表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

44/46

第四話 無料開放と従業員募集

 ルドルフがやってくれた。何をって、前に頼んでいた大きい方の仕事を完遂させたのだ。


 銭湯だよ、銭湯。


 源泉掛け流しの大公衆浴場で、男女とも五メートル四方の浴槽が三つずつ備えられている。露天風呂はないが、これだけの施設は聖教皇国中どこを探してもないそうだ。


 名前はキサラギ温泉『ニュー・キサラギ』。うっせ! いいんだよ、これが俺の持てるセンスってことだ。


 ま、そこは置いておいて、この規模になると湯の温度が下がるため、どうしても加温は必要になってくる。こっちの世界にボイラーなんてないから、薪を燃やして温めるしかないんだけどな。


「なんでしょう。体がポカポカ致しますわね」

「この温泉は冷え症にも効果がありますからね」


 経営を丸投げ、もとい、任せることになっているので、まずはキラカラン商会の会頭であるラミア嬢と、今回は男爵一家もお試し入浴に招待した。


 隣国の親善大使に対するおもてなしだが、聖教皇国は全く絡んでいない。アイツらに手柄なんて立てさせてやるものか。


「雪の中をわざわざ来た甲斐があったぞ!」


「そう言って頂けると、こちらとしてもお招きしてよかったと思います」

「こんなにいい温泉ですのに、入浴料は一時間で小銀貨五枚しか取れませんの?」


「ここは基本的に周辺住民たちに利用してもらうための施設ですからね。毎日は無理でも、気軽に来てもらいたいんですよ」


 日本円換算で五百円ほどではあるが、貧しい生活を余儀なくされている者も多い。だから毎日来るのが難しい村民もいるのだ。


「ですから一週間は付近の住民に無料開放しようと思ってます」

「後から有料にしたら文句が出ませんか?」


「そこは温泉、大丈夫ですよ。一度でもこの湯に浸かったら、本能が求めるようになりますから」


 ただし温泉には禁忌症と呼ばれる、入ってはいけない病気がある。主に急性疾患や進行性の疾患などがそれだ。病気ではないが、妊娠中も初期と末期にはオススメ出来ない。


「大事なところだな。娘よ、くれぐれも利用客への説明を怠ってはならんぞ」

「もちろんですわ、父上さま」


「それにしても、だ。キサラギ殿、やはり娘を側室に……」

「父上さま!!」


「あははは……ところでラミア様、ビリーはいかがですか?」


「はい。今はセルジオ、当商会の大番頭の許で修行中です。読み書き計算が出来る上に飲み込みも早く、とても真面目だと褒めておりましたわよ」

「それなら安心しました」


「コルタ教会にはあれほどのよい人材がまだ他にも?」

「子供たちにはシスターが交代で勉強を教えてますからね」


「そうでしたの。その子たちが成人する頃に、またご紹介頂きたいですわ」

「ありがとうございます。彼らの励みにもなると思います」


 そして話は温泉宿の方に移る。


 そちらはもっと先だと考えていたのだが、ニュー・キサラギの完成が思っていたよりもずっと早かったので、すでに建築が始まっていたのだ。


 予定では二カ月ほどで工事は完了するとのことだった。ルドルフ、優秀過ぎるよ。


「従業員の確保は進んでますか?」


「人事部門を設立して面接を進めております。連日多くの方が応募してこられているようですが、住み込みを希望する方がほとんどのようなのです」

「従業員用は三畳部屋が四つしかありませんからね」


「寮を建てようにも、現時点ではさすがにそこまでの投資は無理がありますので」


 寮費を取ったとしても、回収するまでには相当な時間がかかるだろう。それに初めから至れり尽くせりの環境を与えてしまうと、選民意識が芽生えてしまう可能性もある。


 つまり自分たちはエリートで、特別な存在だと誤解してしまうということだ。そうなれば村人とのいざこざが発生することも十分に考えられる。だから寮に関しては俺もまだ建てるべきではないと思った。


「コルタ村とキサ村にも求人を出してみてはいかがですか?」

「よろしいのですか?」


「ん? ダメと言った覚えはありませんが」

「いえ、コルタ村もキサ村もキサラギ様の管理下にあると思っておりましたので」


「ああ、確かに私の所有地内にありますが、コルタ村は私が来る前からありましたし、キサ村の住民からも土地の使用料をもらっているだけで、自治には関与してないんですよ」


 トラブルが起こっても、コルタ村や教会に迷惑をかけない限りこちらは手出しをしないと伝えてある。そして俺がしゃしゃり出る時は、退居を命じる時だと脅しもかけておいた。


 ただし、今後は彼らにも店を出したりする権利を与えようと思っている。料理屋についてはコルタ村に一軒あるので、そちらと潰し合いにならないように許可は出さなかったが、人の往来が増えてくれば話は変わってくる。


「そういうことでしたら、村にも求人をかけさせて頂きますわ」


「ここで働く予定の従業員たちのために、無料開放期間の一週間を研修に使って下さい」

「そうさせて頂きます。ビリーさんにも参加してもらいましょうか」


「そうですね。彼なら教会で寝泊まり出来ますし、久しぶりに皆とも会えるのでやる気も出ると思います」


 ビリーは現在、皇都の商会本部に住み込みで修行しているのである。


 それと従業員の通勤にも、専用の駅馬車や馬そりを走らせることを提案した。送迎があれば、より通勤が楽になるからだ。むろん、利用者は従業員なのだから運賃は無料である。


「では十日後にまずは無料開放ですわね」

「ニュー・キサラギが有名になって、レイタビーク線が賑わうことを祈ってます」


 そして翌日には、館長とビリーを含めた総勢八人の従業員たちが、施設での研修に訪れるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