012. ギルド本部
◆ サラが向かったのは王都のギルド本部だ。ギルド支部の統括を担っている。
そして、この場所には、冒険者ギルドのトップが集まっている。とは言っても、トップは全て王族、貴族ばかり……、冒険者の経験があるものは誰ひとりもいない。
サラは扉を開け、ギルド本部の会議室に乗り込んだ。
「おぉ、サラ君か、ワイバーンの討伐を達成したという話は聞いたぞ。さすがだな!」
「ギルド本部は、ワイバーンについて知ってたんじゃないんですか?」
「ん? サラ君、何を言っているんだね?」
「とぼけないでください! 私たちはキメラの討伐任務を任されていたはずです。あんな場所にワイバーンが現れるのは非常事態のはずです」
「いや、それはこちらとしても調査を進めているところなんだが……」
「じゃあ、なぜ報告しなかったんですか!」
「だから、落ち着いてくれ」
「落ち着けるわけがないでしょう! 私は仲間を失ったんですよ! それなのに、どうして落ち着いてなんかいられるんですか!!」
サラの怒号にギルド本部統括は、ただ呆然としているだけだった。
「サラ君はあのワイバーンとキメラが暴れている森の中たった一人生き残った。君は我々王国にとっての英雄だ。パーティーメンバーなどいくらでも補充しよう」
「ふざけないで!!」
サラは、大声で怒鳴りつけた。しかし、ギルド本部長は表情を変えずに話を続ける。
「確かにワイバーンは出現してしまった。だが、それを倒したのは紛れもない君の実力だ。私たち本部の人間は君に『パラディン』の称号を授けようと考えている」
「そんなことのために、私の仲間を奪ったっていうんですか!」
「そんなこととは何事かね! 君は英雄として称えられるべき存在なのだ!」
「黙れ!! お前たちのせいでユリとシンは死んだ! お前たちのせいよ!」
サラは、涙を流しながら叫んだ。サラのその姿を見てもなおギルド本部長は、表情を変えることはなかった。
サラはその様子を見て全て察した。あぁ、こいつらは全ての冒険者を駒としてしか見ていない。弱ければ捨てゴマ、強ければ利用価値がある。
そして、強い奴には称号という名の縛りを設けて利用する。サラはグッと拳を握りしめて、頬から流れる涙を拭いながらハッキリとした口調でこう言った。
「私は『パラディン』の称号授与は放棄します。Aランク冒険者としての立場も剥奪で構いません」
「そうはいかない。君は、今までの功績が認められて『パラディン』になる権利を得たのだ。それを無下にするつもりか?」
「はい。そう言ったつもりです」
そして、サラはそのまま部屋を出ていこうとする。
「待て!」
出口に向かった足を止め、サラはギルド本部長の声を黙って聞いた。
「今回の件については本当に申し訳なかったと思っている。だが、これは王国のためでもある。わかってくれないか?」
サラは、振り返らずに去った。やはり、この国は終わっている。
◆ サラが去った後のギルド本部では、会議が行われていた。
「ギルド本部長、サラ・ステラをこのままにしておいて良いのでしょうか」
「仕方ないだろう。彼女は、我々の言うことを聞かないようだからな。サラ・ステラは王国唯一の風魔法使いだ。レオン・ステラから継承されてる能力――、お主も知っておるだろう?」
「ふんっ、あれほどの力があれば、この国の戦力としては十分すぎるほどだ。彼女の兄であるレオン様もまたとんでもない男だった。しかし、あれで完成じゃなかった」
「そう、サラ・ステラこそ王国騎士団の完成形なのだよ」
「まあ、その話はもういいだろう。それよりも次の議題に移ろうではないか」
こうして、サラのことは後回しになり、別の話題へと変わっていった。
◆ サラが向かったのは、いつもクエストを受けているお馴染みの冒険者ギルド支部。サラは冒険者としてのライセンスを返還する手続きをする為にここに来ていた。
「サラさん……、残念でしたね……」
受付嬢が気を使って話しかけてくるが、サラは何も答えられなかった。
(私は……これからどうすれば……)
サラは、途方に暮れていた。
「サラさん……」
受付嬢が心配そうな目で見つめてくる。そして、何を思ったのか突拍子もないことをサラに向かって言ってきた。
「サラさん、支部で一緒に働きませんか?」
「え……?」
「サラさんならすぐに人気者になれますよ! それに、サラさんはお強いし、冒険者からの熱い人望もあります!」
「でも……」
「私、ずっと前から思ってたんです。いつか、サラさんと一緒に仕事がしたいなって。だって、サラさんは冒険者の憧れですもん!」
「ありがとう。嬉しいわ」
サラは、少しだけ笑顔になった。
「そうだ、支部長に掛け合ってみます」
「え?」
「サラさんの気持ちを伝えればきっと大丈夫ですよ」
そして、サラはギルド支部長と始めて顔を合わせることになった。