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風魔法使いの兄妹は、王女殿下に恋をする  作者: ともP
第一章:第二王女
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003. ゴブリン討伐

◆ 三人は森の中に入り、しばらく進んだところで立ち止まると周囲を警戒し始めた。


「どうやら、この先にいるようですね……」


「ええ、そうみたいです……」


サラの言葉にアインツが同意し、アインツの隣にいたティナは黙ったまま真剣な表情をしている。サラは一応二人に戦闘経験があるかどうかを聞く。


「二人はゴブリンの群れと戦ったことはおありですか?」


「私はあります。しかし、今回は数が多いので油断はできません……」


アインツはそう言うと、弓を構える。ティナは黙って首を縦に振って肯定する。


「そうですね……。アインツさん、ここから先は私が先行しますので、後ろから援護していただけますか? 」


「はい。分かりました」


「ティナ様は私のそばから離れないようにして下さい。もし、危険だと感じた場合はすぐに逃げてください。いいですか?」


「いやいや、わたしが全部やっちゃうから問題ないよ」


ティナはそういうと詠唱を始める。王族一族に伝わる魔法詠唱だった。


「我が身に宿りし雷の力よ、我に力を与えたまえ!」


ティナの身体が光に包まれる。雷は周囲を巻き込むように青い光を帯びて森に向かってくる。

放たれた魔法が魔物達がいるであろう場所に直撃する。


『ギィッ!!』


悲鳴のような鳴き声が聞こえた。


「よし、上手くいったかな……?」


ティナが放った魔法によって、ゴブリンの群れは全滅した。


「凄まじい威力でしたね……」


サラとアインツはティナの魔法の威力を見て驚きの声を上げる。


「さぁ、次はこっちだよ」


ティナはそう言ってゴブリンが居た場所に向かって歩き出した。


「えっ、ちょっとティナ様!!」


サラとアインツも慌ててティナの後を追いかけた。

そして、少し歩くとそこには大量のゴブリンの死体があった。死体の全てが原型を留めておらず、魔石が転がっているだけだった。


不思議なことに血痕のようなものはなく、魔物特有の腐敗集もない。


サラはこれまで多くの冒険者達を見てきた。その中には優秀な者もたくさんいたが、ここまで圧倒的な力を持っている者は見たことがなかった。


たった、一例を除いては……。


「(兄さん……)」


「とりあえず、魔石を回収しないとね」


ティナはそういうと、懐から袋を取り出して手際よく周囲に散らばった魔石を回収する。


「すごい手慣れていますね……」


アインツは驚いた様子でティナに話しかける。


「お父様には趣味の悪いことはするんじゃないっていつも言われてるけど、これくらいなら別にいいよね?」


ティナは笑顔で答えた。無邪気な笑みは年相応のあどけなさが残っている。


「はい。ティナ様のお好きにしてもらって構いません」


「よかった。でも、こんなに沢山の魔石を回収できるなんて思わなかったなぁ……」


ティナは嬉しそうに言う。


「ティナ様、お手伝いします」


「ありがとう。じゃあ、この袋に入れてくれる?」


ティナはそう言いながら、ティナが持っていた大きめの袋を指差す。


「分かりました」


サラは言われた通りに作業を進める。


「あの……、ティナ様」


「ん、何?」


「ティナ様は冒険者としても活動されていたんですか?」


「ううん、わたしはしてないよ。お父様が許可しないしね。ただ、わたしはとある理由で魔石が必要でね。たまにこうやって一人で来ることがあるの」


「そうなのですか……」


サラはティナの言葉を聞いて、疑問が浮かび上がってきた。

(王族が魔物討伐をするというのは聞いたことがない。それに、この力は一体……)


