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風魔法使いの兄妹は、王女殿下に恋をする  作者: ともP
第三章:魔物堕ち
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022. 地下の禁書庫

◆ ティナは、エドワードの後を追っていたが見失ってしまった。


(どこにいるんだろう?)


とりあえず校舎内を探索することにした。ティナが校舎内に入ると、エドワードは図書館の隅に身体を隠すようにして座っているのを見つけた。エドワードは、ティナの存在に気付き、驚いた表情を見せた。


「ど、どうしてここに?」


「エドワード、貴方に聞きたいことが山ほどあるの!」


エドワードは、ティナの目を見て察したのか、何も言わず黙って立ち上がった。


「ザックのこと貴方はそれでいいと思ってるわけ?」


「……仕方ないさ、俺だってあいつと同じ立場なら同じことをしてたかもしれない。それに、言ったら殺される」


「だから、諦めるっていうの?」


「じゃあどうしろっていうんだよ!」


エドワードは、声を荒らげながら言った。ティナは真っ直ぐエドワードの方を見た。彼らが学園内で何をしていたのかは知りもしない。


「……エドワード、ザックを助ける方法はただ一つよ。正直に全てを話せばいいの」


「そんなことできるわけがない!俺は捕まりたくない」


「そう、それが本音ね。エドワード、貴方は逃げてるだけよ。自分の気持ちからも、現実からも。でも、それはとても辛いことでしょ?」


「うるさいっ!!お前には関係ないだろ!」


ティナはエドワードの右頬を叩いた。パチンと乾いた音が響く。


「私は貴方の過去を知らない。どんな人生を歩んできたかも知らない。それでも、今のあなたは間違ってると思うの。今のままだと、きっと後悔するわ。もし、私がザックの立場だったとしたら……」


ティナは、少し言葉を詰まらせた。


「私には、分からないわ。そんなくだらない見栄のために罪を重ねて、人生を台無しにして友人を見殺しにするくらいなら、死んだ方がマシよ」


ティナの言葉を聞いたエドワードは歯を食い縛った。そして、拳を強く握り締めた。


「……分かったよ。全部話す」


エドワードは、重い口を開いた。


「俺は、小さい頃から親父の言いなりになってた。貴族として、次期当主として厳しく育てられた。周りからは期待されてたけど、プレッシャーに押し潰されそうな日々を送ってた。そして、10歳になった時、父さんが病気で亡くなって、その日から全てが狂い始めた」


エドワードは、ゆっくりと語り出した。ティナは、その言葉に耳を傾けた。


「まず、母さんが家を出て行った。その日を境に使用人たちからは罵倒されるようになった。毎日のように殴られたり蹴られたりした。食事もまともに貰えなくなった。最初は、反抗したりしたが無駄に終わった。そのうち、抵抗することもやめた。ただただ耐え続けた。辛かった、苦しかった、逃げ出したかった。でも、逃げたらもっと酷い目に遭う。それしか考えられなかった。そんなある日、父さんの遺品を整理していると、古い書物が出てきた。そこには、禁忌とされている魔法陣について書かれていた。それは人を魔物に変えることができる魔法陣らしい。それを使えば全てが変えられると思った。だけど、自分に使う勇気がなかったんだ」


「まさか、それをザックに?」


「いや、上級生に頼んで試してもらった。俺には魔法行使の実力がなかったからな。そして、その人は成功した。魔物になった彼は、【龍の巣】でザックに同じように魔法陣を使った」


「なんで、そんなことしたのよ」


「……結局、怖かったんだ。他人と恐怖を共有することで安心したかったんだ。最低だよな」


エドワードは自嘲するように笑みを浮かべていた。ティナは何も言えなかった。


「それから、俺はザックが魔物になって暴走したという話を聞いて、すぐに行動を起こした。上級生に魔法陣の使用を止めるよう頼んだ。でも、そいつらは聞く耳を持たなかった。だから、頼む。俺の代わりに終わらせてくれ!」


エドワードは全てを話し終えると頭を下げた。ティナは、エドワードの話を聞き、校舎裏へ走った。


(サラが危ない!)



