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風魔法使いの兄妹は、王女殿下に恋をする  作者: ともP
第四章:レオン・ステラ
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029. ナイトメア

◆ 翌朝、レオンは朝食を食べ終えるとレイナと一緒に教室に向かった。レイナの隣に一人の男子生徒が忍び寄ってくる。


「おはようございます。レイナ様」


「おはようございます。ラインハルト」


彼は、アメリアの兄、ラインハルト・マルドネスだそうだ。金色の髪に整った顔立ちをしている。レイナに対する態度を見る限り、悪人ではないだろうが。


レオンはあまりこの男は直感で信用できないと思った。なぜなら、この男が纏う雰囲気がどこか不気味に感じたからだ。


(こいつ、何考えてんだ?)


「それと、貴方は」


「俺?」


「ええ、レイナ様とご一緒にいられるということは、それなりに腕が立つということでしょう。いつか、お手合わせ願いたいですね」


「機会があればな」


「楽しみにしてますよ」


「それじゃあな」


レオンは席に座ると、隣に座っている初日にアランと名乗った男子生徒から話しかけられる。


「ねぇ、君って本当に何者なの?王女殿下と毎日登校してきてるし、ラインハルト様と臆することなく話していたよね」


「別に普通だと思うぞ」


貴族からすれば異様な光景に見えるのだろうが、あいにく王都の外れで暮らしていた俺は、尊敬とか畏怖といった感情には無頓着なのである。


「あのね、君は気づいてないと思うけど、レイナ様に話しかけることなんてこの一年間ほとんど誰もできなかったんだよ?」


「そうなのか?」


「うん、そうだよ」


「まぁ、世間知らずの馬鹿だとでも思ってくれればいいさ」


「ははっ、面白いね」


アランは、人懐っこい笑顔を浮かべて笑っている。見た目の奇抜さの割には子供っぽい奴なのかもしれない。


それから、担任の教師がやってきてホームルームが始まる。


その日は、特に変わったこともなく授業を終えることができた。


「レオン、帰りましょう」


「はい」


レオンは鞄を持って立ち上がると、レイナと共に教室を出る。すると、後ろから声をかけられた。


「レイナ様、少しよろしいでしょうか」


「はい、なんですか?」


「いえ、大したことではないのですが、最近王都で発生している連続殺人事件についてです」


「連続殺人事件?」


「はい、なんでも死体に奇妙な傷跡があるそうで、王国騎士団の団員が調査しているそうです」


レイナは、驚いたような表情で聞いていた。きっと、何も聞かされてなかったのだろう。


「はい、ですのでレイナ様もお気をつけください」


「わかりました」


レイナは、そのまま校舎を後にする。そして、レイナは悲しげな声音で呟いた。


「酷い事件ですね……」


「そうですね」


「レオンは大丈夫ですよね」


「当たり前ですよ」


「なら良かったです」


レイナの顔からは不安そうな様子が消えることはなかった。



◆ レオンは久しぶりに夜中に嫌な気配を感じ、布団から飛び起きた。


(この感覚……、久しぶりに味わったな)


レオンは咄嗟に着替えを済ませて屋敷をこっそりと出た。微弱な魔力はレオンたちが通っている学園の方からずっと嫌な気配と共に流れている。


レオンは茂みの奥の草むらに向かって喋りかける。


「おい、そこにいるのはわかってるぞ」


レオンは、虚空に向かって言葉を投げかける。すると、目の前の空間が歪んでいき、そこから一人の男が現れる。


「ほぉ〜、よくわかったなぁ」


「お前が、今回の事件の犯人か?」


「あぁ、そうだ。俺の名は『ナイトメア』。全てを殺すものだ!」


「悪いが、殺しは終わりだ」


レオンは剣を構えると、『ナイトメア』と名乗る男の首目掛けて剣を薙ぐ。


しかし、そこには男の身体はなく、代わりに黒い影がレオンに襲いかかる。レオンは咄嵯にバックステップを踏み回避するが、頬に痛みを感じる。


「へぇ〜」


「ちっ」


レオンは、頬に流れる血を拭いながら、距離を取る。


(こいつの能力は、おそらく……)


