031. 襲撃
◆ 二人は、急いで現場に向かうとそこには数人の生徒が倒れていた。その生徒の奥には数体の魔物が佇んでいる。
「あれは、グリフォンか……」
上級の魔物であるグリフォンを取り巻くように下級の魔物が威嚇している。
「学園内は魔物除けの結界が張られてるはずなんですけど」
レオンはすぐに『ナイトメア』のことが頭に思い浮かんだ。もしかしたら、この魔物はあくまでも囮で攻撃の機会を窺ってる可能性もある。
「レイナ、俺の後ろに隠れて!」
「はい、分かりました」
レオンは、剣を抜き構えると、魔物達もこちらの存在に気づいたようで、一斉に襲いかかってくる。襲ってきた一体の首を一閃で跳ね飛ばすと、すかさずもう一体を袈裟斬りで切り伏せる。
「レイナ、大丈夫か?」
「はい、私は平気です」
レイナは、怪我一つ負っていなかった。
「よし、あとはコイツだけだ」
レオンは、最後の一体であるグリフォンに剣を向ける。すると、グリフォンは叫び声をあげて、突撃してくる。
「レイナ、危ないから離れてろ」
「はい」
レイナは、素直に従う。レオンは、グリフォンの攻撃を避けると、すれ違いざまに胴を切り裂く。胴を切り裂いただけでは、絶命させることはできず、その場で暴れ回っている。
「風よ、我が敵を穿て」
風の刃が命中すると同時に、ようやく動きを止める。
「影よ、拘束せよ」
影でできた鎖が、絶命したグリフォンを縛り付ける。
「上位種の魔物でもこの程度か……。あぁ、結界の効果を受けて弱体化したのか」
レオンはレイナを庇うようにして、その場を離れる。影を纏い、闇の中から『ナイトメア』が姿を現した。
「やはり、お前か!!」
『ナイトメア』は、ニヤリと口元に笑みを浮かべている。影の鎖がグリフォンを一瞬で捻り潰し、粉々になった肉片が辺りに飛び散る。
「弱いものは狩られる。これは運命なんだよ。だから、俺が弱者を殺すことは何も間違っていない」
「お前のような奴がいるから……」
レオンは、怒りで体が震えている。
「レオン、落ち着いてください」
レイナの言葉を聞いて、冷静になる。ここはレイナを連れて逃げるべきだろうか。だが、『ナイトメア』は確実に追ってくるだろう。そうなればレイナを巻き込んでしまう。
「おい、どうした?かかって来ないならこっちから行くぞ」
『ナイトメア』が指を鳴らすと、無数の魔物が現れる。
「王女殿下もろとも死んでもらうぜ」
魔物が襲って来ようとした瞬間、光の速さで魔物が吹き飛んだ。前を見ると、剣を持ったクリスティーナが立っていた。
「レオン、無事か!?」
「あぁ、助かった」
地上に佇む『ナイトメア』は面白く無さそうに舌打ちをする。
「チッ、『閃光』かよ」
「随分とご無沙汰でしたね」
「もう、お前とは何でもねぇよ。俺は誰にも負けない力を手に入れたんだからな」
「そんなものが本当にあると思っているんですか?」
「お前こそ、人間の分際でどうにかなると思ってんのか?」
『ナイトメア』は、地面を踏み砕くと、地面に亀裂が入り、影が地表を這うように広がっていく。クリスティーナが地面に剣を刺し、詠唱を始める。
「光よ、浄化しろ」
光が溢れ出すと、地割れが収まる。
「相変わらずだな」
「貴方も変わらないですね」
『ナイトメア』は笑いながら、黒い球体を生み出すと、そこから大量の魔物が這い出てくる。
「行け、雑魚ども!」
魔物の大群が二人に向かって襲いかかる。クリスティーナは剣を鞘に戻し、もう一度剣を抜いた。光の輝きが剣に集結し、それを一気に振り抜いた。
「聖斬撃」
魔物達は次々と消滅し、消滅した場所には魔石だけが残った。
「これの威力は貴方が一番よく知ってるでしょう?」
「あぁ、そうだな」
「今からでも遅くありません。私と一緒に学園に戻りましょう」
「ハッ、冗談はよせよ。誰が戻るかよ」
『ナイトメア』は、魔物を使っても無駄だと判断したのか、突撃してくる。
「聖なる十字架よ、彼の者を貫け」
十字架が『ナイトメア』の胸を貫く。十字架は輝きを放ち心臓を穿った。十字架は正確に心臓を貫いたはずなのに『ナイトメア』は笑いながら、
「まだ、終わってねぇよ」
ニヤリと笑うと、背中の羽を動かし飛び上がった。
「レオン、逃すな」
「分かっています」
レオンは空高く舞い上がり、『ナイトメア』を追いかける。
「これで終わりだ」
レオンは剣を振り下ろす。だが、振り下ろした剣は『ナイトメア』の右手によって防がれてしまう。
「雑魚は黙って寝てろ」
『ナイトメア』の蹴りがレオンの腹にめり込む。レオンは痛みに耐えながらも、空中で体勢を立て直す。クソッたれが――、レオンは頭の中で浮かんできた魔法を詠唱する。
「闇よ、我が身を守れ」
闇の盾が現れ、レオンの身体を守る。レオンは今まで使ったことのない魔法だった。それでも、口が勝手に魔法の詠唱を始める。
「闇よ、我が敵を喰らえ」
『ナイトメア』が闇に触れると、闇が凝縮されていき、闇が形を成す。それは巨大な顎となり、『ナイトメア』を飲み込んだ。そして、レオンは叫ぶ。
「クリスティーナ!!」
「任せてください」
クリスティーナは、剣を抜くと一閃する。すると、光が闇によって切り裂かれ、その先に『ナイトメア』がいた。
「クソがっ!!」
『ナイトメア』は、短く呻きながら落下していく。レオンはその隙を見逃さず、剣を突き刺した。
「がぁあああ!!!」
『ナイトメア』は、断末魔を上げ、動かなくなった。
「勝った……、のか」
戦いが終わると、レイナは急いで怪我人の治療を始める。
「ありがとうございます」
「いえ、当然のことをしたまでです」
レオンは『ナイトメア』の死体を見つめるクリスティーナに近づき、話しかけた。
「知り合いなんですか?」
「あぁ、騎士団の同期だったんだ。名をエヴァンと言う」
「どうしてこんなことを……」
「分からない。ただ、この男は途中で狂った。それしか言えない」
「そうですか……」
クリスティーナは、レオンに頭を下げた。
「巻き込んでしまって申し訳なかった」
「いえ、むしろ助けてもらって感謝しています」
「レイナ様もお怪我はありませんでしたでしょうか?」
「はい、私は大丈夫ですよ」
レイナの顔を見ると、少し悲しそうな顔をしていた。
「レイナ、どうかしたか?」
「あの人は……」
レイナは『ナイトメア』の死体から落ちたネックレスを拾い上げた。
「これは王国騎士団の証ですね」
レイナが拾ってくれたペンダントをクリスティーナが手に取った。クリスティーナは、複雑な表情を浮かべている。
「馬鹿が……、お前は何をやってんだ」
クリスティーナは、静かに涙を流していた。