◆ 呼吸が落ち着いたとことでサラは彼ら二人を拘束し、学園長の元へ連行することにした。


「さて、これからどうするか……」


サラは、腕を組み考え込む。


(とりあえず、この人達を連れて学園長に相談しに行きますかね)


サラは、男達を担ぎ上げようとした。すると、急に後ろから誰かに抱きつかれた。サラが振り向くと、そこにいたのは、涙目のティナだった。


「サラ〜!!」


「ど、どうしましたか?ティナ様」


ティナは、サラの胸に顔を埋め、安堵した表情を浮かべていた。


「……良かった、無事で」


「ティナ様、どうしてここに?」


「エドワードが全部喋ったの。ザックが魔物になった経緯も含めて。上級生が今回の黒幕って聞いて急いで戻ってきたんだけど」


ティナは上級生が縄で縛り上げられている現場を見て状況を察した。


「って、サラ!?頬から血が出てるじゃない!」


「大丈夫ですよこれくらい。それより、この人たちをどうにかしないと」


「まったく、サラはいつもそうだよね。自分のこともっと大切にしないとダメだよ?」


ティナは、腰のポーチから白いハンカチを取り出し、サラの頬に当てた。


「はい、これでよしっと。早く手当てもしたいところだけど」


ティナは、サラの後ろに倒れ込んで縛られている男達に視線を移した。


「とりあえず、学園長を呼びにいきましょうか」


「そうだね」



◆ 学園長は、突然現れたティナたちに驚きを隠せなかった。


「ティナ王女殿下とサラさん、どうかされましたか?」


「学園長、実はですね……」


ティナは、これまでの出来事を説明した。学園長は、神妙な面持ちで話を聞いていた。


「そうですか、学園内でそのようなことに。分かりました。ギルド本部には私が説明しましょう」


「ありがとうございます」


ティナは、エドワードの証言をそのまま説明すると学園長は青ざめながら、職員と電話でやり取りを始めた。校内裏で気絶している二人も無事に回収され、一人からは魔物の反応が検出されたため、後日取り調べを行うことになった。


「ティナ王女殿下、サラさん、お疲れのところ申し訳ありませんが、今から私の部屋に来てもらえませんでしょうか」


ティナとサラは、何事だろうと首を傾げた。二人は、そのまま学園長の部屋へ向かった。


「失礼します」


ティナたちは、部屋に入るとソファに座るよう促された。


「それで、お呼びになった理由は何でしょうか?」


ティナは、率直に疑問をぶつけた。


「先程の件ですが、目撃者が多数いまして、事態を重く見た国王陛下より、二回目の緊急集会を開くようにと通達がありました」


サラは、驚くことなく学園長の話を聞いていた。経緯はどうであれ、学園の中で魔物になる魔法陣が使われていたというのは、ただの悪ふざけでは済まないレベルの話だ。


ティナは、ゆっくりと口を開いた。


「お父様はどうするつもりなのでしょう」


「おそらく、明日中に王都にいる国民を広場に招集して、事情を説明するつもりなのではないかと」


「そう、ですか」


ティナは、複雑な気持ちだった。父である国王がどんな決断を下すのか、不安で仕方なかった。ザックの処刑は取り消されるのか、まだ分からない。


「それにしても、魔物堕ちですか……、そんなものが存在していたとは」


学園長は、顎に手を当てて何かを考えていた。魔物堕ちと言うのは、古代より人間から魔物に変貌する現象のことを指し示している。文献によると、遥か昔に存在したとされる魔物の王が人間を魔物に変え、一国を滅ぼした際に使われた王国封印指定の魔法である。


「学園長、少しよろしいですか?」


「なんでしょうか」


「図書館地下の文献を閲覧させて頂きたいのですが」


「構いませんよ」


「ありがとうございます」


サラは、どこか上の空といった感じで答えていた。


「手続きはこちらで行っておきます」


「よろしくお願い致します」


サラは、軽く頭を下げた。


「それでは、私はこの辺りで。ティナ様、サラさん、本当にご迷惑をお掛けしました。そして、学園の非常事態に対処していただきありがとうございました」


学園長は頭を下げると部屋から出ていった。これから大量の事後処理に追われることになるだろう。サラは、早速図書館に向かうことにした。



◆ 翌日、朝早くから学園内が騒がしくなっていた。今日が二度目の緊急集会が開かれるからだ。


生徒たちは、昨日と同じように学園中央にある広場に集まっていた。


ティナは、王宮に事情説明のために残ることになり、サラは昨日聴取を終えていた。エドワードの証言が正しければ実行犯はザックだが、裏で魔法の行使を行ったのは上級生となるのだから、どこに責任を課すのかは国王の裁量次第になる。


サラは、一人で学園内にいたが、広場には行かずに昨日許可を貰った図書館地下に出向いていた。地下には過去の文献などが多く残されており、ほとんど持ち出し禁止になっているため、関係者以外は入れないようになっていた。生徒の間では金書庫と呼ばれているらしい。


サラは、迷うことなく禁書庫に辿り着くと、受付の女性に事情を説明して入室の許可を貰い、中に入った。


サラは、手当たり次第棚を見ていた。そして、サラはまだ真新しく分厚い本を取り、見慣れた名前を読み上げた。


「レオン・ステラ」


すると、サラの視界が真っ白になり、意識が遠のく感覚に襲われた。

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