026. 任命式の一波乱
◆ 任命式の日が訪れた。任命式は城の大広間で行われることになっている。そして、国王陛下から直接パラディンの称号を任命される。
「これより、パラディン任命式を始める!!」
国王であるギルベルト・アルフォードが声高らかに宣言すると、歓声が上がった。パラディンは王国最強の称号であり、騎士団長と同等の地位を持つことから、国王の権力の象徴でもある。
「それでは、レオン・ステラをパラディンに任命する」
国王の宣言と共に、レオンは前に出る。国王の前に膝まずき、剣を鞘から抜き、頭上に掲げた。
「汝レオン・ステラを王国最強のパラディンとして認める!!王国に永遠の繁栄を!!!」
「王国に永久の栄光を」
レオンは誓いの言葉を口にした。その後、レオンは元の場所へと戻った。
レオンはほっと胸を撫で下ろす。これで終わりかと思っていたその時、外野から予想外の出来事が起こった。
「認められない。この者がパラディンなど認められるわけがない!」
そう叫んだのは、王国騎士団団長代理のバルバロッサだった。国王はバルバロッサの言葉を遮らずに次の言葉を待つ。
「この者は、所詮は冒険者の成り上がりに過ぎない。パラディンは王国騎士から選ばれるのが妥当です」
「だが、すでに任命は終わっている。お前が何を言おうと、任命は覆らん」
「しかし……、くっ、決闘だ。私、バルバロッサはレオン・ステラに決闘を申し込む!!」
バルバロッサはレオンに指を差し、決闘を宣言する。その言葉に会場は騒然となった。決闘という言葉に賛同するものもいれば、否定的な言葉もある。
雑踏の中――、切り裂くような鋭い口調でバルバロッサは宣言する。
「貴様のような男が、レイナ様のそばにいることは許せない。この場で叩き潰してやる」
「……分かった。その勝負受けよう」
レオンは静かに了承した。
「ふんっ、最初から素直に認めていればいいものを」
バルバロッサは鼻で笑うと、レオンを睨みつけた。レオンはその視線を平然と受け止める。騎士団はプライドだけ高い貴族の集まりだとレオンは思っていた。
「それでは、今より二人の決闘を執り行う。場所は訓練場にて行う。二人とも武器を取れ」
国王は呆れたように二人に指示を出した。
「レオン、気をつけてくださいね」
任命式を見守っていたレイナは心配そうな表情でそう言った。
「必ず勝って戻ってきますよ」
レオンはレイナに微笑むと、訓練場へと向かった。
◆ 訓練場に着くと、そこには既に大勢の観客が集まっていた。
「レオン・ステラ、後悔するなよ」
「フンッ、それはこっちのセリフだ」
二人は軽口を叩き合うと、それぞれの愛剣を手に取った。
「両者共に準備は整ったようだな。それでは、これより、レオン・ステラ対バルバロッサ・レウスの決闘を行う。ルールは相手を戦闘不能にさせるか、降参させること。相手が気絶した場合、または、戦えなくなった場合、勝敗を決めるものとする。それでは、始め!!」
国王の合図と同時に両者は動き出した。
「死ねぇぇ!!」
先に仕掛けてきたのはバルバロッサの方だった。上段から剣を振り下ろしてくる。その攻撃に対し、レオンは冷静に対処した。振り下ろされた攻撃を最小限の動きで回避し、そのまま懐に入り込み、腹に向かって拳を突き出す。
「ぐはぁっ」
バルバロッサは勢いよく吹き飛ばされる。そして、壁に激突し地面に倒れ込んだ。
「どうした?もう終わりか?」
怒りの形相を浮かべながら立ち上がると、再び斬りかかってくる。王国騎士なんてものは、名ばかりのもので、シンの方がまだ動けると思った。
「調子に乗るんじゃないぞ!クソガキが!」
レオンはバルバロッサの攻撃を避け続けた。そして、バルバロッサは遂に魔法を使ってくる。これは火属性中級魔法のファイアボールか……。
「これで、くたばりやがれ!」
「くだらないな」
レオンは迫り来る炎の球に対して、水属性初級魔法のアクアボールを放つ。二つの魔法がぶつかり合い、相殺される。
「そんな……、馬鹿なこと……」
バルバロッサが驚きの声を上げる。その隙を見逃さずに、バルバロッサの目の前まで移動し、レオンは剣を構える。
「風よ、我が刃となれ」
風の刃がバルバロッサを襲う。咄嵯に防御の姿勢を取ったが、間に合わなかった。バルバロッサの鎧に一筋の傷をつけた。
「くそっ、ふざけんなよ。なんでお前みたいな奴がこんな」
レオンは余裕の笑みをこぼす。
そして、バルバロッサは歯ぎしりをしながらレオンを見つめた。
中級魔法までは詠唱が必要のない魔法であるが、威力はそんなに強くない。子供が遊びで使うようなレベルだ。そんなことは冒険者ならば誰でも知っている。
レオンは不敵な笑みを漏らす。
「王国騎士団はこんなもんなのか?」
バルバロッサは理解した。レオン・ステラという男は、ただの冒険者では無いと……。
「騎士団を愚弄するとはいい度胸だ。叩き潰してくれる」
バルバロッサは剣を構え、レオンに突っ込んでいく。そして、力任せに剣を振るった。レオンはそれを難なく避けると、バルバロッサの背後に回り込み、首筋に剣を当てた。
「そこまでだ!!」
国王の終了の合図と共に、決闘は終了した。決闘後、レオンの元にレイナが現れた。
「レオン、怪我はありませんか!?」
「大丈夫ですよ」
「良かったです。あなたに何かあったらと思うと、私……」
レイナは目に涙を浮かべている。
「ほら、無事ですから安心して下さい」
そんな二人を王は見守りながら、膝から崩れ落ちるバルバロッサに声をかけた。
「バルバロッサ・レウス、お前の敗けだ。潔く認めろ」
「はい……、私の敗けです」
こうして、王国最強の『パラディン』が誕生したのだった。




