010. 冒険者
◆ あれは私が冒険者時代の出来事。私は、とある村の依頼を受けて、そこに訪れていた。
依頼内容は、村の畑に突然現れる魔物の退治だ。
「これは……」
目の前にいるのは二足歩行の豚のような魔物だ。その醜悪な見た目は見る者に嫌悪感を与える。
「ガァアアアア!」
オークはこちらに気づくなり、雄叫びをあげた。
「あんまり時間をかけるわけにもいかないので、一瞬で終わらせてもらいます」
サラは、魔法詠唱を始める。
「我に仇なす敵を貫く槍となれ。風よ、我が敵を貫け!」
サラは、風魔法を放った。その一撃は、見事に命中する。
「グアアッ!!」
オークは断末魔をあげながらその場に倒れた。
「ふぅ……」
サラは、一仕事終えた後のように額の汗を拭いながら言った。
「流石は、Aランク冒険者の実力ね」
ユリはそう言いながら近づいてきた。
「でも、あまり一人で無茶をするのはよくないからね」
「この程度なら私ひとりで問題ないと思うけど……」
「油断は禁物よ。それに、あなたは私たちにとって本当に大切な仲間なんだから、もっと私たちを頼ってくれていいのよ?」
「以後、気をつけるようにするわ」
私たちは、その後村に被害が出ないように魔物の残骸を回収してから、依頼達成の報告をする。
その討伐数を聞いて受付嬢は驚きの声を漏らす。
「討伐数36体!?」
「えっと、そんなに多かったでしょうか?」
「多いですよ! 魔物の討伐依頼は確かにしましたが……、討伐して欲しいといったのは村に被害を与えているゴブリンだったはずです」
「それは……」
私は、視線を逸らす。すると、顔見知りのギルドの受付嬢がため息をついた。
「どうせ、サラさんが全て薙ぎ払ったのでしょう?」
「まあ、そうだったかもしれない」
「いいでしょう。今回はあなたのおかげで村は救われたので、報酬の上乗せはしておきます」
「ありがとうございます」
「ところで、これからどうするんですか?」
「どうするって?」
「いや、せっかく来たんだから観光くらいしていったらどうですか?」
「そうね。じゃあ少しだけ見て回りましょう」
私とユリは、受付嬢の提案を受け、久しぶりに王都を観光することにした。
「うーん、やっぱり王都は雰囲気が違うね」
「そうね」
「村に住んでるとこういう場所に一度でも住んでみたいって思うよね」
「そうね」
「ねえ、サラ。聞いてるの?」
「聞いているわ」
「本当に聞いてたのね」
「もちろんよ」
私は、ユリの言葉を聞き流す。なぜなら、今私の頭の中には別のことでいっぱいだからだ。
「おい! そこの女二人止まれ!」
私とユリが歩いていると、二人の男が立ち塞がってきた。ユリはサラの前に立ちふさがり、怪訝な表情を浮かべて男に言い返す。
「何でしょう?」
「俺らは盗賊団『赤蛇』のものだ」
「盗賊団……」
「そうだ。俺たちは金目のものを寄越せば命だけは助けてやるぞ」
「名乗らなくても知ってるから結構よ」
「なっ!」
「王都で盗賊なんて随分と生活に困ってるみたいね」
「黙れ!! お前ら、やっちまえ」
男たちは一斉に襲いかかってくる。
「全く……」
私は、魔法詠唱を始めた。
「我に仇なす敵を貫く槍となれ。風よ、我が敵を貫け!」
サラの放った風の槍は、男の衣服に突き刺さると同時に壁に突き刺さった。
「ぐあっ!」
「ううっ……」
男たちは壁に頭をぶつけて、そのまま気絶したようだ。
「ふう……、これで片付いたかし……」
その時、背後に気配を感じ、振り返るとそこには一人の男が立っていた。
「おっと、動くんじゃねぇぜ」
「あなたは……?」
「俺は、盗賊団のボスだ。よくも部下たちを殺してくれたな」
「殺してはないのだけれど」
「うるせぇ! てめえのせいでこちとら計画が台無しだ」
「計画?」
「そうだ。てめえらを攫って身代金を要求するつもりだったんだよ」
「私たち別に身代金を要求できるほど階級高くないし、意味ないわよ」
「関係あるか! こうなった以上、てめえも道連れにしてやるよ」
「そう。なら、あなたもあの世に送ってあげるわ」
私は、再び魔法詠唱を始める。だが、その前に相手が動き出した。男は懐からナイフを取り出す。
「死ねえええええ!!」
「遅い!」
私は、一瞬で相手の懐に入り込み、そのまま蹴り飛ばす。そして、間髪入れずに次の魔法を放つ。
「雷撃よ、敵を撃て!」
雷の魔法を受けた相手は感電し、その場に倒れる。
「これで終わりね」
「ちょっと、サラやり過ぎよ」
ユリがサラの魔法詠唱をストップさせる。そして、ユリが魔法で縄を生成したので、サラはそれで拘束した後、ギルドに連絡を入れる。
「例の盗賊捕まえておきましたよ」
「ありがとうございます」
「いえ、大したことはありませんよ」
「サラまさかとは思うけど盗賊に狙われてるの事前に知ってたんじゃないでしょうね?」
「なんのことかしら?」
「はぁ……、もういいわ。とりあえず、ギルドに行きましょう」
私たちは、ギルドに再び向かう。
「サラさん、ありがとうございました」
「当然のことをしたまでです」
受付嬢はお礼を言ってくれたが、そもそもこれは冒険者の領分じゃないと思う。こういうのは騎士団の仕事だろう。とはいえ、私たちがやったことは世の中的には間違っていない。
「平和になるのが一番だからね」
私は、そう呟いた。この国の平和はいつ訪れるのだろうか……。