033. ノア
◆ レオンは、レイナのいる部屋に戻ってくると、レイナは嬉しそうな顔で迎えてくれた。
「レオン、おかえりなさい」
「ただいま戻りました」
「あの、レオンにお願いがあるのですが、いいですか?」
「なんですか?」
「王都に一緒に行って欲しいんです」
「もちろんいいですよ」
「ありがとうございます」
レイナは、嬉しそうに微笑んでいる。
「それでは、出発しましょうか」
「はい」
レオンは一旦部屋に戻り、手入れをしていた剣を腰に下げた。そして、レイナと一緒に王宮を後にした。
◆ レイナと共に王都に向かう道中、レイナが話しかけてくる。
「レオンは、どうして冒険者になられたんですか?」
「それは……」
レオンは言葉に詰まった。今まで誰にも話したことのない過去だ。
「ステラ家は魔法を次の代へ伝承するという役目がありまして……、俺は風魔法の後継者として、育てられました」
「それで、風魔法を……」
「はい、俺が十歳の時、魔物の大群に襲われたんです。その時、父は俺を守る為に命を落としました。結論から言えば、風魔法使いは従者が死んだ際に、魔力を引き継ぐんです。風魔法の一族はそうやって魔力の継承をし、力を付けてきました」
「そう……、ですか」
「それからです。父の役目であった冒険者の仕事を引き受け、妹と生きていくことを決意したのは」
「そう……、だったんですね」
「でも、今はレイナがいる。俺はレイナを死なせない」
「レオン……」
レイナの目には涙が溜まっていた。本当に涙脆い王女様だとレオンは思った。
「レイナ、泣かないで。レイナにはいつも笑っていて欲しい」
「はいっ」
レイナは袖口で目元を拭うと、満面の笑みを見せた。
「もうすぐ王都ですね」
「わぁ!凄く賑やかですね」
王都は相変わらず人で溢れていた。
「レイナ、俺から離れないで」
「はい」
レイナが返事をした瞬間――、どこからか視線を感じた。
「誰かに見られている気がします」
二人は周りを見渡したが、怪しい人影は見当たらなかった。
「気のせいでしょうかね……」
「とりあえず、街を歩こう」
「はい」
レオンたちは街を歩き出した。すると、またしても何者かの気配を感じる。
「まただ……」
「私も何かを感じます……」
「レイナ、少しだけここで待っていて」
「分かりました」
レオンはレイナを残し、人気のない路地裏に移動した。
「誰だ!」
レオンは、振り返ると、そこにはフードを被った人物が立っていた。
「エアリスの仲間か?」
「……」
その人物は答えなかった。
「もう一度聞く、お前はエアリスの仲間か?」
「……」
「答えないか……、なら力ずくで聞くまで!」
レオンは、腰につけている剣を抜き放つと、勢いよく斬りかかった。しかし、その人物の姿は一瞬で消え、レオンの攻撃は空振りに終わった。
「消えた?」
レオンは警戒しながら、辺りを見渡す。
「君は王女殿下の護衛かい?」
「!?」
レオンは後ろを振り返ると、目の前に短刀が迫ってきていた。
「くっ」
レオンは咄嵯に剣で防いだが、その衝撃に耐えられず吹き飛ばされてしまった。
「なんだ、今のスピードは……」
「君は人間なのに強いね。でも、まだ僕の足元にも及ばない」
「どういう意味だ?」
「そのままの意味さ」
「ふざけるな!」
レオンは再び攻撃を仕掛けるが、その攻撃は全てかわされ、逆に強烈なカウンターを喰らってしまう。
「ぐっ」
「どうしたんだい?そんなんじゃ、僕には勝てないよ」
「お前は一体……」
「僕の名前はノア。君たちの言葉でいうところの悪魔だよ」
「お前がエアリスを……」
「そうだよ。彼女は素晴らしいね。これからもっと多くの人を殺すだろう」
「黙れ!!」
レオンは地面を蹴り上げ、一瞬で間合いを詰めると、渾身の一撃を放った。
「無駄だよ」
しかし、ノアはその攻撃を難なく受け止めた。
「これが君の全力かい?」
レオンは、何度も斬撃を放つが全て受け止められてしまう。そして、レオンは風魔法で、竜巻を作り出すと、ノアに向かって放った。
「へぇ〜。面白い魔法を使うね」
ノアは、余裕そうな表情で、レオンが作り出した竜巻を観察している。
「まあ、こんなものかな」
ノアは片手を前に突き出すと、魔法陣が現れそこから巨大な火柱が飛び出した。そして、レオンが生み出した竜巻は簡単にかき消されてしまった。
