024. 護衛の任命
◆ 王城内にある会議室では、緊急の会議が行われていた。
「それで、レイナ様は無事なのか?」
「はい、命に別状はありません。今は医務室で休まれています」
「そうか……。しかし、まさか王女殿下に危害を加える輩がいるとはな」
「うむ……」
国王は、顎に手を当てて考え込んだ。
「陛下、どうされましたか?」
「いや、やはりレイナには騎士団の護衛をつけるべきだとな」
ただ、レイナは騎士団の護衛をつけることは頑なに拒否している。
護衛をつければ、どうしても行動に制限がかかる。それをレイナは嫌がっているし、ただ今回の件を考えると、護衛は必要だと言わざるを得ない。
「さて、どうしたものか……」
「失礼します」
扉が開き、レオンが入ってきた。冒険者界隈では有名な存在だそうだ。なんでも、誰とも組まずにAランクになった異端の風魔法使いらしい。
「陛下、どうされましたか?」
Aランクよりも現状高いランクは存在しない。レオンは冒険者の間でも最強の冒険者と名高い。そんな人物が、このタイミングで王城に来ている。
「レオン殿。実はだな……」
国王はレオンに事の経緯を説明した。
「なるほど」
「レオン殿をパラディンに推薦したいと考えているのだが、いかがだろうか?」
パラディンとは、王国最強の称号であり、その実力は騎士団長と以上とされている。また、任命権は国にあるため、国王の許可があれば、強制的に任命することが出来る。
「少し考えさせていただきたい」
「ふむ、理由を聞いてもいいかね?」
「はい、私は現在王都の外れにある【ウーバ】という村に仲間二人と妹で住んでおります。ですので、彼らの承諾なしには決められません」
「そういうことなら仕方がない。だが、もしレオン殿が了承してくれるならば、正式に頼もうと思っている」
「承知しました」
◆ レオンは、医務室にいるレイナの元へ向かった。レイナはベッドの上で上半身だけ起き上がっており、窓の外を眺めていた。
「王女殿下、体調はどうですか?」
「えっ?あっ、レオンさん。特に問題はございませんよ」
「そうでしたか。それは良かった」
「あ、あの……、助けていただいたようでありがとうございます」
レイナは深々と頭を下げた。
「いえいえ、当然のことをしたまでですよ。それよりも、なぜお一人でこのようなあのような場所に?」
「えっと、その……、最近王都で話題の服屋が気になっていまして、こっそり抜け出してきたんです」
どこか恥ずかしそうにしていた。レイナは大の方向音痴で、王都の中でも何度も迷子になっているらしい。
「なるほど、それであの路地にいたということですね」
「はい、そうなりますね」
「しかし、あまり危ないことはしない方がいいと思います」
「す、すみませんでした」
レイナは申し訳なさそうに誤ってくる。そんなに素直に謝られるとこちらが悪いことをしているみたいだ。
「あっ、そういえば自己紹介がまだでしたね。レオン・ステラと言います」
「私はレイナ・アルフォードと申します。こちらこそよろしくお願いします」
二人は互いに挨拶を済ませた。
「レイナ様は、この後どうされるのでしょうか?」
「そうですね、今日は大人しく城へ戻ります。それと私のことは呼び捨てにしてください」
「分かりました。では、俺のこともレオンと呼んでください」
「はい、わかりました。レオン」
レイナは微笑んだ。すると、ノック音が聞こえ、一人の女性が部屋に入ってきた。
「レイナ様、お迎えに上がりました」
「分かったわ。それでは、レオン。また会いましょう」
レイナは女性と一緒に部屋を出て行った。その笑顔はとても可愛らしく、思わずドキッとしてしまった。
「また、会いましょうか……」
◆ レオンはレイナの言葉の意味を考えながら、帰路についた。
「レオン、お帰りなさい。サラが滅茶苦茶心配してたよ?」
家に帰ると同居人のユリが紅茶を飲みながら出迎えてくれた。
「そうか、悪いことをしたな」
「うん、早く顔を見せてあげて」
「ああ」
リビングへ向かうと、ソファで横になりながら、うとうとしている少女がいた。
「サラ、心配かけたな」
「……んっ、お帰りなさい!」
サラはガバッと起き上がった。そして、勢いよく抱きついてくる。
「おう、レオン帰ってきたか」
シンが奥の部屋から出てきた。
「あぁ、シンに少し話がある」
「なんだ?」
レオンはシンにレイナ王女殿下を助けた経緯を説明した。
「なるほどなぁ……、パラディンになるってことは王族と同等の権力を持つってことか」
「そうだな。ただ、懸念事項がある」
「サラのことか?」
「あぁ、俺はこの村から離れることは避けたいと思っている」
「サラもそうだけど、お前も大概過保護だよな」
「まぁ、否定はできないな」
レオンは苦笑いを浮かべる。その様子を見たシンは呆れた表情を浮かべながら、やれやれと呟いた。
「どうせ、心の内ではもう既に決めてるんだろ?」
「まあな、シン。サラを頼んだぞ?」
「兄貴に似てサラは冒険者適正は異常に高いしな、大丈夫だ」
「いや、あんまり俺と同じようにはなって欲しくはないがな」
レオンは苦笑いを浮かべた。シンは「それは無理じゃねぇか?」と言いながら笑った。