019. 事情聴取
◆ その後、サラとティナは無事に王都に戻ることが出来た。そして、ティナは国王陛下にこっぴどく叱られていた。
「この馬鹿娘が!!どうして【龍の巣】に行ったのだ!!」
「うぅ……、それは」
「一歩間違えば死んでいたかもしれないんだぞ!!」
「はい……」
「全くお前という奴は……」
しばらく説教が続き、やっと終わったと思ったら……、今度は王都【フォーリナー】での広範囲魔法の件についても言及され、さらに説教が長くなってしまった。
サラは、その様子を部屋の外で見ていたのだが、あまりにも長かったので部屋に戻って読書をしていた。
「サラ!!」
サラが本を読んでいると、突然扉が開かれてティナが入ってきた。
「説教は終わりですか?」
「うん、もう終わった。それより聞いてほしいことがあるの」
「なんでしょうか?」
「わたしね、今回のことで分かったの」
「何をですか?」
「わたしは、自分の力を過信していただけなんだって。今回だって、騎士団とサラがいなければきっと死んでたと思うの。だから、もっと強くならないとダメだなって思ったの」
「ティナ様は王女なんですから強くなる必要なんてないんですよ」
王族や貴族でそんな思想を持ってるのは、騎士団志望の人間くらいだ。特に、貴族は自分が守られて当然という考えを持ってる奴が多い。
だが、一国の王女が戦いに出向く必要はない。
王様があそこまでティナ様に口うるさいのは、きっと第一王女の件があったからだ。サラも何があったのか詳しくは知らないが……。
「サラにとってはそうかもしれない。でも、これからはただ守られるだけのお姫様じゃなくて、みんなを守れるような強い人になりたいの」
「……」
王族や貴族に少しでそのような思想があれば、この国は魔物の包囲から脱却し、平和と繁栄を築いていただろうなとサラは思った。でも、そんなのは幻想にすぎない。
「まあ、ティナ様はもう少し剣術を習われるべきだと思いますよ」
「えぇー!!」
「魔法の実力は私なんかより上なんですから……、王家の剣術と組み合わせれば、たとえ近距離になったとしても対処できますよ」
「そうかな……」
「はい、そうですとも」
サラは、ティナの頭を撫でる。ティナは、照れながらも抵抗はしない。
「さて、そろそろ寝ましょうか」
「そうだね!!」
◆ 次の日、サラは王都のギルドに向かっていた。ザック・アーベルの事情聴取を個人的にしたいと思ったからだ。受付嬢に聞くと、今は地下牢にいるらしい。
「すいません。面会したいのですが」
「はい、分かりました。では、この書類に記入してください」
サラは、渡された用紙に名前などを書いていく。
「それでは、こちらの階段から降りていただいて、奥の通路の突き当たりの部屋でお待ちください」
「わかりました」
サラは、言われた通りに階段を降りる。そして、一番奥の部屋にたどり着いた。中を覗くと変わり果てた様子のザックが怪訝な表情を浮かべサラを睨んできた。
「最悪だな」
「そうですか。ところで、あなたはどこであの魔法陣を手に入れたのですか?」
「知らねぇよ。俺はただやってもらっただけだ」
「誰にですか?」
「教えるわけないだろうが」
「そうですか。まぁいいです。あの【龍の巣】には、『刻龍』という名の龍がいると文献には残されていますが……、あなたは何か知ってますか?」
「昔、一度だけだが見たことはある。ただ、見たのは王都で一瞬の出来事だったけどな」
「都喰らいですか?」
「あぁ、その龍は、王都を破壊しようとした。その時に、王国が龍を封印したって話だ」
「なるほど。それまでの過程をご存じですか?」
「刻龍が王国全土を焼き尽くす前の時間稼ぎとして、王国騎士であるパラディンが駆り出された。国はその騎士を犠牲に刻龍を封印した。確か、名前は」
「レオン・ステラ」
「あぁ、その名前だ。なんだよ、知ってんのか」
サラは、少し悲しげな顔をする。そして、サラは本題に入る。
「なぜ、パラディンが死んだのか教えてくれませんか?」
兄さんがなぜそんな勝算もない戦いに挑んだのか……、サラが知っている兄は勝てない戦いに挑むような人じゃなかった。
「なんで、俺がそんなことを言わなくちゃいけないんだ?」
「別に答えなくても構いません。ただ、私は知りたいだけです」
「知らねぇよ。ただ、禁忌の魔法を使わされたってことだけは間違いない」
「誰にですか?」
「そこだけは分からない。でも、確実に言えることは、その魔法をもってしても刻龍は封印という形でしか封じされなかったということだ。もう一度、現れれば今度こそ一国が滅ぶだろうな」
「でしょうね」
それから、ザックは特に何も話すことなく天井を眺めている。
魔物堕ちの件で、ザックはアーベル家から追放されている。おそらくは、このまま奴隷落ちとなるか、死刑になるか、裁判の結果によって決まるだろう。
「非常に参考になりました」
「早く、出ていけ!」
サラは、部屋を出た。そして、受付嬢に礼を言い、ギルドを後にした。