だと思った。
だけど、もう一緒にいることはできなくなってしまった。
だから、最後に彼女の顔が見たかった。レオンは思いっきり自分の体に力を入れる。
「ねぇ、レオン……。まだ生きたいと思ってるの?」
紫色のショートカットの少女が椅子に座りながら話しかける。彼女が何者かをレオンは知らない。
だけど、そんなことを気にする余裕もなく言葉を返す。
「当たり前だろ……」
「そっか、それなら私も協力してあげる。でも、私と一緒にいるということは死よりも辛いことかもしれないよ」
「それでもいい……。お前は一体何なんだ……」
「私はね、剣だよ。貴方の持っている剣。それが私の正体――、」
彼女は優しく微笑む。その姿はとても可愛らしく見えた。少女は目の前に扉を出してこう言った。
「お姫様が待ってるんだから早く行きなさい!」
扉の中に吸い込まれるように、レオンは扉の中へと入っていった。
◆ レオンは勢いよく目を覚ました。教会の中にはクリスティーナがいて、床に血を出しながら倒れているのが見えた。
他にも教会のシスターが二人――、倒れているのを確認する。
「クリスティーナ!!」
レオンは自分の体を起こそうとする。すると、自分の体にレイナが覆いかぶさっているのが分かった。
レオンは焦りながら意識を失いそうになっているレイナに呼びかける。
「レイナ、返事をしてくれ」
レイナの顔色は悪く、呼吸も荒かった。
レオンの叫び声が教会中に響き渡る。レイナは薄っすらと瞳を開け、レオンが起きたのに気付くと笑顔を見せた。
「良かった。無事で……」
「大丈夫か!?」
「うん、何とか……」
「今、回復魔法を……」
レオンが回復魔法をかけてなんとか傷は塞がった。それでも、出血が多くレイナの顔色は悪いままだった。
だが、レイナは今度はしっかりと瞳を開けてレオンに抱き着いた。
「レイナ……」
「もう駄目かと思ったの。でも、レオンが生きてて本当に良かった」
「俺のことより、レイナの方が心配だ」
「私のことはいいの! それより、クリスティーナさんは……」
レイナはクリスティーナの方を見る。クリスティーナはさっきのレオンの叫び声を聞いて目を覚ましたのかこちらを見ていた。
表情は苦しそうなままだった。レオンはクリスティーナにも回復魔法をかける。
「すまない……、レオン」
クリスティーナは回復魔法で体が治っていくと同時に、立ち上がって教会内を歩き始めた。
「病み上がりですまんが……、レオン、刻龍を止める覚悟はあるか?」
レオンは黙って首を縦に振った。騎士団が王都を守っている。教会の外を出ると酷い光景が広がっていた。街のあちこちで炎が燃え盛り、建物が崩れ落ちていた。
王都のほぼ全域がそんな状態だった。
「こんなに……」
「刻龍が完全に力を取り戻してしまったんだろう。これ以上はもう――、」
「レイナ、歩けるか?」
「うん……」