「どうかしたの? 」


「いえ、なんでもありません」


サラは考え事をしていて、手が止まっていたことに気付き、急いで作業を済ませた。



◆ その後、三人は森を抜けて街へと戻ると、ギルド支部へ報告に向かった。


「申し訳ございませんでした……」


サラは支部長に深々と頭を下げる。


「いや、君が謝ることじゃないよ。それに、王女殿下に何かあったらと考えるとゾッとするよ。ありがとう」


「いえ、そんなことは!」


「いや、本当に助かったよ。それでゴブリンの数はどれ程になったんだい?」


「全部で二百体ほどになります」


「にっ、にひゃ!?」


あまりの数の多さに、サラの報告を聞いた支部長は驚きの声を上げた。


「はい」


「そ、そうか……、それでは報酬は金貨十枚になる。それと、ゴブリンの討伐証明部位の確認が終われば、追加で銀貨五枚の支給がある」


残念ながら討伐部位は全て吹き飛ばしてしまったので、追加報酬はないだろう。ただ、サラもティナも報酬をもらうことはできない。


「分かりました。では、アインツさんは管轄支部が違うので申請だけしておきますね」


「私、何もしてないんですが……」


「いえ、私はギルド所属でティナ様は王族なのでどちらも報酬を受け取ることができないんです」


「そうなのですか……」


「わたしは王族だからね。報酬を受け取ったらお父様に怒られるだろうしね」


ティナの困り顔を見て、アインツは納得すると、サラから受け取った書類を持って自分の管轄支部へと向かっていった。サラはその様子を見て少しだけ懐かしく思えた。


「それじゃあ、ティナ様もこちらに来てください」


「はーい」


ティナは元気よく返事をして、サラの後に続いた。第二王女を送っていけという指示だったはずだが、いつの間にか迎えの馬車に乗せられていた。


「ところで、ティナ様」


「何?」


「どうして魔物を狩るようになったのですか?」サラは、ティナに質問する。


「それは……」


ティナは少し考えた後、話し始めた。


「まあ、趣味かな。お父様が心配性でね。わたし、本当は冒険者になりたいんだけど、絶対に許してくれないし……」


ティナは頬を膨らませて不満げな表情を浮かべる。


「ティナ様は冒険者になりたいのですね」


「うん。だって、冒険者は自由でしょ。色々なところに行けるし、いろんな人達に出会える」


「そう……ですかね……」


「あっ、もちろんお父様達には内緒だよ。絶対に認めてくれないし」


サラはティナの気持ちも分かる。だが、王族である以上、冒険者になることは認められない。というより、この魔物狩りもグレーよりのアウトだと思う。


「サラも冒険者だったんでしょ?」


「えっ?」


ティナからの思いもよらない言葉にサラは驚く。


「冒険者だと思ったけど違った?」


「ええ、昔はそうでした」


(昔の話を聞かれるとは思わなかった……)


「でも、今は違うってことは辞めちゃったんだね……」


「えぇ……」


サラは言葉を濁す。サラが冒険者を辞めたのには、色々な理由があった。王家への不信感と、ギルド本部への恨み――、最大の理由は大切なものを失ったからだ。


「どうして? やっぱり危険だから?」


「いえ、そういうわけではありませんけど……」


「お父様に止められたとか?」


「それも違いますね……」


「サラ、どうしたの?」


ティナは不思議そうな顔をする。サラはさっきから嫌な気配を感じ取っていた。冒険者だった頃に感じていた嗅覚が、ここは危険だと告げている。


サラが背後を振り返る。そこには、黒い衣装を身に着けている男が馬車に乗り込もうとしていた。サラは剣を抜いて、立ち上がった。馬車が急停車する。


「誰?」


ティナは警戒しながら尋ねる。


「まさか、気づかれるとは……」男は、馬車から降りて気配を消す。


「ティナ様、下がっていてください」


サラはティナの前に立つ。そして、腰に下げていた剣に手をかける。もう使うことはないと思っていたが、兄の形見であるこれを手放すことはできなかった。


「(兄さん……)」


サラは心の中で呟きながら、剣を抜き放った。サラは呼吸を整えながら、辺りを見回す。しかし、他に敵の姿はない。


「(まだいるはず)」


サラは気配を探るが、敵の気配が感じられない。

サラは神経を研ぎ澄ませる。すると、僅かに空気の流れを感じ取ることができた。


「そこ!」


サラは剣を振り抜くと、何かが弾かれた音が聞こえてきた。剣に纏った風が収縮し、投げた先にいる男を切り裂いた。


「うぅ……」


男のうめき声が聞こえる。サラはゆっくりと近づくと、男が倒れ込んでいた。


「サラ、大丈夫!?」


ティナがサラに駆け寄る。


「はい、問題ありません。それよりもティナ様は怪我などされていませんか?」


「うん、わたしは平気だよ」


ティナは笑顔で答える。


「それなら良かったです」


サラも微笑み返す。


「それで、さっきの人はどうなったの?」


ティナは心配そうに聞く。


「気絶しているだけです。命に関わるような傷は負わせていないので安心してください」


「そっか……。よかった……」


ティナはホッとした表情を見せる。

サラは周りを確認する。特に問題なかったので、馬車に乗り込み王宮へ向かった。

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