036. 闇に続く道
◆ レオンはエアリスを追って、学園の外に出る。
だが、そこには誰もいなかった。
その代わり、大きな魔方陣のようなものが、地面に描かれているのが見えた。魔法陣は輝きを増そうとしており、このままでは不味いと思ったレオンは、急いで魔法を発動しようとする。
「風よ、」
だが、間に合わなかった。魔法陣からは、巨大な龍が現れたのだ。龍の背後にはエアリスがいる。
「くそ……」
「霊脈を集めるにはこの学園が最適だったのよね」
「くそ……、やるしかないのか」
刻龍が吠えた。すると、辺りが一瞬で茜色に染まり、轟音と共に大地が揺れる。
「グアァァッ!!」
「ぐっ……」
レオンは吹き飛ばされないように踏ん張るが、それでも立ってはいられないほどの衝撃が襲ってくる。そして、次の瞬間、刻龍の姿が消えた。
「どこに行った……」
レオンが警戒していると、突然背後に気配を感じた。
慌てて振り向いたが、既に遅かった。エアリスが背後から攻撃をしてきた。
「はぁぁぁ!!」
レオンは咄嵯に剣で防御するが、その攻撃は凄まじかった。一瞬で壁に吹き飛ばされると、そのまま地面へと落下した。
「がはぁ……」
「あらあら、随分と呆気ないのね」
痛みで動けないレオンを見て、エアリスは嘲笑う。空は赤く染まっている。王都フォーリナーがある方角からは黒煙が上がっているのが見える。
「王都もこれで終わりね。さようなら、レオン」
「くっ……」
レオンは必死に抵抗しようと、立ち上がろうとするが、身体中が痛くて動かない。意識が薄れていく。そして、レオンは死を覚悟する。
(俺はこんなところで死ぬのか?)
レオンは思う。自分の人生はなんだったのだろうかと。死に際の意識にレイナの顔が浮かんでくる。
「俺は、死にたくない……」
「そうね、貴方はまだ死ねないわ」
「誰だ?」
地面に転がった魔剣が意志を持って地面に突き刺さった。そして、魔剣は黒々と闇を放ち始める。声の主は高らかにハッキリとこう言った。
「生きたければ剣を取りなさい」
「剣を?」
「貴方は剣に選ばれたのだから」
レオンは剣に手を伸ばす。剣に触れた途端に、黒い霧のようなものに包まれる。
「なんだ、これ……」
「貴方に力を貸してあげる」
レオンは立ち上がると、エアリスに向かって走り出す。研ぎ澄まされた意識と共に剣先が自分の手のように軽快に動いてくれる。
「馬鹿な奴」
エアリスがレオンに魔法を放つ。だが、その魔法は剣によって打ち消される。
「なん――!?」
「悪いが、お前に1秒たりとも構っている暇はないんでな」
レオンは、エアリスに接近して斬りかかる。
「そんなの効かないわよ」
エアリスはレオンの攻撃を避けるが、レオンの動きについていけていない。
「どういうこと?!」
レオンはエアリスの懐に入ると、連続で剣を振るう。だが、いくら斬っても、エアリスの傷は直ぐに再生してしまう。しかし、レオンはそんなことは気にせず、ひたすらに剣を振り続けた。
不死身の体でも魔力は消費し続ける。痺れを切らしたエアリスは、反撃をしてくるが、レオンは構わずに剣を振るい続ける。
「いい加減にしなさい!!」
「黙れ」
「きゃあ!!」
遂に、エアリスを追い詰めたレオンは、彼女の腕を切り落とした。
「これで、終わりだ」
「舐めるなぁ!!」
「なに?!」
切り落とされたはずのエアリスの腕は、瞬く間に生えてきた。やはり、クリスティーナのように体全部をすべて焼き払うような魔法を使うしかないのだろう。
「残念だったわね」
「まだだ」
「しつこい男は嫌われるわよ?」
エアリスは両手を広げると、大量の魔法陣を展開し始めた。
「消えろ!!」
レオンは覚悟を決めていた。たとえ、化物になろうとも奴を止める。
「闇から闇へ、深淵を覗く者よ、我が声に応えよ。そして、全てを喰らい尽くせ。此れなるは、万物を呑み込む虚無なり――」
レオンが詠唱を唱えると、辺り一面が真っ暗になり、何も見えなくなった。黒い闇の塊が上空に現れると、そこから無数の触手のようなものが伸びてくる。
触手は上空の黒い塊から伸びるようにエアリスに襲い掛かってくる。
「何よ、これは……」
エアリスも流石に焦っていた。迫り来る触手を魔法で迎撃するが、次々と現れるそれに対処できない。無数の触手はエアリスを遂に捕まえる。
「くそぉ!!私はこの国を変えるんだぁ!!!」
エアリスの叫びも虚しく、触手は無情にも彼女を飲み込んでいく。そして、完全に飲み込まれる寸前――、レオンは呟いた。
「これがお前の運命だ」
エアリスが完全に消えると、レオンの体全身に鋭い痛みが走る。全身を針で刺されたような感覚だ。
「ぐあああっ!!」
あまりの痛みに耐えられず、レオンはその場に倒れ込んだ。
「くそ……、刻龍を」
痛みはやがて治まったが、レオンは立ち上がれないほど疲弊している。意識も朦朧としていて、考えもまとまらない。
「くッ――、全てを殺す」
自分が口にした言葉にレオンは驚いた。まるで、自分の意思とは関係なく発せられたような感じだった。
「なんだ?」
レオンは自分の異変に気づく。だが、それはもう手遅れだった。レオンの瞳が赤く光り輝き、痛みと気怠さがなくなった。代わりに記憶が混濁する。
「誰だ?」
レオンは立ち上がると、王都の方へ向かって歩き出した。




