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風魔法使いの兄妹は、王女殿下に恋をする  作者: ともP
第三章:魔物堕ち
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016. 討伐開始

◆ サラが教会に戻ると、ティナは地面に座り込んでいた。


「ティナ様、ご無事ですか?」


「う、うん、平気だけど……」


「どうかしましたか?」


「わたしのせいでサラが死んじゃうかと思ったら怖くて」


ティナの目からは涙が溢れ出していた。サラは、ティナの前にしゃがみ込むと、ティナの手を取った。


「私は死んでませんよ。ほら、ちゃんと生きてます」


サラは、ティナの手を自分の胸に押し付けた。ティナは、サラの顔を見てさらに泣いてしまった。


「本当に良かった……」


「ザックはどうなったの?」


「倒したザックには、心臓がありませんでした。魔物堕ちの儀式を行うには相当の魔力が必要になります。そんな場所――、ユグドラシルにはひとつしかありません」


「霊脈が流れている――、龍の巣」


「そういうことです。ザックは、魔物堕ちによって、完全に不死身の体を手にしている。今のうちに討伐隊を編成してもらって暴走を止めた方がいいでしょう」


「ええ、そうね」


ティナとサラは、急いで城に戻った。



◆ 王都郊外 上位の魔物たちが占拠している場所がある。


そこには、魔物と人間の死体が大量に転がっている。死体は全て首や手足が切断されている。魔物は、人間よりも力が強く頑丈だ。しかし、そんな魔物の首を全て切り落とすなどただの人間では絶対にできない芸当だ。


逆に――、魔物は人間の首を簡単に引きちぎれるほどの力を持っている。これが、昔から魔物が人間に勝てない力の差である。


「くそ……くそ……くそ……くそくそくそぉおおお!!!」


一人の男が声を荒げながら暴れまわっていた。


男の名は、バルバロッサ・レウス。今回の作戦の責任者であり、騎士団の団長代理である。代理は代理でしかない。俺には奴のような強さはない。


「くそっ! また、失敗だ!」


バルバロッサは、この膠着状態に苛立ちを隠せない様子だ。


「おい、お前はどう思う? こいつらの動きを封じることは可能だと思うか?」


「はい、問題ありません」


男の背後に立っていた女性が答えた。


「よし、なら作戦開始だ!」


男の合図と共に一斉に動き出す魔物たち。


「お前たちはここで待機していろ」


「畏まりました」


男が女性を残し、その場から姿を消した。女性は、静かに目を閉じて詠唱を始めた。


「我は、神の名のもとに命ずる。神の裁きをここに示せ」


女性の頭上に巨大な魔法陣が現れた。そして、そこから光が降り注ぐ。


「グギャアァッ!」


「ギィイイッ!」


魔物たちの断末魔の叫び声が響く。


「これでしばらくすれば大人しくなるはずです」


「よくやった。これで、ようやく俺も行動できる」


「どちらへ行かれるのですか?」


「ちょっとな」


「お供します」


「好きにしろ」


二人の男女が森の中へと消えていった。


◆ 翌日――、ザックが倒されてから数日が経ったが、未だに王都の人間は街から出ることはできないでいた。というのも、ザックの身体が魔物たちを引き寄せているからだ。


そのせいで、街の周辺には大量の魔物が徘徊してしまっている。


ザックも体が回復してないので動きはないが、このまま手を打たずに膠着状態になると、いずれ活動を再開し、また多くの犠牲を出す可能性がある。


「王都の皆様は中心部にお集まりください。ご家族で行動し、決して離れないようにお願いいたします」


街中に兵士の声が響き渡った。大勢の人々が不安そうな表情を浮かべていた。中には、既に子供を連れて避難を始めている者もいる。


アリシアが出来ることはそんな人たちに声をかけるくらいだった。


「大丈夫ですよ。必ず助けが来ますから」


アリシアは、そう言って励まし続けた。


「お姉ちゃん……」


「心配しないで。私が守ってあげるから」


「うん……」


子供たちは、怯えた目でアリシアを見つめていた。


「どうしてこんなことに……」


アリシアは、思わず呟いてしまった。すると、そこへ兵士がやってきた。


「すみません。アリシア様、こちらに避難して頂けますでしょうか?」


「はい、分かりました」


アリシアは、他の人たちと一緒に移動することにした。



◆ サラは、ティナと一緒に王宮【グラン・フォース】にいた。ここならば、王都の外の状況を見ることができる。


「状況はどうなってる?」


ティナが問いかけると、隣に座っている女性が立ち上がった。


「フォーリナーは完全に魔物に包囲されてしまいました。騎士団は王都の外部へいますので、現在は冒険者だけで対処するしかありません」


「そう簡単にはいかないよね」


「ええ、魔物の数は減っているように見えますが、それでもまだまだ大量に残っています」


「この様子だと儀式を行った魔法陣を破壊するのが先決でしょうね」


「サラ様のおっしゃる通りです。幸いにも龍の巣の位置は分かっておりますので、ギルド本部にも緊急の依頼を出していますので、そのうち魔法陣は破壊されると思います」


隣に、座っている女性は冷静にそう答えた。

サラが立ち上がると、ティナも一緒に立ち上がり、二人は部屋をこっそり出ていった。


「サラ様とティナ様はどちらに?」


「外の様子を見てきます」


「お気を付けくださいね。サラ様がいれば大丈夫だとは思いますが……」


サラは、一緒についてきたティナにこう言った。


「ティナ様が来る必要はないのですが……」


「龍の巣の場所分かんないでしょ?」


「はぁ……、仕方ありませんね。危険を感じたらすぐに逃げてくださいよ」


「ええ、分かったわ」



◆ サラとティナが外に出ようとした時、ちょうど王宮に来客がやってきた。


「ティナ様、少しよろしいでしょうか?」


「ええ、いいけど」


ティナがそう答えると、男は一礼してから話し始めた。


「魔物の数が想定していたよりも多く、このままでは我々だけでは対応しきれません。そこで、サラ様に援軍を要請したいと思いまして」


「そういうことなら、フォーリナーの魔物を一掃してからにしよっか」


「ティナ様、まさか大量に魔石手に入るじゃんラッキーと思ってませんか?」


「そ、そんなことはないよ!」


「怪しいですね。同行は私一人で行かせていただきますからね?」


「うぅ……そんなぁ」


ティナは、悲しそうな顔で項垂れてしまった。そんな顔をされても困る。


「条件を飲んでいただけるのであれば同行を許可しますが、いかがなさいますか?」


「なに?」


「ひとつ、この国の王女であるということを忘れずに行動すること」


「そんなことで良いの? もちろん忘れてなんかいないわ」


「ふたつ、私の視認できる範囲からいなくならないこと」


「それは……善処します」


「みっつ、絶対に無理しないこと」


「はい! 約束します! だから、お願い! 連れていって!」


「分かりました。ただし、本当に危なくなったら逃げてもらいますからね」


「ありがとう、サラ」


こうして、サラはティナを連れて、まずはフォーリナーに向かうことになった。

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