023. 冒険者と第一王女
◆ 魔物は森や洞窟などを好んで生活している。その理由は単純で、人の手があまり入っていない場所の方が餌が豊富にあり、また、そう言った場所は魔物の縄張り争いに発展しやすい。
「グルルル……」
レオンは剣を抜き、凶暴化した魔物と相対していた。この魔物は、群れからはぐれたのだろうか、他の魔物とは種類が違う。
「グオォ!」
「はぁっ!」
魔物は爪を振り下ろしたが、それを難なく受け止めた。
「グギャッ!」
魔物はもう片方の腕で攻撃を仕掛けようとしたが、すでに遅かった。
「風よ、我が敵を撃て!」
風の刃が魔物を切り刻んだ。その威力は高く、魔物は跡形もなく消滅した。
「ふぅ……」
一息つくと、額から一筋の汗が頬を伝って落ちた。
「しかし、ここ最近魔物が増えてきた気がするな」
レオンは、自分の足元に視線を落とした。そこには、多くの魔物の死体が転がっていた。
「これだけ倒しても減らないとなると、別の場所から流れてきている可能性もあるな」
レオンは、一度城に戻ることに決め、魔物の血肉が付着した身体を水属性の魔法で綺麗にした後、王都へ帰還した。
◆ 王都はいつものように露店が並び、人々の笑顔が溢れている。
「おっ、レオンの兄ちゃん!寄っていかないかい?」
「あー、悪い。急いでいるんだ」
「そうか、それは残念だ。じゃあ、これ持っていきな」
「いいのか?」
「ああ、いつも王都を守ってくれてる礼だよ。受け取ってくれ」
「ありがとな」
「おう、気をつけて行きなよ」
露店のおっちゃんは、俺に向かって手を振った。俺は軽く会釈をしてその場を離れた。
「ん?あれは……?」
俺は、王都の大通りから外れた路地の方で人だかりが出来ていることにレオンは気付いた。どうやら、裏路地で何か事件があったようだ。
「ちょっとすみません」
俺は、近くにいた人に声を掛けた。
「どうされました?」
「いえ、ローブを着た人間が刃物を持って暴れてて騎士団待ちなんだ」
「えっと、今の状況を教えてもらえますか?」
「はい、あの男が突然ナイフを取り出して、女性を人質に取り、要求をしています。なんでも、金を出せとか言っていますね」
「なるほど、分かりました。ありがとうございます」
男は、フードを被っていて顔が見えないが、声からしてまだ若い。女性も同様にフードを被らされていて表情も顔も分からない。
レオンは剣を抜き、いつでも動けるように構えながら、男に近付いていった。
男はこちらの気配を察知したのか、ナイフで切り付けようとしてくるが、レオンは容易く避け、男の腹に蹴りを入れた。
「ぐあっ!?」
「大人しくしろ」
「貴様、何者だ!!」
「名乗る義務はない」
「ふざけるな!!おい、お前たちこいつを殺せ!」
男が叫ぶと、建物の影に隠れていた魔たちが次々と出てきた。
「グルルゥ」
「ガウッ」
「シャアァ」
犬型の魔物と狼の魔物が数体現れた。
「魔物使いとは悪趣味だな」
レオンは、魔物の攻撃をいなしながら一匹ずつ確実に仕留めていった。
「これで最後だ!」
最後の一体を倒すと、残りの魔物たちは逃げ出そうとしたが、王都内部へ逃すわけにはいかない。
「風よ、我が敵を撃て!」
風の刃が魔物たちを切り裂いた。フードの男にも同じ魔法を詠唱する。
「グアアアッ!!!」
風の刃は、フードの男の頬を擦り、風が大きく靡いた。
「ひっ、ひぃぃい!!!」
フードの男は、恐怖に怯え、尻餅をついたまま後退りした。そして、勢いよく立ち上がると一目散に王都の出口へと逃げていってしまった。
「大丈夫ですか?」
「は、はい……」
風でフードが捲れて、金髪の髪がフワリと揺れた。王家特有の金色の髪色。間違いない、彼女は王国の第一王女、レイナ・アルフォード王女殿下だった。
「どうしてこんなところに……」
「そ、その……、実は……」
レイナはどこか気まずそうに俯いていた。事情を聞くと王都へお忍びで遊びに来て道に迷った挙句、何者かに捕まり人質になってしまったという。
「とりあえず、城に戻りましょう」
「は、はい……」
レオンは、レイナを連れて王城へ戻ることにした。