020. 処分の決定
◆ サラは、冒険者ギルドを出て、王都フォーリナーを歩いていた。王都は既に復旧の工事が進んでおり、昨日までの面影は全くなかった。
「やっぱり王都はすごいですね」
サラは、王都の復興具合を見て感心していた。都喰らいで都市が半壊した時もすぐに復旧したところをみると王国の技術というのは素晴らしいものを持っている。
そんなことを考えながら歩いていると、サラの目の前に見覚えのある人物がやってきた。
「アリシア様?」
「サラ様!!ご無事でよかったです」
「ありがとうございます。それより、どうしてここに?」
「実は、サラ様をお迎えに来たのです」
「お迎え?」
「はい、ギルド本部で緊急会議が開かれることになったのです。そこで、今回の当事者であるサラ様にも参加していただきたくて、こうして迎えに来ました」
サラは、心の中で溜め息を吐いた。ギルド本部には顔を出しにくい。
ただ、今回の事件には間違いなく黒幕がいる。
ザック単独での行動とは、到底考えられない。先程のザックの口ぶりからすると取引の相手がいたのだろう。考えられるとしたら王族内部か。サラは、しばらく考えた後、決心した。
「わかりました。行きましょう」
「ありがとうございます。それでは、馬車に乗ってください」
サラは、馬車に乗り込む。そして、しばらく揺られていると、見慣れた建物が見えた。ギルド本部【グランツ】だ。
◆ サラとアリシアは、ギルド本部の中に入って行く。中に入ると、多くの人たちが集まっており、その中にはティナの姿もあった。
「ティナ様も参加されるんですね」
「当事者だしね」
「それもそうですね」
サラとティナは、席に着いた。そして、ギルド本部長のラフィーネが壇上に上がった。
「皆様、急な招集に応じてくださり感謝します。今回は、緊急会議ということで集まってもらいました。議題はザック・アーベルの処遇についてです」
会場はざわつく。ザックの処遇については、誰もが気になっていることだ。
「ザックの処分は、ギルド本部で審議した結果、処刑ということになりました」
再び会場は騒ついた。ザックがやったことは許されぬ行為だ。
「静粛にお願いします。まだ話は終わっていません」
ラフィーネの言葉にみんなは黙る。
「ザックの処罰は、最終的には公開で執行されることになりました。これは、ザックの犯した罪を国民に知ってもらうためです。そして、この国の法に則り、国王陛下に三日後、ザックの刑の執行許可を貰うことになっています」
ザックの行った行為は、決して許されるものではない。
この国では、殺人などの犯罪を犯した者は、公開で罰せられる。それは、貴族でも同じだ。最終的には民に対する戒めのためだ。民の信頼というものは、一度失えば取り戻すことは容易ではない。
「それでは、何か質問はありますか?」
誰も手を挙げない。この場で発言することは、とても勇気が必要なことだ。
「では、これで解散となります。三日後の朝、ザックの刑が執行されます」
◆ サラは、屋敷の自室で休んでいた。すると、扉がノックされた。
「どうぞ」
入ってきたのは、アリシアだった。
屋敷に客人を通してるのであれば、一言欲しかった。サラは、散らかした部屋を見ながら思った。
「少しお話ししたいと思いまして」
「そうですか」
二人は、ソファーに座った。
「ザック・アーベルの件は、残念なことになってしまいました」
「ザックとはお知り合いなのですか?」
「えぇ、幼馴染で家族ぐるみで付き合いがありました」
「そうですか」
サラには、ザックに対する良い思い出がない。直近で思い出すのは、自分のことしか考えていない最低な人間だということだけである。
「サラ様は、これからどうするおつもりですか?」
「私は、ギルド本部で今回の事件の報告書を作成しようと思います」
ギルド本部に手を貸すのは癪だが、仕方のないことだ。
「ザックが変わってしまったのは、高等部に進学したあたりからです。その頃から、ザックは私を避けるようになりました」
アリシアは、昔を思い出しながら話し始めた。
「ザックの中等部時代は王国騎士団に入るために、日々努力しておりました。ただ、ザックの周りには所謂よくない遊びを教える輩が多くいました。私は、それが心配になり何度も注意しました。それでも、ザックは聞く耳を持たず、結局、今回の件が起こってしまいました」
「今回の件はその輩と繋がっているとアリシア様はお考えになられているということですか?」
「はい。ザックは、その者たちと繋がっていた可能性があります」
サラは、その可能性は高いと思った。ザック単身であんな魔法陣を組めるはずがない。上級生、学園内の関係者に唆されて犯行を行ったとサラはみていた。
アリシアは真っ直ぐこちらを見てサラにこう言った。
「ザックは罪を犯しましたが、ただちに処刑というのは早計でしょう」
「なぜです?」
「確かに今回の事件は、ザックの単独犯だとは考えられません。ザックの背後に誰かがいる可能性もあります。もし、ザックの背後の人物を捕まえることができれば、減刑を要求できるかもしれません」
「……なるほど」
サラは考えた。ザックの減刑を要求するには、残り三日で黒幕を炙り出し、国王の前に引き摺り出す必要がある。
「サラ様、私の力になっていただけないでしょうか?」
「アリシア様がザックを救いたいと思うのなら、協力しましょう」
「ありがとうございます。では、早速作戦会議を始めましょう」
サラとアリシアは、ザックを救うべく立ち上がった。
まずは、黒幕を見つけることが先決だ。黒幕さえわかれば……、ザックを魔物堕ちさせた手段もわかるかもしれない。
サラは別にザックを救いたいわけじゃなかった。
国の平和を乱す人間が、蜥蜴の尻尾切りのように、誰かを利用して今回の事件を起こしたのが、サラに取っては許しがたいことだったからだ。
「サラ様、私はザックの交友関係を手当たり次第調べますので、サラ様は学園内でザックと同じクラスだった生徒に聞き込みを行ってください」
「わかりました」