「馬鹿な……」
レオンは自分の魔法をあっさりと打ち破られ動揺していた。
(落ち着け……。相手はまだ本気を出していない)
レオンは冷静に状況を分析しながら、次の一手を考えていた。
「今度はこっちから行くよ」
ノアがそう言うと、レオンの視界から姿が消える。
「なに!?」
レオンが驚いている隙に、ノアは背後に現れ、レオンの首に向かって短剣を突き出していた。反射的に短剣から避けたが白いローブが切り裂かれ、レオンの肩からは血が滲んでいた。
「ハハハ、君の魔法面白いと思ってたけど君自身の方が興味深いね。闇に堕ちたら、どんな風に強くなるのか楽しみだよ」
そう言って笑うと、再び姿を消した。
レオンは目を閉じて神経を研ぎ澄ませると、微かに足音が聞こえてきた。
「そこだ!」
レオンは、音を頼りにノアの位置を捉えると、風魔法を使ってノアを吹き飛ばした。
「おっと!やるね〜」
「まだまだ!」
レオンは、ノアの居場所を捉えると、魔法を駆使して追撃を仕掛けた。
「いいねー、やっぱり戦いは面白い」
ノアは楽しそうに笑いながら、レオンの攻撃をかわしていく。
「そろそろ飽きてきたから終わらせようか」
ノアは、今までとは比べ物にならない程の速さで動き回り、レオンを翻弄する。
「くっ」
レオンは、なんとか食らいついていたが、徐々に押されていく。
「これで終わりだ」
ノアは、レオンの背後に現れ短剣を振り下ろした。レオンは、振り下ろされる短剣を見ると、瞬時に身体強化をして横に飛んだ。予想外だったのか、ノアが驚いたように声を出す。
「よくかわしたね」
「お前は速いが、目で追えないほどじゃない」
「そうみたいだね。だけど、これならどうかな?」
そう言うと、再び姿を消す。レオンは気配を感じ取ろうとするが、その気配すら感じ取れなかった。
「ここだよ」
レオンの耳元で声が聞こえると同時に、首筋に冷たい感触を感じた。
「チェックメイトだ」
レオンは必死に抵抗するが、全く身動きが取れなかった。
「無駄だよ。この状態で動ける人間は今までいないよ」
「くっ……」
(やるしかないか)
レオンは覚悟を決めると、全身に魔力を流し込んだ。すると、ノアの腕に鋭い痛みが走った。
「ぐっ……」
ノアは腕を押さえると、レオンの拘束を解いた。
「闇よ。我が身を護り、敵を滅ぼせ」
レオンは詠唱を唱えると、黒いオーラのようなものに包まれた。
「それが君の切り札か……」
ノアは再び姿を消し、レオンに攻撃を仕掛ける。しかし、レオンはそれを難なく防ぐ。
「なるほど……。確かに厄介な力だね」
ノアは一旦距離を取ると、再びレオンに襲いかかった。
「だが、それだけでは僕には勝てない」
ノアは再びレオンに攻撃を仕掛けるが、先程と同じように防がれてしまう。
「君は強い。でも、まだ君自身が本当の強さを知らない」
レオンは、無言のまま剣を構えていた。
「今日はここまでだね」
ノアはそう言い残して姿を消した。レオンは周りを見渡したが、その姿を見つけることは出来なかった。裏路地から戻ると心配そうにレイナが駆け寄ってきた。「大丈夫ですか?」
「えぇ、なんとか……」
「肩から血が出てますよ。手当てをしますから待っていてください」
そう言うと、バッグの中から包帯を取り出した。
「いつも持ってるんですか?」
「レオンが怪我をした時の為に常備しているんですよ」
レイナはレオンのことを咎めるような表情を浮かべている。
「な、なるほど」
レオンは、傷口を消毒してもらうと、レイナに包帯を巻きつけてもらう。
「それで、何があったんですか?」
「実は……」
レオンはノアと出会った経緯を説明した。エヴァンとエアリスを魔物に変えたのは、悪魔だということも説明した。
「そんなことが……」
「はい。もし、本当だとしたら大変なことになります」
「そうですね……」
二人はその後しばらく黙っていたが、沈黙を破ったのはレイナだった。
「王宮に報告が必要ですね」
「王都に悪魔が現れたと知れたら大騒ぎになりますね……」
「私も一緒に戻ります」
「買い物はいいんですか?」
「えぇ、またレオンが付き合ってくれる
でしょうし」
「そうですね。買い物はまたの機会にってことで」
「はい」




