025. 王宮の景色
◆ 次の日、レオンはアルフォード家へ赴き、門番に話を通した。
ちなみに、サラを説得させるのには非常に苦労した。ユリが助け舟を出してくれなかったらとんでもないことになっていたと思う。まあ、最後の別れって訳でもないしな。
レオンは応接間に通された。しばらく待っていると、扉が開き、国王であるギルベルト・アルフォードが出迎える。その後ろにはレイナの姿があった。
「パラディンの任命式は明日行わせて貰う。まず、パラディンとは、王国最強の称号であり、その権力は騎士団長以上とされている」
騎士団長といえば、王国最強の称号であるが、現在は空席である。騎士団長の座には現在は誰も座っていない。代理はいるが……。
「パラディンに任命された者は例外なく騎士団長と同等の権限が与えられる」
「つまり、騎士団長と同じ立場ということですか?」
「そういうことだ」
騎士団長の権限はかなり大きい。例えば、王国への非常事態宣言発令などがあげられる。
「それでは、屋敷を案内させよう」
「はっ、かしこまりました」
執事の男性がレオンを屋敷の中へと連れていく。アルフォード家は王族として古い歴史を持ち、昔ながらの城と広大な土地を所有している。
「姫様はとても喜んでいらっしゃいましたよ。騎士団の方とは気が合わないみたいですし」
「そうなんですか?」
「ええ、姫様は堅苦しい会話が嫌いなお方ですから」
「なるほど……」
「つきましたよ。ここがレオン様が住む部屋になっております」
「ありがとうございます」
レオンは頭を下げた。
「レイナ様の部屋は右奥の階段を上ったところにあります。挨拶にいかれたら喜ぶと思いますよ」
「分かりました」
執事は一礼すると、部屋から出て行った。部屋の中に入ると、かなりの広さだった。寝室が二つあり、そして、部屋の奥にあるバルコニーから王城の庭が一望することが出来る。
「こんな広い部屋を使っていいのか?」
正直俺には広すぎる気がする。
レオンは荷物を置き、ベッドに腰をかけた。そして、そのまま仰向けに倒れ込む。うーん、この環境に早く慣れないとな……。
そんなことを考えていると、コンッ!コンッ!と誰かがドアをノックした。
「はい、どうぞ」
レオンは上半身を起こし、返事をする。すると、ゆっくりと扉が開かれた。
「失礼します」
そこにはレイナの姿があった。
「どうされましたか?」
「いえ、その……、レオンにご挨拶をしようと思いまして」
レイナは照れる素振りを見せながら白色のワンピースを翻す。その仕草はとても愛らしく、思わずドキッとしてしまう。
「そうでしたか、わざわざありがとうございます」
「そ、それでですね……、その……、レオンにお願いしたいことがあるのですが……」
「なんでしょうか?」
「私の話し相手になってくれませんか?」
俺なんかで良ければいくらでも話を聞くのだが……、俺なんかでいいんだろうか。そう思って、言葉に詰まっていると、
「ダメでしょうか……」
悲しげな表情でそう言われてしまうと断れない。断るつもりもなかったが……。
「分かりました」
「本当ですか!?」
レイナの表情がパァっと明るくなった。
「はい、俺なんかでよければ」
「よかった……」
レイナの安堵の息が漏れる。その表情は嬉しさに満ちていた。
「私、同世代の人とお話をするのは久しぶりなのでとても嬉しいです」
「そういえば、王都の学園に通われていませんでした?」
「はい、通っていますよ。ただ、私は人見知りなところがありますから……、それに、皆私と話すと緊張してしまい、あまり上手くはいかないんですよね」
「そうですか……、それはさぞかし大変でしょうね」
王族の付き合いっていうのは面倒なものだなとつくづく思う。
「まあ、仕方ありませんよね。だから、レオンとこうしてお話ができるのは凄く楽しいですよ!」
「それは良かったです」
俺は少し安心した。レイナ王女殿下にとって、俺という存在が少しでも心の拠り所になればいいと思ったからだ。
それからしばらくの間、俺達は他愛のないことを話していた。村での生活や俺が冒険者になってからの出来事を話したりした。レイナも、楽しそうに相槌を打ちながら聞いてくれた。
「レオン、今日は本当にありがとうございました。また、時間がある時に一緒にお話してくれませんか?」
「もちろんです」
「ふふっ、ありがとうございます。それでは、また会いましょう」
「はい、また」
レイナが部屋から出て行くと、再び静寂が訪れる。その空間が、俺はどこか寂しく感じた。
「さて、これからどうするか」
とりあえず、明日の任命式に向けて色々と準備をしておく必要があるだろう。