「お前、影を操ってるのか?」


「ご名答!でも、それだけじゃないぜ」


次の瞬間、地面に落ちていた石ころが宙に浮かび上がり、レオンの方へと向かってくる。

レオンは飛んできた石を弾くと、再び間合いを詰める。


「俺は悪魔に魂を売った。魔物だろうが、影だろうが自由に操ることができるんだよな」


「なるほどな」


(厄介だな。だが、所詮は影だ。本体を倒せばいいだけだ)


レオンは、『ナイトメア』の懐に入ると、心臓を一突きにする。


「無駄だ」


『ナイトメア』の胸元から黒い触手が伸び、レオンの腕に絡みつく。


「俺は、死を恐れている。だから、不死身になれるように悪魔の力を手に入れたんだ」


「そんなことのために、罪もない人々を殺したっていうのか?」


「あぁ、その通りだ。俺のこの力は素晴らしい。この力で俺はこの世界から全ての人間を葬りさってやる」


「ふざけんな!!」


レオンは、腕に巻きついた触手を引きちぎると、今度はこちらから攻撃を仕掛ける。


「おらぁあああ!!!」


レオンは、渾身の一撃を放つが、それは簡単に受け止められてしまう。


「なんだ?こんなものなのか」


「なにっ!?」


「じゃあな」


『ナイトメア』は、レオンの腹部に拳を叩きつける。レオンは吹き飛ばされると壁に激突した。


「がはっ」


「もう終わりかよ。つまんねぇな」


「まだ終わってねぇよ」


レオンはゆっくりと立ち上がると、口元の血を袖で拭う。


「諦めないのか?」


「当然だ」


「そうか、なら次は本気でいくぞ」


『ナイトメア』の影がどんどん大きくなっていく。そして、ついには人の背丈を超えるまで大きくなると、地面を這うようにしてレオンに迫ってくる。


「さぁ、喰らい尽くせ」


『ナイトメア』の叫びとともに、影はまるで生きているかのように動き始める。


「舐めんなよ」


レオンは、剣を振るい次々と襲い来る影を切り伏せていく。『ナイトメア』は当てが外れたのか、驚いたような表情を浮かべた。


「おいおい、まさか、ここまで強いとはな……」


「これで最後だ」


レオンは、一瞬にして間合いを詰めると、その勢いのまま剣を振り下ろす。


「なっ」


レオンの剣が『ナイトメア』の首を切り裂こうとした時だった。突然、横から衝撃を受けレオンは大きく吹き飛ぶ。


「ぐはっ」


レオンは、なんとか体勢を立て直すと、視線を前に向ける。すると、そこには一人の少女の姿があった。


「手をだすんじゃねぇ、『エアリス』!!」


「死にそうだったから助けただけ」


「うるさい、お前は黙ってろ」


「はいはい」


「はぁ、興醒めだ。また、今度ゆっくり殺してやるよ」


『ナイトメア』は、影の塊になるとそのまま逃げ去ってしまう。


「待て!」


「追わない方がいい」


「なんだって?」


「今の君じゃ、彼には勝てない。それに、彼を殺すことはできない」


「どういう意味だ?」


「いずれわかる。今は、傷を癒すことを優先したほうがいい」


エアリスと呼ばれた少女に敵意は感じられなかった。レオンのボロボロの体を見てもなお、襲ってくるような気配は感じられない。


「お前らは何者なんだ」


「私は、そうね。彼と同じ悪魔に魂を売った女かしら」


「悪魔だと……」


「まあ、昔の人は魔物堕ちって言ってたかな、どうでもいいけど」


エアリスはそれだけ言うと、闇に溶け込むように消えてしまった。

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